食キング(土山しげる著、日本文芸社)は、「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリーです。店主には、一見すると店の料理とは無関係な修業を質問厳禁でさせますが、実際には再建のために必要なことがわかります。
『食キング』は、土山しげる(つちやましげる、1950年2月20日~2018年5月24日)さんが日本文芸社から上梓した書籍です。
1999年~2004年に、『週刊漫画ゴラク』で連載されました。
土山しげるさんは、『野武士のグルメ』『喧嘩ラーメン』『極道めし』『喰いしん坊!』などの作品も有名です。
グルメやギャンブル、極道など、シリアスな中にギャグを織り交ぜた作風でお馴染みです。
本書は全27巻が2022年9月20現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
名門店創業者の孫が「再建請負人」に
『食キング』の主人公・北方歳三は、函館一と呼ばれる老舗レストラン「五稜郭亭」の創業者北方清次郎の孫。
本来彼は、その料理長として腕をふるい、伝説のシェフと呼ばれた男でした。
ところが、料理の腕が歳三に劣る実弟・精四郎が、採算や利益などの数字を重視する「実業家」として歳三と対峙。
歳三は、自分が身を引く形で五稜郭亭を離れました。
物語の前半は、歳三が再建請負人として全国を転々とします。
客足の遠のいた飲食店に立ち寄ったり、メールで依頼を受けたりして、多額の報酬を取って再建させる「再建請負人」に。
再建の方法は、店主に対して、一見すると店の料理とは無関係な修業を質問厳禁でさせます。
「どうしてこんなことをしなければならないんだ」と店主は疑問に思いますが、後に再建のために必要なことがわかります。
それは、料理人として自信を失ったり、本来の姿を忘れたりしたことから、自分を取り戻させる修業だったのです。
気づいた店主は、ポロポロと恥も外聞もなく涙をこぼします。
そして、目覚めた店主が作った料理を客が食べると、これまた鼻を垂らして曰く言い難い幸せそうな笑顔になります。
本作は、この恥も外聞もない笑顔に、人間の本心を描いているのだと思います。
後半は、精四郎が利益第一で、かつ自分に従う人間だけに料理人をすげかえ、強引なチェーン展開を進めたため、五稜郭亭の味へのこだわりと客のニーズに応える料理作りを復活させようと、函館へと舞い戻ります。
そして、幾多の料理人と様々な料理対決を行います。
料理を食べる客の顔を見ていないから、手を抜いた仕事しか出来ない
第1話の舞台は洋食店・レストランミツバチです。
赤ん坊の世話をしている夫人に、片手間の味見をさせて、「こいつで勝負をかける」と店主。
新メニューに活路を見出し、溜まった家賃を支払わなければなりません。
表の看板には、『スペシャルメニュー、ハヤシ・カツカレー目玉焼き付き800円』。
店主の息子は、店の残り物を弁当のおかずにされてクラスメートにからかわれ、ゴミ箱に捨てようとしたところを北方歳三に止められます。
「親が作ってくれた弁当を、そんな風に捨てるんじゃない!出来合いの弁当よりどれほど愛情がこもっているか……!」
北方歳三は、息子を店に連れ帰って店主夫妻に報告します。
「この弁当をゴミ箱に捨てようとしていた」
「だって……、いつも店の残り物だってバカにされて…店がちっともはやってない…って…」と息子
「この子はなんて事を…家の事情分かってるでしょ!」と母親。
北方歳三は、弁当のエビフライを口にします。
「どうやら、仲間にバカにされたことだけで、これを捨てようとしたのではないな。この味では、心の底から食したいという気は起きてこない。なア坊ズ」
うなずく息子。
「何者だ、あんたは!!偉そうにっ!」
店主が気色ばみます。
「だいたい冷めりゃ、どんな食い物でもマズくなるっ!」
「本当にウマイ物は冷めてもウマイ!」
北方歳三は、厨房に入るとそのエビフライで卵とじを作り始めます。
「何ちゅう手際の良さ……。この男、素人じゃねえ……!」と、驚く店主。
作ったものを息子に食べさせます。
「おいしいっ!あのフライがこんなになるなんてっ!」と、驚く息子。
店主は嫉妬もあってキレます。
「こちとら、20年この道でやってんだ!その気になりゃ、子供にもウマイ弁当持たせてやらァ!商売の邪魔だ。出てってくれ」
北方歳三は、店を出ながら考えます。
「この店は間違いなく潰れる。だが一点救いがあるとすれば…鍋やフライパンの手入れのよさだ。その気持が残されているのなら……再建の余地はある…が……」
バイクを走らせる北方歳三ですが、ミラーには、追いかけてくる息子が映ります。
「おじさん…うちの店助けて……今月中にたまってる家賃払えないとあの店出てかなくちゃならないんです……。父ちゃん、あのメニューでいけるって言ってたけど…」
首を振る息子。
店では、流しに食べ残した皿が並びます
「最初の女性は完食していったぞ!それが何で!?」と途方に暮れる店主。
北方歳三は、あっさり答えます。
「女性客は、ひどくまずい料理でも自分が料金を払う物となると貪欲になる。料金分きちんと食べていく。……そして、2度と来ない」
店主は、自分がパチスロをしに行って店を留守にしたことを棚に上げて、夫人を責めます。
「お前、オレのやり方、間違えて作ったんじゃないのか」
それを聞いて、ついに怒りを爆発させる北方歳三。
「料理を食べる客の顔を見ていないから、手を抜いた仕事しか出来ないといっている事がわからんのかっ!!人が美味しかったと喜んだ顔を一度でも見たことがある料理人は決して手間を惜しまんっ!!人に愛情無き者は料理を創る資格は無いっ!!」
そして、遂に心を入れ替える店主。
料理の手付きで、北方歳三を只者ではないとみなしていたところで、店主も依頼します。
「……助けてくれ、いや助けてください。料理人としてもう一度、店をやっていける手助けをお願いします!」
承諾した北方歳三は、こう提案します。
「メニューは2つに絞る!思い浮かべただけで食欲をそそるカツカレーと、食材をムダにしないためにカレールウを塗ったカツサンド!とくにカツサンドは店の前でで店で売る。この店の前の通りは、近くの高校の部活のランニングコースだ。彼らを取り込む!」
そして、店主には修業をしてもらいます。
子どもたちが笑顔で俺のカレーを待っている…!
店主が北方歳三につれてこられたのは、小学校の給食調理室。
「ここで、この学校の今日の給食、全校生徒600人分のカレーを作れ!」
店主1人で、豚肩肉12キロ、玉ねぎ150個、人参75本、じゃがいも150個等々、途方もない分量の材料を調理しなければなりません。
「クソッ!600人分のカレーだとォ!冗談じゃねえや!こんな事して何になるんだ!!手助け料としてウチの金20万も取りやがって!」
第1回だからか、この店主がカネに困っているからか、20万円というのは再建料としては格安です。
それはともかく、ふてくされていた店主は、窓の外で「今日はカレーだぜ」と喜んでいる児童たちを見ます。
「子どもたちが笑顔で俺のカレーを待っている…!あの笑顔が消えないカレーを……俺は作る!!」
修業が終わり、店主は店に戻って、カツカレーとカツサンドを作りました。
バクバク食べる北方歳三。
「美味しいよっ!父ちゃん」と息子。
「このカツサンドもカレーがパンに染み付いて美味しいわ!」と妻。
北方歳三は、「家族の笑顔はどうだ?」と確認します。
店主は、「さ……最高です」と涙ぐみます。
「よし!本物の料理人として蘇った!開店だ!!」と、ゴーサインを出す北方歳三。
学校の購買部は閑古鳥が鳴き、店の前には高校生たちがカツサンドを買うために並んでいます。
店の入り口には、カツカレーを食べるために並ぶ客が……。
仕事を終えた北方歳三は、街を去ります。
このパターンが前半は続きます。
まずはその飲食店のダメなところを指摘し、店主が反発したり、勘違い解釈したりすると、いったんはその場から退き様子を見ます。
そして、店主がいよいよ息詰まるとまた出てきて、修業が始まります。
正式に引き受けるにあたっては、どんなにダメな店主でも、何か一ついいところを見つけて「まだ脈がある」と解釈してから修業を始めます。
主役、というより唯一のレギュラーが北方歳三ですが、飲食店の店主が実質的な主役と言っていいかもしれません。
第1回には出てきませんでしたが、「質問は許さん」というのも決め文句です。
修業は、言われた通りにやれば良い、ということです。
まあ、店が傾いて再建をお願いするのですから、まともな言い分があるぐらいなら、再建を頼んだりしませんからね。
北方歳三が、函館一と呼ばれる老舗名門レストラン五稜郭亭のシェフであることは、第2回で料理雑誌の記者によって暴かれ、第3回で全国各地の庶民向けの飲食店再建人であることが明らかになります。
以前、マンガ図書館Zでは無料で読めたのですが、あるときリストから外れました。
ですから、現在はAmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれていますが、こちらも将来絶対にはずれないという保証はないので、リストに含まれているうちに読まれることをお勧めします。
以上、食キング(土山しげる著、日本文芸社)は、「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリー、でした。
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