『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(田原総一朗/藤井聡、アスコム)は、積極財政によって日本経済を立て直す提言です。具体的には、財政規律を撤廃して消費税を凍結。コロナ禍の粗利補償を行い、医療・介護・災害対策などに投資するなどを挙げています。
本書は、田原総一朗さんと藤井聡さんの対談でまとめられています。
田原総一朗さんが聞き手で、藤井聡さんが解説や提言をする、という構成です。
『給料が減って、経済成長も止まった』と訴える本書。
消費税をゼロにせよ!
コロナ全額補償せよ!
それでも日本は破綻などしない!
景気はV字回復できる
といったコピーが表紙には記載されています。
現在の日本は、国の「借金」が膨れ上がっているから、収支(プライマリーパランス)を黒字にしよう、と財務省やマスコミは言っているが、それは日本の経済を回復される方策とは正反対のものである、と強く批判しています。
緊縮財政はやめて、お金を出しなさい、ということです。
今や、保守か革新か、右か左かではなく、緊縮財政か積極財政かこそが、最大の政治的争点だとしています。
なぜなら、デフレでは、コロナ対策も、福祉も、その他の予算も十分に配分できないから。
国土強靭化を目指す保守も、福祉国家を目指す社民主義やマルクス主義も、お金が必要ということでは立場は同じということです。
不景気に増税する国は日本ぐらい
我が国は、よく「失われた◯年」といわれます。
今年でもう30年になりますね。
経済が停滞している状態を言います。
バブル崩壊以降、そういわれるようになった印象があります。
ですから、てっきり「バブル崩壊」とリンクすると思い込んでいましたが、藤井聡さんによると、「1997年の消費税増税がすべての間違い。失われた富は数千兆円規模になる」と述べています。
3%から5%に上がった消費税増税が、我が国の経済を停滞させた真犯人だったという指摘です。
「世帯所得は消費税増税の1997年から一本調子で下がっています。給与所得は消費税率を5%、8%、10%と上げるたびに、ガクガクと下がっています。」(藤井聡さん)
その結果、世界の約20%あった日本のGDPのシェアは6%以下に。
中国の半分以下で、アメリカの5分の1の国に転落してしまったわけです。
4つの提言
そこで、藤井聡さんは、その失われた30年をストップして経済を再生するために、以下の4つの提言を行っています。
藤井聡による「4つの提言」
提言1
「プライマリーバランス黒字化のため政府支出を毎年必ず抑制していく」という「財政規律」を撤廃する
日本経済あってこその財政問題。いま、借金を増やしすぎないための財政規律によって身動きがとれず、多くの政策が中途半端になっている。
提言2
コロナ終息まで「消費税0%」とする
じつは消費税増税がデフレの元凶。期間限定の税率0%でモノの価格を下げれば、国民の暮らしを助け、消費喚起で企業も助けることになる。
提言3
コロナ終息まで企業に「粗利補償」をおこなう
粗利から人件費や家賃などが支払われるので、倒産や失業を防ぐ効果がある。さらに売り上げ規模に応じた補償だから、不公平にならない。
提言4
「危機管理投資」で日本の未来を切り拓く
感染対策、医療・介護システムの強化、デジタル対応、巨大災害対策など、緊急性の高いものから、中長期にわたって投資していくべきだ。
藤井聡さんは、その障壁として財務省の存在を挙げています。
財政規律が経済を停滞させている
財務省の公式サイトや、その意を受けたマスコミ媒体では、「日本政府の借金」は、令和3年度末には990兆円に上ると見込まれることを喧伝しています。
そして、それをわざわざ日本の人口で割り、1人あたりいくらいくらと数字を出し、さも「日本国民の借金」のように話をすり替え、孫子の代までつけを残すのか、などと脅しています。
今の世代が借金をして、自分たちのために支出を行うと、子どもや孫、ひ孫など、将来の世代に重いツケを回すことになります。(『日本の財政を考えよう』より)しかし、それは私たちが言う「借金」とは概念の違うもの。
https://www.mof.go.jp/policy/budget/fiscal_condition/related_data/202007_zaisei.pdf
そもそも政府の借金なるものは、国民にとっては資産になっている、ということは先日も書きました。
藤井聡さんによると、いわゆる「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」論は、大蔵省時代は明確にはなく、財務省になった2002年、当時小泉内閣で経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵さんによるといいます。
それが、麻生太郎政権時代、リーマンショックがあり、いったんは財政規律を外しましたが、「プライマリーバランス規律がなくなって3年間、悔しくて悔しくてしょうがなかった」財務省は、第二次安倍政権で、麻生太郎財務大臣を徹底的にレクしたそうです。
そして、2013年6月に、骨太の方針でプライマリーバランス規律が復活。
消費税の10%への増税も同時に決めたといいます。
しかし、藤井聡さんは、PB(プライマリーバランス)にとらわれ、コロナ対策もデフレ脱却も失敗したと述べているのです。
緊縮財政の根拠になっているのは財政法(第四条)です。
第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。 但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。占領時代のアメリカが、日本が軍事にお金を使わないように押し付けたといいます。
しかし、国債は戦後、たくさん発行されて、それが正しい表現かどうかは別として「国の借金1000兆円」にまでなったわけですが、この間、日本は戦争していません。
国債発行によって発生した貨幣自体に、良い悪いの価値をつけるのがナンセンス。
為政者がお金をいかなる価値で使うかが問題ではないのでしょうか。
なぜインフレにならないのか
田原総一朗さんは、「日本の長期累積債務は1200兆円。ここまで借金がふくらめば、ふつうはインフレになるはずだけど、なってない。なんで?」と質問しています。
それに対して、藤井聡さんはこう答えています。
「需要」というのは、財政問題のキーワードですね。
2013年に始めた、いわゆるアベノミクスでは、日銀の黒田東彦総裁が「かつてない異次元のレベル」と言った超金融緩和を行いました。
金融緩和というのは、モノが売れず景気が悪いときに金利を下げることです。
金利を下げることで、お金を借りやすくしているわけです。
でも、お金を借りる人はいなかった。
デフレ経済が冷え込んでいたら、いくら金融政策を緩めても、金を借りたいという人はいない。「需要」はないということです。
金利は跳ね上がるのか
田原総一朗さんは、もうひとつ質問しています。
「国債をたくさん出すと金利がすごく高くなり、政府の利息の支払いだけでも膨大になって破綻するんだ、なんていうこともよく聞くけど、それはどうなの?」
藤井聡さんは、「MMTは、それとは逆に金利が「下がる」と予想します。で、実際に起こっているのは金利の上昇でなく、金利の下落です。つまり、一般の経済学が間違っていて、MMTが正解なんです。」と答えた上で、解説を続けています。
①貸す人が少ないと、国債の金利を上げないと充分なカネを貸してくれないから、しかたなく金利を上げる。②逆に貸す人が多いと、政府は金利を下げてもカネを借りられるから金利を下げる。①は国債が人気薄で、国債価格が低い状態、②は国債が人気で、価格が高い状態です(国債購入価格の上下と金利の上下は逆向き)。 以上が話の前提です。この前提のもとで、ここでもし「おカネの量が一定」だったとしたら、政府がカネを借りれば借りるほど、カネを貸す人はどんどん少なくなっていきますよね。だから、①の状況となって、金利は徐々に上がっていく。 経済学の教科書には、そう書いてあります。
田原 だから金利が上がるはずなのに、上がらない。なんで?
藤井 金利が上がるという話は「おカネの量は一定」が前提。でも実際はそんな前提は完全な間違い。そもそも国債発行は形式上「借りる」プロセスを一部含みますが、政府は借りたカネを市場で必ず使いますから、市場に存在するおカネの総量は差し引きゼロ。むしろ昨今では日銀が国債を大量に買っていて、政府が事実上カネを供給しているわけで、カネの量は減るどころか逆に「増える」。だから、3の状況となって金利は必然的に下がるのです。
しかも、デフレ下の日本では誰もカネを借りようとしないので、そもそもがの状況。だから金利は下がる。
もちろん、国債を出してカネを使えばデフレから脱却できて金利が上がる状況になりますが、いまの日本は国債発行額が少なすぎなので、デフレのまま。
日本経済は、もっと借金をしなければ、インフレになれないんです。
お金を刷るとインフレになる、という説は、たとえば日本共産党の志位和夫委員長なども公式サイトで語っています。
しかし、それはなにか統計的な根拠をもっているわけではありません。
2020年度の新規国債を22兆3950億円追加発行しましたが、さてインフレになったでしょうか。
しかも、これではまだ足りません。
「日本経済は、もっと借金をしなければ、インフレになれないんです。」という藤井聡さんの見解のほうが、どう見ても道理があります。
一方、日本共産党が対策として減らせといいはる軍事費は5.4兆。
しかもその半分近くは人件費です。
日本共産党の言う通りやっても、今のデフレには焼け石に水で、それ以上の額の国債発行を行ってもインフレにはなっていないのです。
一方、れいわ新選組の山本太郎さんは、国民に毎月10万円を配り続けたらインフレ率はどうなるのか、というシミュレーションを行っています。
ここで、参考までに、れいわ新選組の山本太郎さんの動画もご紹介しましょう。
【みんなに毎月10万円を配り続けたら国は破綻するか?】#特別定額給付金 #新型コロナウイルス #現金給付【れいわ新選組代表 山本太郎】 https://t.co/c638dRiBgX @YouTubeより
— 石川良直 (@I_yoshinao) May 8, 2021
動画では、参議院・調査情報担当室に委託して、 ひとり毎月10万円(年間120万円)、20万円(年間240万円)の給付を、国内の人々1.26億人に給付する場合、インフレ率はどうなるかという試算を公開しています。
10万円を給付する場合 1年間で月10万円×1.2億人×12か月=144兆円。
結果は、物価上昇率は1.215倍に過ぎないそうです。
そこで、4年連続(48ヶ月、2023年度まで)毎月10万円給付したら、2年目は1.436倍、3年目は1.809倍、4年目は1.751倍と、逆に4年目では下がってしまうそうです。
さらに、山本太郎さんは、毎月20万円でも試算を披露。
20万円を給付する場合 1年間で月20万円×1.2億人×12か月=288兆円。
その場合でも、1.495倍しか上がらなかったそうです。
2年目は2.255、3年目は2.951、4年目は2.741で、2年目~4年目は2%をオーバーしてしまいます。
山本太郎さんは、「1年目は20万円を配り、2年目からは10万円とかっていうコンビネーションでもひょっとしたらいいかもしれませんね」と述べています。
藤井聡さんの解説と、山本太郎さんの試算は、「財政出動スべし」で一致しています。
MMTへの根強い「誤解」
藤井聡さんの4つの提言の根拠になっているのは、現代貨幣理論(Modern Monetary Theoryy⇒略称MMT)です
日本は円を使い、その通貨発行権をもっているのだから財政破綻しない。
よって、税収や政府債務ではなく、インフレ率で財政を調整すべき、当面まだまだ財政出動できるとする説です。
ところが、MMTは誤解、もしくは意図的に藁人形論法で歪曲されてとらえられていることが少なくありません。
財政破綻しない、というところを、まるで揚げ足を取るように、「いくら財政支出をしても構わない珍説」とデマを飛ばす人々が絶えません。
MMTは、インフレ率で財政を調整すべきだからまだ積極財政できるとしているだけで、際限なくお金を使えと提唱などしていません。
中には、インフレ率での調整がうまくいくのか、支出しすぎないかという懸念もありますが、藤井聡さんは、その年度だけの支出である補正予算の制度を活用することで、慎重に支出していけばよいとしています。
田原総一朗さんは、「 「生き金」と「死に金」という言葉がある。 今こそ、 国民のために「生き金」を使う時だろう。 それがアフターコロナの、 経済回復につながると僕は思う。」と結んでいます。
さて、みなさんは、どうお考えですか。
『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(田原総一朗/藤井聡、アスコム)は、AmazonKindleUnlimitedの読み放題リストに入っています。
以上、『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(田原総一朗/藤井聡、アスコム)は、積極財政によって日本経済を立て直す提言です。でした。
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