図解30分でわかる日本が財政破綻しないたしかな理由(川村史朗著、文芸社)は、Modern Monetary Theory〈MMT〉の本当の説明、というサブタイトルが付いているように、現代の通貨発行システムについて、誤解されている点を中心に解説されています。
『図解30分でわかる日本が財政破綻しないたしかな理由』は、川村史朗さんが文芸社から上梓しています。
『Modern Monetary Theory〈MMT〉の本当の説明』というサブタイトルがついています。
「本当の説明」というように、ともすれば誤解されがちな現代の通貨発行システム、否定的な意見が少なくない現代貨幣論(MMT)について、誤解を解いて「本当」の道筋を掃き清めるためのKindle書籍です。
本書は2022年8月10日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
現代貨幣論(MMT)の必要十分なキーワード満載
本書は、次の内容で構成されています。
目次からご紹介します。
お金とは何なのか?
思い込みのお金の仕組み
現代の通貨発行システム
国債とは何なのか
デフレとインフレの本質
デフレから立ち直る唯一の方法
適切なインフレの効果
「プライマリーバランス」は改善しなくて良いのか?
なぜ、アベノミクスで株価が上昇したのか?
ギリシャはなぜ財政破綻したのか?
MMTに対する批判
国債発行はハイパーインフレを引き起こす!?
日本は多額の国債を発行できる特別な国
MMTは財政破綻の延命措置!?
インフレは急に止められない!?
お金についてちゃんと理解した時、なにが変わるか?
消費税減税は国債発行と同じ効果
少子高齢化はデフレの産物
国債発行は為替相場を混乱させる?
デフレの今こそ国を変えるチャンス
仮想通貨の本質
MMTが理解されれば国が変わる
おわりに
「30分」とタイトルで銘打っているように、必要十分な構成です。
お金とは何なのか?
お金はもともとどうやって生み出されるのか。
本書はそこから入ります。
お金はないところから突然生み出される、それが現在の貨幣システムの事実なのです。
具体的には、政府の国債発行、金融機関の信用創造などを指します。
信用創造というのは、いちいちお金を刷らずに、通帳や借用証書などで数字でお金を作ってしまうことです。
たとえば、銀行は、お金を借りたい人に対して、誰かが預けたお金を又貸ししてお金を回しているのではなく、持ってない金額でも通帳に数字を入力できます。
「100万円を貸す」という行為は、正確には「100万円を発行する」と表現すべきかもしれません。
そうやって、銀行はお金を作り出せます。
国債は、政府の債務(いわゆる借金)という体裁で発行されます。
政府が借金をしたということは、同額の通貨が日本円で生み出されたわけです。
その際も、日本銀行は誰かのお金を政府に又貸ししたわけではなく、ここでも信用創造で政府に供給して民間に回していると本書は注釈します。
ことほどさように、お金は、誰かがお金を借りることで生まれ、信用創造で増えていきます。
逆に言えば、借りた人がお金を返してしまったら、それはなくなります。
つまり、誰かの持っているお金は他の誰かの借金です。さらに言えば、借金する人がいなければ、世の中にお金は存在しません。これが現在の金融システムの根幹です。
すなわち、オカネというのは、貨幣であろうが通帳であろうがその他有価証券であろうが、債権と債務の記録、すなわち情報なのです。
情報に過ぎませんから、地下資源と違い有限というわけではありません。
本書では、銀行の信用創造や、国債発行のプロセスなどをわかりやすく図解しています。
デフレと緊縮財政で日本はどうなったか
なんども書いていますが、政府の借金なるものは、どこかの外国への債務ではなく、ほかでもない日本国民にとっての資産になっています。
そして、円は自国で発行できるものですから、破綻しようがありません。
では、国債をどれだけ発行しても財政破綻しないのなら、今すぐに1,000兆円でも2,000兆円でも国債を発行するのが良いのでしょうか?
一度に多額の国債を発行すると過度なインフレーションをもたらし、逆に世の中に出回っている資金に対して、モノやサービスの供給が過剰な場合、物価が下落してデフレとなることを説明しています。
そして、「デフレでもいいじゃないか。待っていればどんどんモノが安くなるんだから」と言う意見に、「デフレは経済にとっては深刻な病気の状態」「最近ニュースになっている実質賃金の減少は、このデフレの影響なのです」と注意を促しています。
日本に住む人は誰もが20年間もデフレの悪影響を受け続けています。1人当たりの平均給与は、デフレの間に約60万円も減ってしまいました。夫婦で働いているのであれば、1年に120万円の減少です。これは物価の下落率を大きく超える給与の減少です。日本は先進国(OECD加盟国)中、最も豊かな国から最も貧しい国の一つへと転落したのです。これは大袈裟でも何でもありません。
デフレとは、供給過剰を意味しますから、新たに工場を建てたりしてもモノは売れません。
しかも、デフレはお金の価値が上がるのですから、儲かった分はそのまま貯蓄してしまいます。
日本は長年のデフレによって、企業の内部留保額は400兆円以上あると言われています。
このデフレから立ち直る唯一の方法は、供給を減らすか、需要を増やすかのどちらかしかありません。
デフレという病気を治すには政府が財政支出して需要を増やす以外に方法がない、と本書は指摘します。
そうなんですね。
左派政党は「大企業の溜め込み許せん」というのですが、デフレ化なら、溜め込むのは経営者としては当たり前の話なんです。
そうではなくて、大企業にお金を使わせるようにすればいいのにと思います。
本書は、そのためには現在の日本は国債発行が少なすぎると批判します。
アベノミクスでは、6年間に400兆円も市中銀行の国債を日銀が買い取ることで、銀行は手元の現金が大きく増え、市場に資金が供給されやすくしました。
しかし、いくらマネタリーベース(銀行の持っているお金)を増やしても、お金を貸して欲しいという人が増えない限り、銀行からの貸し出し額(通貨発行額)は増えません。
アベノミクスで増やしたのは、銀行の持つ手持ちの現金であって、国債発行はむしろ減らし続けました。
デフレを脱却するには、世の中(市中)に出回るお金(マネーストック)を増やすことが必要と本書は強調しています。
「世の中の需要(資金)」が「モノ・サービスの供給」を超えるまで国債を発行して財政支出をすれば、必ずデフレからインフレに転じます。インフレになれば「供給」<「需要」なので、世の中はモノやサービスの提供を求めています。全体としてみれば、「企業が設備投資すれば儲かる」状態になるのです。
そうすれば、企業は設備投資したり、人を採用したりと内部留保で貯めていた数百兆円ものお金を初めて使い始めるのです。
本書は、財政支出の伸び率とGDP成長率はきれいな直線を描く比例関係になるが、世界で日本だけが20年もの間、起こり得ない財政破綻に怯えて緊縮財政を続けた結果、世界から取り残されたことを指摘しています。
MMTに対する誤解に答える
アベノミクスといえば、安倍信者は「アベノミクス以降、株価が上がっている」という意見があります。
「景気が悪いのに株価が上昇している」理由も本書では解説されていてます。
詳しくは本書をご覧ください。
財政破綻といえば、ギリシャが例に出ます。
民主党政権時代、菅直人、野田佳彦両総理が、みすみす財務省のレクチャーどおりに、「日本はギリシャのようになる」と言い出しました。
現在、政府の債務残高はGDP比で約230%を超え、財政破綻したギリシャの180%を大きく超えているため、財務省や一部の経済学者は財政破綻目前だと警告しています。
しかし、日本は破綻の兆しは一向に見えません。それどころか、日本の国債はほとんど利率がゼロで取り引きさ
れるほど安定しています。
では、なぜギリシャは破綻し、日本はそうではないのか。
本書ではやはり時系列で丁寧に説明されています。
「国債の発行を増やしたら 金利が短期間に急上昇し、ハイパーインフレーション(悪性インフレ)が起こる」と懸念する人々もいます。
日本維新の会から議員になったことのある藤巻健史さんなどはその典型です。
「ハイパー」とは言いませんが、日本共産党の志位和夫委員長もその一人です。
本書の結論は、国債発行は金利の上昇を引き起こしません。そもそも財政破綻しないのだから、政府債務残高が増えても、円に対する信用がなくなることはありません。と述べています。
「金利の上昇を引き起こ」さない理由についても、もちろん解説されています。
その他、「MMTは財政破綻の延命措置!?」「インフレは急に止められない!?」「国債発行は為替相場を混乱させる?」などにも反論しています。
デフレの今こそ国を変えるチャンス
本書では、「少子高齢化はデフレの産物」とも指摘しています。
今の日本は、そうしたことに満ちているのではないでしょうか。
民主党政権ができてすぐ、仕分けなるパフォーマンスをおこなっていました。
もちろん、予算の適切な配分や執行は否定しません。
しかし、あれは結局、パイを固定的に見た中で、その分配を変える試みでしかありません。
なぜ、パイ自体を見直そうということにならないのでしょうか。
私たちは、同じ仕事なら1円でも給料が多いほうがいいでしょう。
逆に、ものを買うときは、同じものなら1円でも安いほうがいいでしょう。
個人的にはお金で動くくせに、どうして国のことというと、消費税をとられようが、社会福祉を削られようが、「仕方ない」と大人しくしているのでしょうか。
議員や公務員というと、「給料が高すぎる」とか「数を減らせ」とか言いますが、後ろ向きと思いませんか。
私たちの本当の利益を考えるなら、彼らの数を減らしたりやる気を無くさせたりするのではなく、しっかり仕事をしてもらうことではないでしょうか。
要するに、私たちの思考自体が「緊縮」になっちゃってるんですよね。
もう、いい加減発想を変えませんか。
緊縮アタマのあなたに読んでいただきたいMMT啓蒙書
MMTについては、これまで何度か関連書籍をご紹介してきました。
『図解MMT現代貨幣理論の基盤』(シェイブテイル著、Kindle版)は、税収や政府債務ではなく、インフレ率を基準に財政(市中のお金の量)を調整すべきとするMMT全般について説明しています。
『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(田原総一朗/藤井聡、アスコム)は、積極財政によって日本経済を立て直す提言ですが、随所にMMTの話が出てきます。
『現代貨幣理論の基礎:居酒屋で自慢できるお金の話』(uematu tubasa、反逆する武士出版)は、日本独自の現代貨幣理論(MMT)を構築したとするKindle書籍です。自国通貨政府に財政破綻なし、国債発行上限はインフレ率、財政赤字は民間黒字などを解説しています。
MMT(現代貨幣理論)って何?(カリンゴン著、Kindle版)は、『MMTのことがざっくりわかるYouTube動画の書き起こし』というサブタイトルがついていて、内容は動画コンテンツとして公開されたものを収載しています。
超入門MMT(藤井聡著、エムディエヌコーポレーション)は、円建ての国債を発行しても財政は破綻しない、インフレが起きない範囲で支出を行うべき、税は財源ではなく通貨を流通させたり調整したりするために存在する、といった内容をわかりやすく解説しています。
これだけありますと、いまさら新しいことはないかなあ、などと思い上がっていましたが、とんでもない。
本書も、いろいろ新鮮な知識や情報をいただけた良書だと思います。
ぜひ、みなさんも読まれることをおすすめします。
以上、図解30分でわかる日本が財政破綻しないたしかな理由(川村史朗著、文芸社)は、Modern Monetary Theory〈MMT〉の本当の説明、でした。
図解 30分でわかる 日本が財政破綻しないたしかな理由 Modern Monetary Theory〈MMT〉の本当の説明 – 川村 史朗
図解30分でわかる日本が財政破綻しないたしかな理由 Modern Monetary Theory〈MM [ 川村史朗 ] – 楽天ブックス
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