痛みの価値(市瀬英俊著、双葉社)は、週刊プロレス記者時代に経験した全日本プロレスの試合とその背景を振り返る書籍です。

この記事は約8分で読めます。
スポンサーリンク

痛みの価値(市瀬英俊著、双葉社)は、週刊プロレス記者時代に経験した全日本プロレスの試合とその背景を振り返る書籍です。

痛みの価値(市瀬英俊著、双葉社)は、週刊プロレス記者時代に経験した全日本プロレスの試合とその背景を振り返る書籍です。個人的に興味深かったのは、メガネスーパー(SWS)のプロレス参入に対する、激しく対立したメディア側の率直な見解です。

『痛みの価値』は、元週刊プロレス全日本担当記者の市瀬英俊さんが、双葉社から上梓した書籍です。

馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」舞台裏、というサブタイトルが付いています。

しかし、「問題マッチ」といっても、マニアの一部が喜ぶような不穏試合ではありません。

全日本プロレスのリングに上がっていた長州力さんらがUターンした後、天龍源一郎さんが「輪島と闘いたい」と、新たに全日本プロレスに闘いを求めた時期、メガネスーパーがプロレスに参入しSWSを設立したものの、週刊プロレスは大バッシングを繰り広げた時期、そして四天王プロレスの時期と、全日本プロレスと週刊プロレスがもっとも熱かった時期の回顧録です。

『痛みの価値』は、2022年7月6日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

スポンサーリンク

レスラーたちは田中八郎さんというタニマチにタカっただけ

いきなり核心に迫ってしまいますが、本書を読みたかった一番の理由から述べます。

メガネスーパーが、1990年にSWS(メガネスーパー・ワールド・スポーツ)を立ち上げた際、週刊プロレスは大バッシングしました。

その方針は、もっぱら編集長のターザン山本さんによるものと思われるし、事実、ターザン山本さんは当時のことを回顧してもいます。

『「金権編集長」ザンゲ録』(文藝春秋社)は、ターザン山本がプロレスの雑誌編集者&ライター時代のブラックな金のやり取り告白
『「金権編集長」ザンゲ録』(文藝春秋社)は、ターザン山本がプロレスの雑誌編集者&ライター時代のブラックな金のやり取りを告白した書物である。「お車代」は複数の団体からもらったが、いちばんもらっていたのは、因縁深いあの団体だったという。…

それはそれとして、では全日本プロレス担当の市瀬英俊さんは、メガネスーパーが累計99億円使ったプロレス団体、SWSをどう考えていたのか、興味がありました。

そして、結論から述べると、ポンと膝を打ち、快哉を叫びたくなる名回答を述べていました。

本書から、少し長くなりますが引用します。

SWSの設立記者会見の席上、田中社長は次のように言った。
〈今回、プロレスをやるということに対して、社内では相当な反対がありました。これは事実です。メガネとプロレスを考えた場合、メリットがないという意見も役員の中にはありました〉(週刊プロレス90年5月9日号より。以下同)
〈宣伝効果がどうかと考えた場合にも、全体として費用は60~70億ぐらいかかると思いますが、メガネスーパーとプロレスをつないでも、直接我が社にはメリットがないという声もありました〉
〈その中で私があえて踏み切ったのは…利益は出ない、宣伝効果もお金をかける割にはない、ましてや新しい分野ということで危険の方が大きすぎるという中で、私が社内の役員を押さえたのは、これはあくまでも私の男のロマンだと〉
〈男のロマンだから許してもらいたいと、私は役員に頭を下げました〉
 そうまでしてプロレス界に投資する社長、と考えれば文句なしの美 談である。だが、利益が出ない、宣伝効果も乏しいというのが冷静な 「企業判断」だとするならば、田中社長が下した決断は究極の「タニマチ行為」だとは言えないだろうか。 果たして、SWSとは正真正銘の「企業プロレス」だったのだろうか。 私は「ノー」だと思った。その違和感こそがSWSの危うさだと感じた。だから、なりふり構わず天龍を支持することはできなかった。
 田中社長は稀有な存在だったのだ。
 したがって、「週プロの報道姿勢がメガネスーパーに続く大企業のプロレス界参入を阻害した」とする批判は的を射ていない。 私はそう考えている。
 さて、SWSの解散を機にプロレス界から身を引いた 田中社長だったが、2000年の暮れ、ベースボール・マガジン社が発行した『週刊プロレススペシャル3』でインタビューに応じた。その中で田中社長は、当初の構想が3年から5年かけてじっくり若手を育てていくような団体であったことを明かしている。さらにそこで語られた次の言葉をもってこの項を締めくくりたい。
〈私の考えていた団体とはちょっと違う方向に行っちゃった〉

要するに、新しいプロレス団体の形(企業プロレス)を装っても、ただのタニマチプロレスだったのではないか。

レスラーたちは、田中八郎さんというタニマチにタカっただけではないのか。

天龍源一郎よ。それが、全日本プロレスをやめてまでしたいことだったのか。

それはひっきょう、金目的の金権プロレスではないのか。

市瀬英俊さんは、そう言っているのです。

だって、企業プロレスというのなら、親会社としてのメリットがなければ参入できないでしょう。

そして、厳しく採算を考え効果のある投資をして、団体としての方向性をしっかり打ち出して、何よりも、オーナー(田中八郎さん)が中途半端に口を出さず、現場のことは団体に任せるでしょう。

市瀬英俊さんの批判は、週刊プロレスがSWSつぶしの急先鋒のように言われたことに対する、言い訳や開き直りではなかったことは、すでにSWSに天龍源一郎さんを引き抜いた桜田一男さんが告白していることでも明らかです。

『ケンドー・ナガサキ自伝』(桜田一男著、辰巳出版)によれば、桜田一男さんはSWS崩壊の原因をこう述べています。

  1. SWSは売り興行ができなかった
  2. もともと悪かったレスラー間の関係は、ドン荒川がけしかけて北尾光司に騒動を起こさせたことで一層ギクシャクした
  3. 阿修羅原の入団で“反天龍”の機運が高まった
  4. エースで役員レスラーの天龍源一郎に団体運営のビジョンがなかった

ファンは心優しくて、とくに一番下の「4」を指摘する人はいなかったのです。

ですから、レスラーの側からこの指摘があったのは新鮮でかつ説得力がありました。

また、プロレス団体として「1」もおかしい。

三流レスラーに契約金をはずんで引き抜くのなら、売り興行をできるようなスタッフを集めるべきだったのではないでしょうか。

つまり、SWSはビジネスとしてのテイをなしていなかったということです。

部屋制度が話題になりましたが、天龍源一郎やジョージ高野はともかくとして、若松市政をトップに持ってくる時点で、どの程度のプロレスか、なんとなく想像がつくのではないでしょうか。

げんに開幕戦。

ヘトヘトになった若松市政は、涼しい顔をしている対戦相手の新倉史祐に、まるでへばりつくようにコブラツイストをかけさせてもらって勝つという、説得力がまるでない、プロレスを舐めた試合をしたことが、週刊プロレスのグラビアページに載っていたではありませんか。

引用した市瀬英俊さんの見解を読み、「そうだよ、そのとおりだよ」とすっきりしました。

マニアは熱心だけれど思考停止?

いまだに、SWSが成功しなかったのは、ターザン山本が叩いたからだとか、ジャイアント馬場がマンションを買ってやったからだ、なんて言ってるマニアがいますが、どうして自分の頭で考えないのかなと思います。

だったら、あなた方は、ターザン山本さんが書いたことは何でも信じるのですか。

たしかに、ターザン山本さんが編集長の頃の週刊プロレスは面白かった。

私も、当時は毎週楽しみでした。

でも、「面白い」ことと「正しい」ことは、イコールではないですよね。

いちいち鵜呑みにしないで、そこから真実を読み解く論考力があってもいいのではないでしょうか。

たとえば、ザ・グレート・カブキさんが、報酬のアップは500円だったというと、疑いもせずそれをプ板に拡散する。

そんなもの、明細を見なければ真実なんてわからないのに。

新日本プロレスの方がギャラが高いという話も、SWS裁判で引き抜かれたレスラーの報酬が明らかになり、実は同格なら全日本プロレスのレスラーのほうが高かったことが、『実録 プロレス裁判』(宝島社)で明らかにされています。

たとえば、新日本プロレスでは、移籍直前(1990年1月)までIWGPジュニアヘビー級チャンピオンだった佐野直喜(現・佐野巧真)が344万6205円。

一方、全日本プロレスで、やはり世界ジュニアヘビー級チャンピオンを短期間つとめた仲野真市は628万円です。

この差はいったい何なんでしょうか。

ジュニアヘビー級もヘビー級も、素顔も覆面(ザ・コブラ)もこなしたジョージ高野クラスで772万5000円、全日本プロレスで、それとほぼ同額のギャラは鶴見五郎の735万2000円、冬木弘道702万円でした。

鶴見五郎は、ジムの経営があったために所属契約は結んでおらず、年間興行全試合は出ていません。

全日本プロレスは1試合いくらの報酬ですから、もし鶴見五郎が全試合出ていたら、ジョージ高野も抜いていました。

同書は、「『ケチ』と言われ続けた馬場全日本の給与体系が、いかに恵まれたものであったか」と結んでいます。

ノアの分裂に至った一因として、馬場元子さんが、パチンコのキャラクター企画を、全日本プロレスではなく、ジャイアント馬場の資産管理会社であるオフィスビーが請けるといったので、百田光雄さんや三沢光晴さんらが白けておじゃんになった、馬場元子はがめつい、という話もあります。

でも、一方で、ジャイアント馬場は、社用であっても全日本プロレスではほぼ領収書はきらず、オフィスビーから出金した、という和田京平さんの話もあります。

要するに、馬場元子さんは、全日本のためにオフィスビーからずいぶんお金を使っているのだから、儲かるときは入れて頂戴、ということだったのでしょう。

たしか、オフィスビーは多額の負債で会社は潰れていますよね。

つまり、馬場夫妻は全日本プロレスの経費を個人として背負ったまま、回収はしていなかったということです。

一部のマニアの人達ね、たとえばそうした経理や金銭の話をしたかったら、一方の話をうのみにするのではなく、きちんと裏を取るべきだと思います。

プロレスマニアは、関係書物等には目を皿のようにして熟読する熱心さがあるのですが、それに対する懐疑や批判や裏とりをしないところが思考停止ですね。

本書を読んで、そんなふうに思いました。

以上、痛みの価値(市瀬英俊著、双葉社)は、週刊プロレス記者時代に経験した全日本プロレスの試合とその背景を振り返る書籍です。でした。

プロレス激活字シリーズvol.1 痛みの価値 馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」舞台裏 - 市瀬英俊
プロレス激活字シリーズvol.1 痛みの価値 馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」舞台裏 – 市瀬英俊

プロレス激活字シリーズvol.1 痛みの価値 馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」舞台裏【電子書籍】[ 市瀬英俊 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア
プロレス激活字シリーズvol.1 痛みの価値 馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」舞台裏【電子書籍】[ 市瀬英俊 ] – 楽天Kobo電子書籍ストア

コメント