『常連さんが増える会話のコツ』(田村祐一著、プレジデント社)は、銭湯の四代目オーナーが常連との会話で経営を立て直した話です。公衆浴場入浴料金は東京都が統制額を決定するため、サービス向上は「お客様との日々の会話」に活路を見出したと言います。
都内随一の温泉処、大田区の銭湯
『常連さんが増える会話のコツ』(田村祐一著、プレジデント社)を読みました。
何の「常連さん」か。
銭湯です。
東京都大田区西蒲田にある「大田黒湯温泉 第二日の出湯」の四代目が、銭湯経営を常連さんとの会話で立て直したという話です。
大田区は、京浜工業地帯の中核でありながら、一方では23軒もの温泉を擁する、都内23区でも随一の温泉処という話を以前書きました。
それを意外に思う方もおられるようです。
温泉の町=観光地、というイメージだからかもしれません。
大田区というと、とくに蒲田などは「工場地帯」のイメージがあります。
しかし、大田区の工場というのは、ほとんど森ヶ崎や羽田など南東部に集中しており、大田区全体を工場の町のように見るのは、正確ではないかもしれません。
何しろ、国内随一の高級住宅街である田園調布も大田区ですからね。
しかも、温泉・銭湯については、区内にまんべんなくあります。
ですから、大田区全体をもって「温泉処」と見るのはまちがいではないと思います。
たとえば、京浜工業地帯の中核である森ヶ崎は、かつては森ヶ崎鉱泉を産する温泉街であったほどです。
これは、大田区がかつて海の底にあったことに大きく関係しているようです。
「温泉・銭湯」と書きましたが、大田区の銭湯は、ほとんどが温泉を売り物にしていて、その多くは黒湯、炭酸泉などです。
著者の『大田黒湯温泉 第二日の出湯』は、きっと「黒湯」なんでしょうね。
場所は知っているのですが、まだ行ったことがありません。
お客様に寄り添った会話を
書籍の内容は、銭湯斜陽化の昨今、著者のお店も近所に競合店がある中で、価格競争もできず(銭湯は価格が決まっている)、設備投資もできず、では何を売り物にするかを考えたところ、「お客様との日々の会話」に活路を見出そうという結論に。それが奏功したという話です。
そして、その具体的な「ノウハウ」について書かれています。
内容は、これまで読んだことのある「話し方」の書籍に出ていたような気がするものもありますが、読んでいて「なるほど」と思うことも少なくなかったので、独自の視点や経験談などが、説得力をもたせているのだろうと思います。
たとえば、こんな内容です。
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マニュアル口調は逆効果。
悪口は、意図に共感しても同調はしない。
相手の話は遮らずに最後まで聞く。
「知っていますか?」という挑発的な前置きはしない
知っている話でも「知っていますよ」とは言わない
さりげなく名前をたずねて以後は名前で呼ぶ
暗い話をされても少しでも明るい方向へ向ける
私も、ブログ記事の最初に「○○ってご存じですか」と書くことがありますが、それは「挑発的な前置き」だそうです。
そう指摘されると、たしかに「自分は知ってるけど、あなた方どうよ」というマウンティングを感じますね。
ブログ記事の書き出しと会話では違いますから、ただちに禁忌と解釈するものでもないと思いますが、いずれにしても、著者が相手の立場や気持ちに寄り添って、という姿勢で一貫しているのは、大変参考になります。
コミュニケーションに悩んでいる方には、銭湯経営者でなくてもぜひお勧めしたい書籍です。
余談・普通の銭湯とスーパー銭湯の棲み分け
さて、私は過日、久しぶりに銭湯に行ってきました。
人口炭酸泉を設置した、区内では初めての健康増進湯ということで有名なところですが、個人的にはすこし不満が残りました。
といっても、設備が不十分という話ではありません。
むしろ、480円の“普通の銭湯”の料金で、その3倍ぐらいとるスーパー銭湯並みの設備が揃っています。
しかし、それが逆に災いして、詰め込みすぎになっていたような気がしました。
もともと普通の銭湯の浴槽2つと洗い場3列のスペースに、小さい浴槽が3つ。その上にジェットバスや、サウナ2室を設けているので、ひとつひとつは小さい風呂で、かつ洗い場も隣の人との間隔が狭くて、石鹸やお湯が飛んでくるのです。
大田区なら定番の黒湯も、熱い風呂も、片方の湯(私が入った時は女湯)にしかありませんでした。
まあなんというか、町の公園にディズニーランドを作ったような感じかな。
公園には公園の良さがあるんですけどね。
この内風呂時代に、なぜ銭湯に行くかといえば、大きな風呂でゆったりしたいからではないでしょうか。
そして、普通の温度の風呂とともに、熱い風呂に入りたいという気持ちも私にはあります。
広くて熱い風呂は、ヒートショックプロテインの効果も高いと言われているからです。
普通の銭湯と、スーパー銭湯は、別のものとして棲み分ければいいと思うんですが、少なくとも前者がどちらの役割も果たそうとすると、中途半端な使い勝手になってしまうように思いました。
話を戻すと、著者の「大田黒湯温泉 第二日の出湯」。
著者の会話術もさることながら、設備投資できないことが逆に吉と出て、「普通の銭湯」としての設備や佇まいを堅持することで、逆にお客さんに喜ばれているのかもしれません。
以上、『常連さんが増える会話のコツ』(田村祐一著、プレジデント社)は、銭湯の四代目オーナーが常連との会話で経営を立て直した話、でした。
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