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テレビドラマ『ゆうひが丘の総理大臣』の大岩雄二郎は、室生犀星をモデルとした「不幸は見飽きた」優しさを持った人情教師

テレビドラマ『ゆうひが丘の総理大臣』の大岩雄二郎は、室生犀星をモデルとした「不幸は見飽きた」優しさを持った人情教師

『ゆうひが丘の総理大臣』を真っ先に思い出したのは『「今こそ!見たい」学園ドラマベスト5』という投稿をFacebookで行ったときです。もちろん、世代によって学園ドラマのリアルタイムは変わってくると思いますが、それ以外の興趣が同作にはあります。

「今こそ!見たい」学園ドラマベスト5

Facebookのあるグループで、『「今こそ!見たい」学園ドラマベスト5』というお題がありました。

『朝日新聞』(2021年3月20日付)の記事に、杉田かおるさんのインタビューがありました。

テーマは、学園ドラマ。

同紙によると、読者のランキングが

  1. 3年B組金八先生
  2. 熱中時代
  3. 中学生日記
  4. のだめカンタービレ
  5. 飛び出せ!青春
  6. われら青春!
  7. ごくせん
  8. おれは男だ!
  9. 青春とはなんだ
  10. これが青春だ

という順番で、杉田かおるさんは、『3年B組金八先生』に出演されていたわけです。


それで、Facebookのあるグループでも、ベスト5の投稿を行っていました。


そこで私が投票したのは、

  1. ゆうひが丘の総理大臣
  2. 飛び出せ!青春
  3. おれは男だ!
  4. 青春ド真中!
  5. 青春とはなんだ

まあ、これだけなら、1970年代後半にリアル中等教育を受けた世代なら、ありがちな投稿かもしれません。

ただ私にとって、1位は自分の学年と重なることもありますが、学園ドラマと言うより室生犀星をモデルにした大岩雄二郎の人間ドラマの趣があり、もう別格なのです。

その視点から、『ゆうひが丘の総理大臣』について振り返ってみます。

養護施設出身のソーリは「不幸は見飽きた」

『ゆうひが丘の総理大臣』(1978年10月11日~1979年10月10日、ユニオン映画/NTV)の原作は、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で1977年12号から1980年16号まで連載されました。

ただ、その中身は中村雅俊主演のテレビドラマとは大きく違います。

どちらかというと、かつての人気青春ドラマ『俺たちの旅』の高校教師版といった趣です。

母子家庭だったのが、母親に捨てられ養護施設で育ち、自力でアメリカの大学に入学。

DVDより

後輩の大野木念(神田正輝)の紹介で、ゆうひが丘学園高等学校の英語教師になった大岩雄二郎(中村雅俊)。

百田てる校長先生(京塚昌子)は、そんな雄二郎に、勉強だけでなく人間的な豊かさ・温かさを生徒に教えてほしいと期待していますが、同校を有名大学進学の名門校にしたい東郷教頭(宍戸錠)や、その腰巾着の伊井加一(小松政夫)とはウマがあいません。

校長の姪の百田桜子(由美かおる)は、教頭たちが、教師経験の浅い大岩雄二郎にトラブルを起こさせて、叔母を校長の座から引きずり下ろしたいのではないかと心配しています。

というのも、雄二郎のクラスには、授業に出てこない柴田(井上純一)、冬木(草川祐馬)、山川(清水昭博)という3人の問題ある生徒がいました。

めずらしく出席しても、授業中に漫画を読み始めます。

それを咎めた雄二郎に、柴田は、「たかが教師じゃねえか、総理大臣みたいな顔すんなよ」

それに対して雄二郎は、「この教室じゃあ、俺は総理大臣よりも上だ」

ここでついたあだ名が「ソーリ」。

このへんまでは、それまでの熱血教師ドラマにもあるパターンです。

しかし、本作は、その「養護施設で育」った部分にもドラマツルギーを求めています。

学園ドラマですから、先生と生徒の関わりはもちろんありますが、それだけでなく、同僚の先生や、生徒の保護者、そして自分の身内と、友情、親子愛などの人の絆に対する葛藤が見どころでした。

養護施設出身の苦労人のため、「不幸はもう見飽きた」という人生観を持ち、おせっかいをやいて、周囲の人の「不幸」や「寂しさ」の芽を摘みたくなってしまうのです。

同僚の大坂先生(名古屋章)と、娘の道子(篠ひろ子)の関係を修復させたり、巻き添えを食うように婚約解消された山下先生(前田吟)とも結婚させたりします。

たんなる、熱血教師と落ちこぼれのドラマではなく、寂しさや不幸を抱える人と、自分の哲学をかけて本気でぶつかる姿が描かれています。

そのクライマックスが、第36話の『やさしさって何ですか?』(1979年8月8日放送)でした。

室生犀星をモデルとしていた大岩雄二郎

アメリカ時代の友人(戸井田稔)に、北海道に招かれたソーリ、

友人からは、「お前の母親らしき人(南風洋子)が湖(洞爺湖)の向こうで働いている」と聞かされます。

小さいころ、妹(山本ゆか里)と一緒に母親に捨てられ、養護施設で苦労した疑念や憤りの一方で、どんな親でも親は親、という思いが交錯します。

悩みながらソーリは、母親が売り子をつとめる売店でジュースを買ったり、こっそり家を見に行ったりします。

DVDより

このへんのシーンが実に切ない。

そして、一緒に暮らしている再婚相手(佐藤允)の話から、やはり自分の母親に間違いないと確認しますが、結局名乗らずに東京に帰ります。

行く列車を、ホームから母親が追っていたとも知らずに……


過去を怨むことはやめます。でも今のお互いの生活を大事にしましょう、だから親子の名乗りはあげないようにしましょう、というのがソーリの結論でした。

DVDより

ドラマと知りつつも、ちょっと泣ける展開です。

私は、そんな大岩雄二郎に、室生犀星が重なって見えます。

いつも授業の進め方のことばかり考えている木念とは対象的に、大岩雄二郎はマンガしか読まない設定です。

ところが、なぜか室生犀星の『朝を愛す』の一節を、スラスラと諳んじるシーンが出てきます(1979年4月25日放送の『総理先生しっかりして!』)。

DVDより

制作側は、室生犀星をモデルとしているのかもしれないと思いました。

そして、第36話です。

室生犀星は、非嫡出子として生まれて、7歳で室生家の養子になるなど不幸な生涯を送ったにもかかわらず、健全に生きようという詩を残しています。

その一方で、

「ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの」(「抒情小曲集」)の詩にあるように、不幸な過去は振り返らないという強い気持ちから、決して故郷には帰らなかったといいます。

室生犀星を思わせる大岩雄二郎の生きざまは、たんなる学園ドラマの枠を超えた奥深さを感じました。

付記

ソーリの実の母親の再婚相手を演じたのは故・佐藤允さん。

第36話が印象深いとツイートしたところ、息子さんの佐藤闘介監督も「僕も傑作だと思います」とリツイートしてくださいました。

以上、テレビドラマ『ゆうひが丘の総理大臣』の大岩雄二郎は、室生犀星をモデルとした「不幸は見飽きた」優しさを持った人情教師、でした。


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