障がい現役!【分冊版】1~8 (金山カメ著、笠倉出版社)は、知的障碍者のグループホームではたらいた著者のコミックエッセイです。「ダウン症の人って、天使じゃないからね」など、障碍者を美化も見下しもせず、ありのままに描く思いやりを感じます。
『障がい現役!【分冊版】』1~8は、金山カメさんが笠倉出版社から上梓しました。
知的障がい者グループホームで、支援員として働いた経験を描く、著者のコミックエッセイです。
家庭サスペンスというシリーズ名がついています。
この記事は、Kindle版をもとにご紹介しています。
グループホームというのは、高齢者、障碍者など、社会的弱者が、小人数で支援を受けながら一般住宅で生活する施設です。
何人かの介護支援員がついて、その人たちのお世話をします。
お世話の内容は、障碍によっても違うので様々です。
軽度と重度では、全く違いますよね。
まあ、軽度の場合、自立可能とみなして、グループホームには入所しないかもしれませんが。
一応、本作はフィクションとのことわりがあります。
まあ、名前を変えるとか、1人の障碍者に他の人のエピソードも加えるとかした「創作」で、本当に体験したことがベースであろうと思われます。
施設での日常なので、障碍者だけでなく、職員の観察もなされているのが興味深いですね。
「いい人過ぎてアレな人」という表現は笑いました。
といっても、もちろんそれは、職員をバカにしているわけではないんですよ。
凡人ではなく「突き抜けている人」というのは、どこか「変人」なわけですが、障碍者の支援をするという、並外れた「いい人」は、「いい人」という意味で「突き抜けている変人」という意味ですからね。
Amazonの販売ページには、「それらすべてを包み込むようなおおらかな筆致で描く『介護小学生』の作者が贈るエッセイコミック!」と書かれています。
本書は2023年2月21日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
ダウン症の人って、天使じゃないからね
物語は、作者が知的障碍者グループホームで、支援員として働く初日のシーンから始まります。
「はじめまして。主任の家主(いえす)です。金山さんは介護職の経験はあるのよね」
「ハイ、特養ですけど」
特養とは、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)のこと。
常時介護を必要としながらも、在宅での生活が困難な高齢者に対して、生活全般の介護を提供する施設です。
入所は現在狭き門で、介護認定の「要介護3」(5段階)が必要です。
「みんな良い人ばかりだから、大丈夫よ」
主任さんも良い人そうでよかった、とホッとする作者。
「とりあえず、今日は1号室のリエさんを、お風呂場まで誘導してもらおうかしら。リエさんて、ダウン症の人で、素直で人懐っこくて可愛らしい人よ」
ダウン症の人って、よく「天使の子」って形容されるもんなぁ、と作者。
「リエさん、ちょっといいかしら」とテレビ鑑賞しているリエさんに声をかける主任。
リエさんは、「家主さん、こんにちは~」と、主任に抱きつきます。
それを見た作者は、「カワイイ」と一瞬思いますが……
「金山です。よろしくおねがいします」というと、ギロッと睨みつけ、
「うるせーよ。バーカ」と返します。
ショックをウケる作者。
私も、長男が受傷して、こうした障碍者の施設にお世話になっています。
ですから、多少は現状がわかるのですが、知的障碍にもいろいろあって、発語そのものが困難な人もいれば、話せるんだけど、その内容がTPOに応じた言葉を選べない場合とがあるんです。
ま、直截という意味では、その瞬間瞬間の心境をリアルに表現しているわけですから、わかりやすいのかもしれませんが。
「あらもう会議の時間。じゃあ、お風呂への誘導よろしくね」と部屋を出ていってしまう主任。
困った作者ですが、とりあえずお風呂に誘導しなければと、「あの……」と声をかけると、その瞬間、
「うるせー」の返し。
「テレビの邪魔するな」
作者は部屋のドアを開け、
「お風呂へいきましょうよ」
すると、リエさん、リモコンを作者に投げつけました。
「開けるんじやねーよ。バーカ。死ね」
……どこが天使だ。この姿、誰がどう見たって、反抗期こじらせたオタクじゃねーか、と思う作者。
仕方ないので主任に相談しますが、
「言い忘れたけど、リエさんて、『ドアの開けっ放し』に強いこだわりがある人なのよ。でも大丈夫。神様が助けてくださるわ」
いや、神様がそこまで考えているのなら、そもそも障碍は与えないでしょう。
余談ですが、わたしたち、障碍者の親に対して禁句なのは、「お子さんは、あなたを選んで生まれたんだ」とか「神様は耐えられる試練しか与えない」というタグイの話ね。
まあ、こうなったからこそ信仰を深める人もいますが、普通、神様がいないことを実感させられるのが「障碍者の世界」ですよ。
それと、知的障害者に限らず、脳関係の障碍、つまり発達障害とか高次脳機能障害の一部には、「こだわりの強さ」という特徴があります。
いつも同じところにないと気がすまないとか、いつも同じことをシないと気がすまない、というやつね。
これは、必ずしも悪いことではありません、
たとえば、仕事とか、正確にしますから。
後片付けなんかもね。
チリ一つ落ちてても我慢ならないわけですから。
その日のルーチンも絶対守るとかね。
だらしない人は、見習うべきでしょう。
とにかく、作者は、「神頼みじゃ解決しねー」と悟ります。
ここで、洗身介助の人に怒鳴られる。
「ゴラァ、新人。リエさんの誘導まだなの?」
福祉関係には元ヤンが多い、とも書かれています。
そういえば、私の次男を送ってきた支援員が、次男が印鑑をポーンと放り投げたら、「まじかよ」と言ってました(笑)
「裏ワザ教えてやるから、覚えときな」
元ヤンは、「お風呂ですよー」と戸をガラッと聞こえるように開けます。
リエさんは、「あけんじゃねー」といって、戸まで走ってきます。
すると元ヤンは、「せっかくここまで来たんだから、お風呂入りましょ」と言います。
リエさんの、こだわりを逆手に取った誘導法だそうです。
現役の支援員にも参考になるかも。
そして、風呂から上がったリエさんは、すっかり機嫌が良くなっています。
元ヤンが、「リエさん、ごきげんだからコミュニケーションとるといいよ」と作者に耳打ち。
作者が、「金山カメと申します。どうぞよろしく」と挨拶すると、
「カメさん?よろしくねー」と抱きついてきました。
元ヤン曰く、「ダウン症の人って、天使じゃないからね 」
これも、決して悪い意味ではありません。
「ダウン症だからって、皆同じじゃないよ。明るい人もいれば暗い人もいて当然でしょ。人間だから」
つまり、多様な人間性を見ずに、天使などという「綺麗な言葉」でごまかしてはならない、ということです。
ごまかすから、本当のことが見えなくなって、やまゆり園のような事件になるのです。
ああそうだ。なんでそんなこと、見えなくなっていたんだろう、と考える作者。
「でもアタシは、ここにいる人たちは、すごく魅力的だと思うよ」
作者は、この一言で、「この仕事、頑張ってみよう」と思ったそうです。
障碍者を、美化も見下しもせず、ありのままに描く
本作についての感想は、
障碍者を、美化も見下しもせず、ありのままに描く、というところがすばらしい
これに付きます。
障碍者を描いたドラマや映画については、ドラマ『俺の家の話』について以前書きました。
『俺の家の話』というのは、TBS系で2021年1月22日から3月26日まで放送されたドラマです。
ライターの遠藤光太さんは、同作について、発達障害が「当たり前」に描かれているとハフポストの記事で評価しています。
記事では触れられていませんが、同作の脚本家である宮藤官九郎さんが、「障碍者を当たり前に描く」背景は、黒澤明監督の『どですかでん』(1970年、東宝)にあるのではないかと思われます。発達障害傾向のある人物はフィクションでしばしば描かれるが、主人公としてその行動がフォーカスされたり、ストーリーをかき乱したりする特異な描かれ方が多い。しかし本作の秀生は、主人公でもなければ、発達障害が特異なものとして描かれるわけでもない。ごく当たり前のこととしてサイドストーリーに現れ、当たり前に自分に合ったフリースクールを選んで通い、当たり前に「お薬」を飲む
↑の記事では、『人気脚本家・宮藤官九郎がこっそり教える、人生で何度も見返す映画3選』というタイトルで、宮藤さんは1本目に『どですかでん』を挙げているのです。
『どですかでん』は、ゴミの集積所の一画に形成されたガレキ街を舞台に市井の人びとの生活を描いた群像劇です。
山本周五郎の小説『季節のない街』が原作で、黒澤明監督が初めてカラーで撮った作品として知られています。
障碍者の親御さんには、ぜひご覧いただきたい作品です。
以上、障がい現役!【分冊版】1~8 (金山カメ著、笠倉出版社)は、知的障碍者のグループホームではたらいた著者のコミックエッセイ、でした。
障がい現役!【分冊版】 1話 (家庭サスペンス) – 金山カメ
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