ヤマト運輸が、羽田クロノゲートで運営する障碍者を雇用したレストラン&ベーカリーは、ヤマトホールディングスの特例子会社です。障害者雇用促進法第44条に基づくものですが、同社が「ブラック」に稼ぎその利益を障碍者に分配していると揶揄する向きもあります。
FaceBookで、ある記事が話題になりました。
まずは、その記事の内容からご紹介しますと、クロネコヤマトの宅急便でおなじみの、ヤマト運輸の話です。
同社では、羽田のクロノゲートという基地の敷地内に、障害者雇用で運営されているレストランとベーカリーがあります。
それは、同社の創業者小倉昌男さんが、共同作業所で障碍者が手にする給料がわずか1万円(当時)にも満たないことを知り、障碍者の自立を考えて作った店舗です。
ところが、それに対して、同社はブラックだから、その利益を障碍者に回して点数稼ぎをしている、というコメントが有ったのです。
これは、捨て置けないなと思ったので、今回シェアします。
もちろん、シェアすると言っても、素晴らしいコメントという意味ではなく、批判的懐疑的に考えさせられると思ったからですけどね。
クロネコヤマトの基地に障碍者対策
人気取りとかいう批判もありましたが、そうではなくて他社もすべきというべきでは?まだまだ障碍者に対する理解が足りないんだな、この国は。https://t.co/S26gcQeQHh @Sankei_newsより
— 赤べコム (@akabecom) January 5, 2023
記事には、こうあります。
暮れのサッカー・ワールドカップが盛り上がるなか東京駅近くの日本工業倶楽部で「第23回ヤマト福祉財団小倉昌男賞」の贈呈式が開かれていた。宅急便の生みの親でヤマト運輸元社長の故小倉昌男氏が、30年前に個人資産の大半を投じて財団を創設した。その主催行事。当時、障害者にとって働くことは困難で、しかも「月給1万円」といった待遇に置かれていたという。小倉氏はこれに憤慨し、財団として雇用を創り出し障害者に働く喜びや生きがいをもたらす人々らを支援する活動に取り組んできた。要するに、小倉昌男さんは、経営と福祉を両立させてきた、という話です。
まんが鬼の創業者列伝(アンソロジー著、コアマガジン)でご紹介したことがあります。
『日本を震撼させた影響力 成功を収めた企業社長5傑』というタイトルで、物流に新しいビジネスモデルを構築したことが書かれています。
アイデアマンなんでしょうね。
もちろん、今回の記事はペイドパブ的な意味合いがあるのかもしれません。
しかし、書かれていることは事実です。
どういうことかというと、クロネコヤマトの生みの親である小倉昌男さんは、障碍者の自立と社会参加の支援を目的とした、ヤマト福祉財団を1993年に設立しました。
1995年1月の阪神淡路大震災で、障碍者の働く共同作業所を訪ねた際、そこで障碍者が手にする給料がわずか1万円(当時)にも満たないことを知り、小倉昌男氏は自立するにはほど遠い現状に疑問を持ったといいます。
そこで小倉昌男さんは、障碍者が低賃金からの脱却を図るため、「作品」作りではなく「商品」作りを目指したセミナーを1996年から全国各地で開催。
この過程の中で、月給10万円以上支払うことを実践する、「焼き立てのおいしいパンのお店」を開くことを決めたそうです。
そして、現在同店の運営会社として、株式会社スワンがあります。
ヤマトホールディングス株式会社の特例子会社です。
法律では、従業員50名以上を擁する会社は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」によって、従業員全体の2.0%以上障碍者を雇用することが義務付けられています(重度障害者の場合は2名として計算される)。
ただし、同法44条で、たとえばグループ内企業の障害者雇用率が法定雇用率より少なかったとしても、特例子会社を含めて数字がクリアされていればよいということになっています。
つまり、特例子会社というのは、グループの障碍者受け入れの事業部という位置づけになります。
東京国際空港(羽田空港)とは、海老取川を隔てて、羽田クロノゲートという、ヤマト運輸の日本全国を結ぶ物流ターミナルがあります。
在庫保管や、流通加工を行う物流センター、スピード配送を行う国内航空便、航空輸送や海上輸送による国際物流など、様々な機能が一体化した大型複合施設です。
その敷地内に、スワンカフェ&ベーカリー羽田CHRONOGATE店という、ベーカリーとレストランの店があります。
そこが、株式会社スワンの運営する店舗です。
「カフェ&ベーカリー」という屋号ですが、飲食スペースでは、1000円以上のステーキ類も提供されているので、食事もできる店です。
就労が近い障碍者の保護者は、必ずといっていいほど羽田クロノゲートを見学します。
障碍者の採用を前提としたシステムを、高く評価する親御さんの声はよく聞きます。
たとえば、IC社員証で社食の会計も済ませるシステムをまっさきに導入したとか。
お金の勘定が苦手な知的障害者にとっては、便利な仕組みです。
「作品」作りではなく「商品」作り
で、それが紹介された記事に対して、会社がブラックだから、その利益を障碍者対策に回していい気になっているのか、という旨のコメントが書かれました。
それではまるで、同社の雇用は健常者労働者の犠牲の上に成り立っているということで、あんに健常者の利益のために、障碍者雇用をやめろと言っているようなものですよね。
少なくとも、健常者の労働条件と、障碍者の雇用が、まるでトレードオフのように聞こえる言い方ですよね。
不毛な話です。
本来、この記事を読む限り、
- 障碍者雇用と「ブラック」の問題は別
- 同社をけなすのではなく、他社も同社の障碍者対策に続けと求める
と私は思いますが、いかがでしょうか。
だって、特例子会社は法律に基づいたものですから、それは障碍者の雇用のために必要なのです。
「ブラック」に稼いだものの還流というのなら、「ブラック」であること自体を批判するとか、国の補助を手厚くするとか、そうした提案や批判を行うべきものであり、特例子会社を否定しても何も生まれませんよ。
そもそも、障害者雇用をやめたら、「ブラック」が改善されるという保証でもあるんですか。
ないでしょう。
それはまさに、別の問題だからですよ。
なぜ、私がこのコメントを問題にしたかというと、障碍者雇用問題をわかっていないということとともに、批判の仕方がズレていることが気になったのです。
メディアや、Web掲示板が、何かというと「ブラック」と言っているから、ネット民はヤマト運輸の話題について、とにかく「ブラック批判」だけをすれば良いのだろう、という短絡的な思考に陥っているのではないでしょうか。
もちろん、「ブラック」問題は、社会政策として忽せにはできません。
でも、ここで話題になっているのは、障碍者の雇用の機会ですよね。
実際には、障害者雇用促進法は守られているのか、形式的に守られても機能しているのか。
各企業を見ると、いろいろ問題は出てくると思いますよ。
「作品」作りではなく「商品」作り、というヤマトホールディングスの発想は、私は良いと思います。
障碍者にもいろいろあって、重度の障害者の親御さんからは、こういう同社の取り組みには嫉妬混じりの中傷もあります。
でもね、知能や身体能力は健常者並みでも、事情があって手帳を持っている「軽度の障碍者」はたくさんいます。
そういう人たちには、大きなチャンスなのです。
そして、同社の成功によって企業は、やがてより重度の障害者への活路にも目を向けるようになると思います。
企業が、ブラックの方に行ってしまうのは、余剰利益を旨味とする資本主義の定めです。
資本主義をやめないのなら、逆にその余剰利益を労働者の側から資本家にちらつかせることでしか、無産階級の活路はありません。
障碍者が魅力ある労働力である、ような世の中になる第一歩は、まず同社のような障害者雇用の実績を作ることだと思います。
ですからね、何が問題になっているか、という根本を見誤っても、建設的な提案はできないと思います。
以上、ヤマト運輸が羽田クロノゲートで運営する障碍者を雇用したレストラン&ベーカリーは、ヤマトホールディングスの特例子会社です。でした。