まんが根本仏教(古谷三敏/ファミリー企画著、地人館編集)は、三法印、縁起観、四諦、八正道、六波羅蜜などの教えを解説しています。専門の仏教書では敷居が高いと思う人でも、マンガで親しみやすくストーリーとして理解を助けてもらいます。
『まんが根本仏教』は、うんちくの漫画や『ダメおやじ』などの作品でおなじみの古谷三敏さん、ファミリー企画が作画し、地人館が編集。
立正佼成会教務局が監修し、佼成出版社から上梓しています。
ということは、立正佼成会が、会内外向けに発行した仏教の啓蒙書ということでしょうか。
といっても、同会へのお誘いなどの文言はありません。
タイトルに有る根本仏教というのは、釈迦の悟りや直説とされています。
原始仏教とも言われ、お釈迦様やその高弟の直説とおぼしきものです。
つまり、どんな宗派であっても含まれるコアな部分と言ってもいいでしょう。
本書は2022年11月8日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
諸行無常、諸法無我、涅槃寂静など……
本書『まんが根本仏教』は、文字通り仏教の根本にあたる教えを漫画で解説しています。
各話のキーワードを簡単にご紹介していきます。
諸行無常
諸行無常というと、私たちは、栄えているものが没落したときに使いますが、決してそれだけではなく、この世のものはどんなものでもたえまなく変化し続けているという事実を、ありのままに述べたもので、仏教の真理の一つなのです。
西洋では、ヘラクレイトスが「万物は流転する」と言っていますね。
洋の東西を問わず、真実(真理)は一致するのかもしれません。
諸法無我
諸法無我は、世の中のすべてのものごとは、つながりあっていて、個として独立しているものは一つもない、という意味です。
私はあまり使いたいとは思いませんが、「私たちは生かされている」というのも、この考えに基づいているのでしょう。
つまり、周囲の人とつながって自分が存在するという意味です。
これもヘーゲルが、「諸事物が相互連関の内にありお互いに繋がりあって生成し消滅する」と言っていますね。
涅槃寂静
涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)は、諸行無常や諸法無我と並んで、大切な教えをまとめた三法印と呼ばれています。
心が安らかに落ちついた、至福の状態であるという意味です。
すごろくでいえば「あがり」です。
仏教はここを目指しているのです。
昔、俳優の沖雅也が、「涅槃で待つ」という遺言を残したことで話題になりましたが、涅槃寂静は「解脱」とも「悟りの境地」ともいわれるものです。
「解脱」というのは、輪廻転生の繰り返しからの解脱です。
お釈迦様は、輪廻転生を明言したことはない、とされていますが、「解脱」を教えている以上、それは当然意識していたのではないでしょうか。
当時のインドでは、輪廻転生はあるという前提で考えられており、それは「生き返る喜び」ではなく、「また『生』における苦しみを経験しなければならないのか」という苦行だったのです。
だから、そこからの解脱こそが「至福の状態」というわけです。
縁起観
縁起というと、私たちは「縁起が良い」「縁起が悪い」と、なにか現象の前兆のような使い方をしますが、本来は意味が違います。
ものごとには、すべてに原因(因)があり、それが何かの条件(縁)と結びついて、様々な結果(果)として現われます。そして、その結果は、必ず何らかの影響をおよぼす(報)ということです。
それぞれ1文字ずつとっているわけです。
哲学で言えば、物事は「必然」と「偶然」で起こる、ということですね。
ですから仏教は、神様を創造主とする他の宗教のように、すべての出来事を神様のはからいで起こったことだかとして思考停止するようなことはありません。
四諦
四諦(したい)とは、苦諦、集諦、滅諦、道諦とあり、人生が思い通りいかない苦しみについて、どのように悩んでいるのかを明らかにして解決への道筋を掃き清めることです。
苦諦……迷いのあるこの世は一切が苦であるということ。
集諦……苦の原因を明らかにする。それは煩悩・妄執などにあるということ。
滅諦…… 執着を断ち苦を滅することが悟りの世界であるということ。
道諦……涅槃の境地に達するためには、正しい修行を行わなければならないということ。
そして、その「正しい修行」として、八正道があります。
八正道
八正道の「八」とは、
- 正見(正しい見解)
- 正思惟(正しい決意)
- 正語(正しい言葉)
- 正業(正しい行為)
- 正命 (正しい生活)
- 正精進(正しい努力)
- 正念(正しい思念)
- 正定(正しい瞑想)
の修行のことです。
近代科学の祖である、デカルトの『方法序説』に通じるものがあります。
十二因縁
十二因縁とは、人間の苦の発生の原因とそれを滅する方法を説いたものです。
無明(むみょう)・行(ぎょう)・識・名色(みょうしき)・六処(六入)・触(そく)・受・愛・取・有・生・老死の12をいいます。
六波羅蜜
六波羅蜜(ろくはらみつ)とは、6つの善のことです。
- 布施ふせ……親切
- 持戒じかい……言行一致
- 忍辱にんにく……忍耐
- 精進しょうじん……努力
- 禅定ぜんじょう……反省
- 智慧ちえ……修養
たとえば「布施」というと、お布施を思い浮かべますね。
もちろん、「お金」も布施(財施)です。
が、それだけでなく、法施(行い)無畏施(安心を与える)の三種があるとしています。
といったキーワードが、漫画のストーリーの中に登場します。
具体的現実的な概念として理解することができるのです。
立正佼成会と本書
版元の運営団体である立正佼成会というのは、法華系の在家団体です。
法華経三部経(「無量義経」「妙法蓮華経」「仏説観普賢菩薩行法経」)を経典とし、先祖供養を重要視するのが特徴です。
法華経というと、まず日蓮宗をイメージしますが、日蓮宗は一致派といわれ、同じ法華経系でありながら対立する宗派として、勝劣派があり、その系譜のひとつとして、霊友会があり、立正佼成会はさらにその分派です。
霊友会の分派とはいえ、『宗教年鑑 令和3年版』における立正佼成会の国内信者数は、霊友会(1,181,829人)を倍近く上回っています(2,220,381人)。
ただし、本書には、同会への勧誘を行う文言は一切なく、さらに「佼成出版社」と、堂々と発行元を明らかにしているので、宗派的な啓蒙書としての狙いがあったとしても、法的道義的に何ら問題はありません。
そもそも、本書の中身は同会の重要視する「先祖供養」の話ですらなく、「原始仏教」といって、要するにいろいろな宗派に分かれる前の、仏教のコアな部分に関することが描かれているので、特段固有の宗派性もないように思います。←といっても、宗教に素人の私が気づかないだけかもしれませんが。
昨今、問題になっている旧統一協会は、自分たちの看板を隠して、虚偽の名前で騙したり、関連団体の名前を名乗ったりして入信させ、マインドコントロールしてから自分たちの正体を明かす、というやり方を行ってきて、それが『青春を返せ裁判』で否定されました。
しかし、宗教団体の中には、未だにその点が怪しいと指摘される団体もあります。
そのひとつが、何度かご紹介した菊谷隆太さんの浄土真宗親鸞会です。
菊谷隆太さんご自身は、浄土真宗親鸞会に入ったというプロフィールも明らかにし、ユーチューブ動画での背広につけた同会のバッジなど、決して隠しているわけではなく、動画を見る限りでは違法伝導とはいえないと思います。
ただし、浄土真宗親鸞会は、そう名乗らずに勧誘をしているのではと思えるネットのコンテンツがあるのも確かです。
今回のように、まんがで仏教を啓蒙するKindleの中には、浄土真宗親鸞会が刊行に関与しているのではないかと思われる出版物もあるからです。
漫画自体はわかりやすいので、もしそうならどうしてどうして名乗らないのかな、と不思議に思います。
青春学園ドラマ定番ムーブは佼成学園から始まった
余談ですが、立正佼成会で思い出すのは、佼成学園を舞台にしたドラマ『これが青春だ』(東宝/テアトル・プロ、日本テレビ、1966年11月20日~1967年10月22日)です。
青春学園ドラマが、佳境に入ると突然、走り出したり、喧嘩したりして、スッキリしたところで仲良くなる、というパターンは定番ですが、その始まりは、第2回のクライマックスでした。
教室に入らないで校庭で寝そべっている劣等生(土屋靖雄)を、大岩先生(竜雷太)が迎えに来ると、劣等生は先生から逃げるように突然走り出し、先生が追いかけるのですが、2人は校庭を何周か回っているうちに、いつのまにか所期の目的を忘れて楽しいマラソンごっこになり(笑)、いい加減疲れてきたら生徒の機嫌が治って教室に戻るという爆笑モノの展開ですが、なんか理屈抜きに楽しくなる話でした。
まだ当時は、校舎は黒い木の木造でした。
OBの方は、なつかしいんじゃないかな。
話を戻せば、仏教とはなにか、という導入をどこにしたらと悩んでおられる方には、根本仏教を漫画化した本書は読みやすいのではないかと思います。
以上、まんが根本仏教(古谷三敏/ファミリー企画著、地人館編集)は、三法印、縁起観、四諦、八正道、六波羅蜜などの教えを解説、でした。
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