新ナニワ金融道(青木雄二プロダクション、Kindle版)は、大ヒットした青木雄二さんの金融漫画『ナニワ金融道』の続編です。貸金業法改正があり債権回収など以前に比べて厳しくなる中、知恵を絞って手強い相手と丁々発止と切り結んでいます。
ナニワ金融道、新ナニワ金融道とも、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれていたので、今回改めて読みご紹介することにしました。
『ナニワ金融道』とはなんだ
『ナニワ金融道』は全19巻。
AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
今回、私が読んだのは、続編の『新ナニワ金融道』ですが、やはりもとの作品に触れておきましょう。
5億稼いだ街金漫画
『ナニワ金融道』は、1990年~1996年まで『モーニング』(講談社)にて連載された人気漫画です。
金融業界と、街金(中小規模消費者金融)に手を出さざるをえない弱者の社会的不遇さと愚かさを描きました。
2020年11月時点で累計発行部数は1600万部を突破しているといい、作者の青木雄二さん(1945年6月9日~2003年9月5日)によれば、5億円稼いだといいます。
大金持ちのマルクス主義者として、漫画家引退後もエッセイや講演活動を行っていました。
マルクス主義とは遠いところにいるはずのホリエモンこと堀江貴文さんも、本作を『稼ぐが勝ち』という自著で評価しています。
中居正広さん主演で、単発不定期に6度、テレビドラマ化(1996年2月16日~2005年1月3日、フジテレビ)されさました。
緒形拳さんも社長役で出演。懐かしいですね。
ですから、多くの方はご存知かと思いますが、改めてストーリーを追います。
面白くてタメになってエロ、そして切ない
零細企業で働いていた灰原達之は、資金繰りに困っていた社長のために自分の健康保険証を使い、サラ金から金を借りて資金繰りに協力しましたが、その甲斐もなく会社は不渡りを出して倒産してしまいました。
それどころか、街金から金をつまんだ(借金した)記録が残っているため、再就職もままなりません。
やっと雇ってもらえたのが、帝国金融というマチ金(中小規模消費者金融)でした。
先輩社員の桑田澄男と回収に行った町工場の一家からは、公務員の娘にも負担させ、娘は水商売に転職。
それでも、終始気を使ってくれた灰原達之を一家は食事に招きますが、灰原達之は金融屋として生きて行くからと、結局それを辞退します。
以後、灰原達之は葛藤しながらも、困って借りにきた人を会社の利益のために身ぐるみ剥がし、女性は風俗に沈めていくのです。
『ナニワ金融道』が大ヒットした理由を改めて考えてみると、以下のことが枚挙できます。
- 闇金融というそれまで描かれたことのなかった世界が舞台だったこと。
- 『仁義なき戦い』のような“様式美”として極端な表現の大阪弁が使われマチ金の世界の独自性が演出されていたこと(会話の中にいちいち「お前ダボか」などと入れるなど)
- 設定や登場人物名がエロと皮肉で貫かれていること
- 灰原達之は人格的には極悪人ではないけど葛藤の末仕事を遂行していること
ネットのコンテンツの極意にも通じる、面白くてタメになってエロ、という3拍子が揃い、さらに切なさが加わったからだと思います。
たとえば、街金から借りることを「つまむ」と表現したり、地上げや逆にそれを阻止したりする方法を描いた作品は、『ナニワ金融道』が初めてではないでしょうか。
帝国金融はその都度、本来の融資額の利息以上の利益をあげます。
美味しそうなところにはしっかり貸して、たっぷりおいしいものをくっつけてもらってから剥がす「金融屋」の手法は、毎話刮目させられました。
登場人物の命名がまたすごいんです。
肉欲棒太郎(にくよくぼうたろう)
銭田掏二朗(せんだずりじろう)
浦切平基(うらぎりへいき)……
などなど。
フグの店の屋号は、痙攣(けいれん)屋、ビジネスホテルの名は「カラ出張」などとつけています。
あとは、オ×コ商事とかね。
もちろん、「×」のところは漫画の中ではちゃんと文字が入っています。
クスッと笑ってしまいますよね。
ちょっとした面白さではありますが、ボディーブローのように作品評価には反映されますね。
細かく描くのは大阪の文化?
画風は、固いです。
そして細かい。
『巨人の星』の川崎のぼるさんもそうでしたが、大阪の漫画家は、細かく描く文化があるのでしょうか。
スクリーントーンを使わず、手書きをしている、というエピソードもありましたね。
その結果、青木雄二さんは腱鞘炎になり、腕は無感覚になって、スタッフの人が腕の上に乗っても何も感じないぐらいになったとか。
壮絶ではありますが、それほどまで漫画描きに頑張ったんだという証ですから、職業病というのは勲章でもありますね。
作家の重松清さんが、署名の作家としての仕事だけでなく、無署名のフリーライターの仕事も断らずにバンバン受けたことで、キーボードの文字が擦り切れて見えないほどになった、というエピソードを知り、それは自分もあやかりたいと頑張ったのですが、私のマシンのキーボードは、未だに綺麗に表示が見えます(汗)
マルクス主義者だからこそあそこまで描けた
ところで、上掲の堀江貴文さんですが、上掲の『稼ぐが勝ち』では、惜しむらくは青木雄二さんがマルクス主義者である、という書き方をしています。
つまり、もし青木雄二さんが資本主義のファンだったら、『ナニワ金融道』はさらに完成度の高い作品になったのではないか、ということらしい。
堀江貴文さん、それは違うでしょう。
堀江貴文さんは、手形や地上げの仕組みや方法など、お金を転がすうわべのテクニックの部分しか興味がないから、その程度の感想になっていまうのです。
いいですか。
青木雄二さんが『ナニワ金融道』で一番描きたかったのは、お金に翻弄される「人」ですよ。
そして、「そこまで描くか」といいたくなるほど、えげつなく人の転落を描きました。
青木雄二さんは、マルクス主義者だからこそ、“資本主義の闇”に泣く人々を容赦なく描けたのです。
これが、資本主義大好きの人だったら、そこまで「闇」は描けなかったでしょう。
新の意味
そして、登場人物や設定は引き継がれた、すなわち続編として発表されたのが『新ナニワ金融道』です。
こちらも単行本で全20巻あります。
AmazonUnlimited読み放題リストに含まれています。
『新ナニワ金融道』は、2007年に開始され、2016年に終了しました。
なぜ『新』なのか。
ひとつは、青木雄二さんが物故され、作者名が青木雄二プロダクションになったことです。
もっとも、絵柄は基本的に変わりませんから、もとナニワ金融道時代から、同じスタッフが描いていた可能性は高いですね。
もうひとつは、貸金業法が2006年12月に抜本改正され、段階的に施行後、2010年6月に完全施行されました。
そのため、オリジナルと同じ手法は使えなくなってしまったのです。
そこで『新』では、主役の灰原達之が、二人三脚でやってきた桑田澄男の新会社ナニワ金融に移籍。
表向きは金融会社でありながら、法律で禁じられている債権回収業を行うという設定でストーリーが展開します。
ストーリーは、正編に比べるとえげつない結末は減っています。
そして、正編をフォローアップしている面もあります。
たとえば、肉欲望太郎は、地上げ屋だった正編で、灰原達之の仕組んだ筋書きにより、せっかくのビルを手放して夜逃げしてしまいます。
それが、続編でまた登場。
いったんは怨念で復讐を挑みます。といっもてもちろん商売でですが。
それが結局、どちらもある程度の利益を得て、肉欲望太郎も背負ってきた憎しみという重荷を背中から下ろすことにしました。
つまり、ウインウインのハッピーエンドです。
また、商品取引に騙された上に帝国金融から身ぐるみ剥がされた婿養子の校長先生も再登場。
ホームレスになって自分の居場所を見つけ、灰原達之側の援護射撃をします。
いずれも、作者は変わっているはずなのに、全く違和感なく「その後」として読めました。
漫画とは言いながらも、あまりにも非情な結末が、続編で救われているというのはいいですね。
続編を未見の方はもちろん、正編も未見の方は、この際、正続編全39巻、すべて読まれてはいかがでしょうか。
なお、本作はその後更に、『新ナニワ金融道R』『ザ・ナニワ金融道』『新ナニワ金融道外伝』『新ナニワ金融道外伝ファイナル』『ナニワ金融道的な日常』など、スピンオフ作品も含めると5作も続いています。
以上、新ナニワ金融道(青木雄二プロダクション、Kindle版)は、大ヒットした青木雄二さんの金融漫画『ナニワ金融道』の続編です、でした。
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