それから(夏目漱石/原作、バラエティ・アートワークス/まんが)は、主人公がすべてを捨てて友人の妻とともに生きる決意をする話

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それから(夏目漱石/原作、バラエティ・アートワークス/まんが)は、主人公がすべてを捨てて友人の妻とともに生きる決意をする話

それから(夏目漱石/原作、バラエティ・アートワークス/まんが)をご紹介します。定職に就かず、毎月1回、本家にもらいに行く金で裕福な生活を送る主人公が、すべてを捨てて友人の妻とともに生きる決意をするまでを描いています。

『それから』は、明治42(1909)年初出の、夏目漱石作品です。

主人公の長井代助、平岡常次郎、そして平岡の妻である三千代が物語の中心です。

大学時代、代助と三千代は、心のなかでは惹かれ合っていたのに、平岡に頼まれた代助は、2人の仲を取り持ってしまいます。

以来、代助は大学を卒業して三十路に入っても職につかず、裕福な実家から経済的な支援を受けて悠々自適に暮らしています。

一方、平岡は、京阪地区で銀行員として堅実に働いていましたが、妻の三千代との関係は流産以来うまくいっていません。

そのストレスか、平岡は家に寄り付かず放蕩するようになり、三千代は流産が原因で心臓を患います。

平岡の退職と東京への帰還がきっかけで、代助は三千代と再会し、再び愛し始めます。

三千代も、彼の気持ちを受け入れ、代助は彼女とふたりだけで生きることを選びます。

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ゴシップ的な「略奪愛」の話ではありまぜん


レビューによっては、「略奪愛の物語」と紹介しているものもありますが、単純に「人妻をとってしまう」だけの話と紹介すると、本作を誤解されてしまうように思います。

物語中、不義の交わりは一切描かれておらず、もっぱらプラトニックな、相手への思慕を描いています。

いつも本気になることから逃げていた主人公・代助は、友人の平岡にいい顔をシたくて、頼まれたからと自分が好きなくせに三千代との仲を取り持ち、大学を出てからも働かず、社会の傍観者を気取っていました。

家業を継ぐわけでもなく、父親からは縁談もあったのですが、それも全部断っています。

つまり、いつも人生の課題にチャレンジせず、しかもチャレンジしないことに理論武装して自分を正当化しているダメな奴だったのです。

それが、三千代と再会し、自分の本心と向き合うようになり、平岡も三千代を持て余していたので、やっとその気になったのです。

ただ、うまくいっていないと言いながらも、現夫である平岡にもメンツはありますし、「だったらなんで仲を取り持ったんだ。最初から言ってくれればいいじゃないか。俺は道化か」という不信感もあり、2人の友情は壊れます。

しかも、平岡は代助の「横恋慕」の話を新聞社に売ったことで、名士である代助の実家は恥をかき、代助は勘当されます。

平岡、少しやりすぎでは?

代助と三千代は肉体関係にも至ってないのに。

手も握ってない、そもそも相手に全く触れていない。でもこの時代は、好きになるだけでだめみたいですね。

さらに、そこまでしてやっと迎え入れる三千代は心臓を患い、もう長くないという。

しかし、代助が初めて、傍観者ではなく自分の人生を退路を断ってチャレンジした、という自我の目覚めを描いていますから、週刊誌のゴシップ記事のような「略奪愛」とは、描き方は全く違います。

では、タイトルは、どうして「それから」なのか。

おそらくは、代助が、周囲の反対を押し切って三千代とふたりだけで生きることを選ぶ決断をしたことによって、友との絶縁や実家からの勘当など、退路を断った生き方を選ぶという、代助のその後の新しい人生を期待する著者の思いが込められているのではないかと思います。

愛と自由、社会的な選択と個人の幸福がテーマ


昔、『オレたちひょうきん族』というお笑い番組で、『それから』のパロディーがありました。

明石家さんま、片岡鶴太郎、石井めぐみで演じていました。

石井めぐみに振られたくなくて、また片岡鶴太郎との関係が壊れることも恐れて、本当は好きなのに、アプローチできず、ふざけてばかりの明石家さんま、というストーリーでした。

3人の仲良しから、1組のカップルができることによる葛藤を描く物語って、ほかにもいろいろあったような気がしますが、要するに、その原点なんでしょうね。『それから』は。

本作は、愛と自由、社会的な選択と個人の幸福をテーマに、読者に深い考えさせる作品といえるでしょう。

本書は、今年の7月1日初版なので、新刊になります。

原作は長編小説ですが、長い物語はハードルが高いと思われる方は、まず本書(漫画)から入ってはいかがでしょうか。

それから (まんがで読破) - 夏目漱石, バラエティ・アートワークス
それから (まんがで読破) – 夏目漱石, バラエティ・アートワークス

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