ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活(國友公司著、彩図社)は、大阪西成の「あいりん地区」で実際に暮らした取材記録です。国立の筑波大学を7年かけて卒業した著者が、取材で同地を訪れ78日間生活しました。人生とはなんだろうと考えさせられます。
『ルポ西成七十八日間ドヤ街生活』の著者は國友公司さん。
国立の筑波大学を7年かけて卒業したものの、就職することができず。←たんにする気がないだけ?
フリーライターとして身を立てていくことにしましたが、大阪西成区のあいりん地区で、実際に暮らした体験記なら本にすると出版社から言われ、西成生活を決意します。
しかし、西成あいりん地区といえば、日本三大ドヤ街の中でもとくにマイナスイメージの強いところ。
ヤクザが暗躍し、指名手配犯など「訳ありな人たち」が正体を隠して働き、最近では歳を取ってきたので4人に1人は生活保護受給者が増え、ご法度の博打場もある。
新聞では、しばしば凶悪事件を報じている。
そこで大学新卒の若者が暮らしていけるのか。
78日間のルポです。
現金型か契約型で仕事
西成あいりん地区は、ドヤ街といわれます。
ドヤ街の「ドヤ」とは、「宿(やど)」を逆から読んだ言葉。
しかも、普通の宿には満たないようなもの。
そんな「ドヤ」がたくさんはびこる、日雇い労働者が集まる街のことです。
仕事は、西成に飯場があるのはめずらしく、地方の建設現場等ですが、2通りの採用があり、契約型と現金型。
現金型は、まさに日払いの日雇いです。
明日の保証はないし、住む場所も自分で手配します。
契約型は、10日、15日、30日の契約期間が一般的で、飯場に入った労働者たちはそこに寝泊まりしながら、朝になると乗り合わせたバンなどでそれぞれの現場に向かいます。
多くの飯場は個室を用意してくれ、ご飯も三食あります。
ただし、契約型に入り込むには、経験が必要とか。
あいりん地区にある、唯一格差です。
ただしまあ、契約型といっても、労災は出るかもしれませんが個人的な社会保険はないでしょうし、他の自由業とは違い「人脈」ができるわけでもなく、その都度新しい飯場に行く生活がずーっと続くだけですから、その意味では明日につながる仕事とはいえないかもしれませんね。
著者は、ヘマをするたびに、「兄ちゃんなら、雇う会社の側に就職できるやろ」と嫌味を言われながらも頑張り、当初の1ヶ月を超える滞在をします。
「行き場を失った人間たちの最終集積地」と著者が表現する、西成あいりん地区。
しかし、著者が予定を超える逗留をしたように、治安は悪くても、腹をくくればそれなりに生活はしていけるようです。
元ヤクザや指名手配犯、凶悪事件の前科者とかシャブ中、普通に生きていれば関われないやばい人たちは、利害関係もなく、お互い身の上を知らない者同士として関わる分には「同じ人間」であることも描かれています。
いずれにしても、諸事情で、すべてを捨てている人、捨てざるを得ない人にとっては、洗濯しても何者かのタバコの匂いがとれないせんべい布団で3畳間の生活でも、飯と酒と適当な娯楽があれば、住めば都になってしまうのでしょうか。
以前ご紹介しましたが、『スクラップ集団』という映画では、西成・釜ヶ崎のあいりん地区が舞台になっています。
田坂具隆『スクラップ集団』('68)まだ途中だけどこれは拾い物の予感。今観るべき映画だな。主演渥美清、三木のり平、小沢昭一、露口茂。 pic.twitter.com/a1gx2r877z
— ochichan (@ochichan) April 17, 2021
渥美清、三木のり平、小沢昭一、露口茂が顔を揃える、なかなかおもしろい作品ですよ。
人生はシぬまでの暇つぶしか
それにしても、なぜあいりん地区の労働者は、同地を選んだのでしょうか。
本書には、「同僚」の言葉として、「みんな死ぬまでの暇潰ししとるだけや」と書かれています。
「人生はシぬまでの暇つぶし」という言葉は有名ですね。
初出は、パスカルですが、現代でも、ひろゆきさんとか、ホリエモンとか、私がよく引用するrの住人ピエロさんなども、しばしばそう言いますね。
芸人では、立川談志さんとか、ビートたけしさんなども言ってたんじゃないかな。
日々の仕事を頑張り、倫理を守る真面目な人生でも、ダラダラだらしなく生きても、しょせん数十年の人生。
どう生きるかは個人の自由。
誰かに縛られる必要はありません。
いくらいい学校に入って、いい会社に入って、がんばって社長になって、「すごい」とか思われても、人々は肩書を尊敬しているだけです。
引退したら「ただの人」。
そのポストは、また別の人が就任し、たくさん来ていた年賀状や付け届けは、その人に移ります。
そして、シんだら、その「社長」だろうが、西成の、玄孫請けの「現金型」土工だろうが、ただの灰です。
結局人生の違いって、暇つぶしの仕方の違いなのか、という話になってしまいます。
だからといって、西成が自由でしがらみのない「暇つぶし」と割り切れるかどうか。
私も、10年ぐらい前、西成のある事件に取り組む元警察官の話を本にする機会があったのですが、西成に滞在して、現場の雰囲気を知ってくれるといいのだが、といわれ、執筆は請けたものの、滞在は断ったことがあります。
この著者も、まだ若いからできたかもしれません。
結婚して、フリーライターとして実績を積んで、ひとかどの評価を得られる立場になったら、たぶん請けなかったんじゃないでしょうか。
みなさんは、人生暇つぶし、と思われますか。
以上、ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活(國友公司著、彩図社)は、大阪西成の「あいりん地区」で実際に暮らした取材記録です。でした。
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