『真相究明!!和歌山毒入りカレー集団殺人事件』（画:桐野さおり/原作:有田万里、Kindle版）をご紹介します。1998年に起こった和歌山毒物カレー事件の漫画化ですが、一部で言われている、実は真犯人は別にいるのではないか、という視点で事件を振り返っています。
和歌山毒入りカレー集団殺人事件とはなんだ
和歌山毒入りカレー集団殺人事件というのは、1998年7月25日、和歌山市園部地区の夏祭りに出されたカレーライスを食べた住民4人が死亡し、63人が急性ヒ素中毒になった事件です。
提供されたカレーライスに亜ヒ酸が入れられており、和歌山毒物混入カレー事件といわれています。
事件は凶悪犯罪ですが、「動機なし、自白なし、物証なし」のまま林眞須美容疑者が起訴され、死刑判決が下されました。
物的証拠もなく自白の強要で……という冤罪事件は過去にもありますが、本件は事件への関与を裏付ける根拠が何一つないまま死刑判決に至るという、稀有な事件です。
何より、マスコミの事件の報じ方が派手なので未だに印象に残っています。
ワイドショーなどメディアが、林真須美死刑囚について、“推定無罪”の段階からその一挙手一投足を面白おかしく追い続け、毒婦然とした怪しいキャラクターを演出した「カレー狂想曲」は今も後味悪く記憶に残っています。
マスコミの、狙いを定めたらその人を徹底的に叩くという方法論は、真相に関係なく、そもそも国民に真面目に考える能力をそぎ取る役割を果たすものです。
本書は、同事件『真相究明!!和歌山毒入りカレー集団殺人事件』（画:桐野さおり/原作:有田万里、Kindle版）を漫画で描いています。
以下のツイートをクリックすると、マンガ図書館Zに入り無料で閲覧できます。
??マンガを無料で読んで作家を応援！??
『ザ・女の事件スペシャル Vol.1 真相究明!!和歌山毒入りカレー集団殺人事件』 ( #桐野さおり #有田万里 )
Ｗ県Ｗ市ののどかな田舎町。両親に結婚の報告をするため…#マンガ図書館Z #漫画 #無料漫画https://t.co/yilbfDl4Pq— 【公式】マンガ図書館Z (@Manga_Z_) October 6, 2019
本書の内容
「動機なし、自白なし、物証なし」と書きましたが、ではなぜそこで林真須美死刑囚に行き着いたのか。
本書ではその経過が描かれています。
林眞須美夫妻は、後に放火で全焼しますが、地域では目立つ豪邸に住んでいました。
夫妻の近所の評判は、夫妻に非常識なふるまいがあったことや、おそらくは「金持ち」に対する嫉妬もあったのか、最悪でした。
カレーづくりの現場にいたとされる目撃証言には、「辻褄の合わない証言も多く、関係者から疑問視されるケースもある」（Wikiより）といいます。
つまり、地域住民の「好き嫌い」によって「毒婦」とされ、林眞須美夫妻に対するバイアスのかかった感情的な証言があったことが想像できます。
真相に関わらず、そのようなアプローチが間違いであることはいうまでもありません。
テレビのワイドショーは、そんな近所の聞き込みから林眞須美死刑囚を犯人と見立て、有名ブランドのロゴが入っているTシャツを着た林死刑囚が、自宅を取り囲む報道関係者たちに、ホースで放水している姿を連日何度も繰り返し報じ、視聴者に対する悪い印象を刷り込みました。
そして、林夫妻宅にはヒ素がありました。
また、豪邸は、保険外交員である林眞須美死刑囚夫妻による事故を装った保険金詐欺であるかのような報道もありました。
しかし、だからといって、それらは、林真須美死刑囚がカレーにヒ素を入れたという証拠にはなりません。
林真須美死刑囚をかばうわけではなく、保険金詐欺をはたらくような人は、保険金がおりたら（いざお金が入ったら）考えが急に変わって、もっと刹那的な使い方をすることだってありえます。
もうひとつ、漫画には描かれていませんが、ネットでは林真須美死刑囚が在日韓国人で（←これ自体未確認）あるとして、嫌韓感情から悪く言う論調もあります。
もうここまで来ると、事件の真相とは無関係ですね。
本書は、ある女子高校生を主人公に事件を描き、林真須美死刑囚の夫の犯行を疑わせる描き方になっています。
さて、みなさんはどう考えになりますか。
誰でも「林真須美」になり得る、私だって……
この事件は、
- 「動機なし、自白なし、物証なし」のまま死刑判決に至ったこと
- メディアの報道が常軌を逸しており、「撮影や描画された側の人物が社会生活上の我慢の限度を超える」違法なものと最高裁に判断されるものもあったこと
という、2つの問題点がありました。
とくに「2」については、後に他人事とは思えなくなり、この事件には関心を持つようになりました。
9年前、私が火災を経験したとき、当日は他に大きなニュースがなかったのか、私はその日のネット掲示板の主役になってしまいました。
私の著述活動の一部が、恨まれて火をつけられたという憶測がありましが、それはまだいいでしょう。
子どもがキラキラネームだの、年をとってからやっと授かった子どもなのに可愛そうだの、といった大きなお世話もまあ、世間の関心なんてそんなものということでしょう。
問題は、私が犯人ではないかという話で盛り上がり、それを見たのか、もしくはもともとそちらが源泉だったのかはわかりませんが、興奮した近所の人々の中には、私が火の出ていた現場から飛び出してきた（つまり私が火をつけた）などと証言した人がいたことです。
私は出火当時現場にはおりませんでした。
いたら消してるでしょう。
おかけで、私はしばらくのあいだ、マスコミにパパラッチをされました。
NHKと日本テレビは、報道局の人が名刺を持って実家まで訪ねてきました。
ドアを閉めようと思っても、「少しだけお話を」と食い下がり、玄関にあった、長男が幼稚園のときにのっていた自転車の写真を撮っていきました。
こっちは、妻が心肺停止、子どもたちも深昏睡で、それどころじゃないのに……。
おかげで我が家の火災は、2日またぎでNHKで報道されました。
政治家でも芸能人でもない一般人の火災2日目を、なんで昼のニュースでどーんと報じる必要があったのか。
そこに事件性を疑ったからでしょう。
さらに、毎日新聞などは、長男が通っていた小学校名まで明かしたため、週刊誌の記者が長男の同級生の祖母にまで掛け合って長男の写真をよこせと食い下がるトラブルがあり、小学校では集団登下校の措置が取られました。
それだけ騒ぎになると、それか既成事実になり、「火のないところに煙はたたず」などと、マスコミに狙われるにはそれなりの理由があるのだろう、などと思われるようになります。
冤罪や報道被害というのは、こうやって作られていくのだなあと実感しました。
メディアを鵜呑みにしない「なぜ」と問う心を持て
私が経験したことは、私だけのことではないでしょう。
誰でも、何かあれば「林真須美」や「草野直樹」になってしまう可能性があるのだ、ということです。
あるテーマで、学者と一般の人たちが語らう懇親会があり、日本学術会議（学者の国会）の委員だった池内了さんが、カレー事件について触れたことがあります。
林真須美（当時）容疑者の犯行であるかどうか決めつけないで、「すべてを疑え」の精神が大切だという話だったのですが、一般の人たちが、「どうしてそんなこと言うのだろう」と、それを理解できなかった様子でした。
事件の詳細を知らない一般の人が、林真須美犯行説を揺るぎないものとするのは、マスコミ報道による影響が大きかったのだなと思いました。
もし、なんの先入観もなければ、「疑わしきは被告人の利益に」の大原則を素直に適用して、犯人とするのは無理では、と考えるほうが道理だと思います。
ですから、ワイドショーの報道は万死に値するものだったと思います。
そして、何でもネット掲示板の無責任な書き込みを額面通り信じて完結する軽率な方々も、心を入れ替えることをおすすめします。
カレー事件の真相はわかりませんが、いずれにせよ、どんなことであっても、メディアに引きずられず、事実と道理で真相にアプローチできる理性はもっていたいですね。
以上、『真相究明!!和歌山毒入りカレー集団殺人事件』（画:桐野さおり/原作:有田万里、Kindle版）で草野直樹の冤罪経験を思い出した、でした。
真相究明!!和歌山毒入りカレー集団殺人事件／ザ・女の事件スペシャルVol.1 (スキャンダラス・レディース・シリーズ) – 桐野 さおり, 有田 万里
コメント