公務員の不祥事があると、国民に食わせてもらっているという批判が。だったら、民間企業は国民に食わせてもらってないのか。これは、障碍者は健常者に食わせてもらっているという説とも重なります。MMT(現代貨幣理論)はそれらの説を否定しています。
私達国民が高級クラブのお金を払ってあげた?
もと記事は『幻冬舎ゴールドオンライン』です。
『日本の平均家庭崩壊…家族3人、お肉は1日250円までの悪夢』というタイトルです。
「約3人世帯の食費が1ヵ月8万円」という調査報告を紹介しています。
日本の平均家庭崩壊…家族3人、お肉は1日250円までの悪夢 https://t.co/vPatFfXlxS @gentoshagoより
— 石川良直 (@I_yoshinao) April 18, 2021
これはこれで、論考すべき記事だと思いますが、今日触れたいのはこの記事それ自体ではありません。
Facebookの障碍者グループで、記事に対してこのようなコメントが投稿されました。
ご自分の家計と比べて見ては、如何でしょうか?
3人世帯の一ヶ月の食費が8万円くらいですか。。
国民に夜8時以降の外での飲食は禁止する様に呼びかける国家議員達。
その国家議員が深夜の高級クラブで一晩で、一人あたり8万円でしたっけ?記憶があいまいですが。
給料は税金なので私達国民が高級クラブのお金を払ってあげましたが。
要するに、国民の生活は緊縮財政になっている時に、「国家議員」(ママ)は「一人あたり8万円」もの金を使っている。
しかし、彼らの歳費は税金から出ているのだから、国民が「一人あたり8万円」を払っているのだ、と言っているわけです。
もちろん、例の会食が無問題のはずはありません。
予算の適切な配分と執行が、大切なことも確かです。
ただ、それを言わんとしているとしても、一言せずにはおれない箇所があります。
そもそもたいへん粗雑なコメントですが、最後の1行が、MMT(現代貨幣理論)の立場から、そして障碍者のグループ(つまり投稿者は障碍者か)という点でも気になったので、書き留めておきたいと思いました。
国民はすべて国民に食わせてもらっている
「給料は税金なので私達国民が高級クラブのお金を払ってあげました」と書かれていますが、もちろん国民は払っていません。
この方は払ったという自覚があるのでしょうか。
要するに、この方は、「公務員は国民が食わせている、公務員の金は国民の金だ」という考え方で物を言っているわけです。
これは二重に変です。
まず、公務員の労働の捉え方がおかしい。
公務員の給料は、彼らの正当な労働の対価です。
公務員は、別に非公務員の奴隷でも丁稚でもありません。
次に、国民が公務員を食わせているという認識です。
この人は、行きつけのラーメン屋で、おれがこの親父を食わせてやっていると思い、買い物をするスーパーで、俺がここのパートのレジ係を食わせてやっている、などと思うのでしょうか。
ちなみにこの人は、郵便配達の仕事らしい。
ちょっと前までは、この人の言い方では、この人自身が国民から食わせてもらっていたことになります。
たぶん、長年そう言われてきたか、そういうコンプレックスを抱えてきて、郵政民営化されたから、晴れて「公務員は国民に食わせてもらっている」といえる立場になったんでしょうね。
でも、「お客さん」がいなければ郵政事業は成立しません。
「お客さん」は誰かと言えば、結局国民なんですよ。
つまり、この人の言い方を借りるなら、親方日の丸でなくなっただけで、郵政の人々は「国民に食わせてもらっている」ことには何ら変わりがないのです。
それはもう、先程の例で言えば、ラーメン店でもスーパーでも同じです。
つまり、「国民に食わせてもらっている」という言い方をしたら、それはすべての業務、サービスの対価にあてはまるのです。
公務員だけが、国民に食わせてもらう国民の奴隷という考えは、たんなる公務員蔑視にほかなりません。
だいいち、公務員がいなかったら、私達の暮らしは成り立たないんですけどね。
そこをどう考えているのでしょうか。
MMTは税金を財源としていない
次に、この方は徴税を財源として公務員の人件費をまかなっている、と考えている点に問題があります。
これはもう何度も書いてきましたが、MMT(現代貨幣理論)は税金を財源とする立場にたっていません。
税金は社会の財源ではなく、格差を抑えたり、インフレ率を調整したりするために徴収するもので、国の予算は本来国債で構成されています。
MMTにおける徴税の役割とは、おおまかなところで、以下のようなことが考えられます。
- インフレ抑制
- 格差の是正
- 円の通貨としての価値を担保する
- 社会秩序を守るために利用する
……MMTによる国債発行のコントロールはインフレ率による
……累進課税によって富裕層と中流層・貧困層との格差を広げないようにする。そもそも富裕層にとっての税は、同額であっても中流層・貧困層よりも犠牲が少ない
……納税義務を貨幣(円)で果たすことで、その貨幣に価値(需要)が生まれる
……お酒やタバコに税金をかけることで、需要をコントロールすることができる
今回の例で言えば、公務員の人件費の財源ではありません。
確定申告が、例年よりも1ヶ月遅れで期限が来ましたが、税収が確定する前に、今年度の予算は成立しましたよね。
もし、それで足りなければ、補正予算という形で支出しますよね。
では、その財源はどこからくるのか。
その都度、過去の国債の借り換えに加えて、10兆円以上も新たに新規国債を発行しているでしょう。
そうです。
財源は、国債発行です。
国債という「借金」をして国(政府)が赤字になるなら、国民のお金(マネーストック)は逆に黒字になります。
それは、実体経済成長の前提です。
ですから、財政健全化には、むしろ国(政府)が赤字の方が良いのです。
そして、そもそも国の債務は、私達が考えるところの「借金」なのか、ということです。
私達の家計は、働いて得るお金よりも支出が多ければ、いずれは破綻します。
しかし、国は自分(日本銀行)でお金を発行できるのですから、破綻しようがないでしょう。
財務省は、「国の借金1000兆円。プライマリーバランスを黒字にしないと、孫子の代まで借金を残してツケを払わせるのか」という国民に対する脅しをいまだにやめません。
これは、インチキな物言いであるということはだいぶ浸透してきましたが、今回の方には浸透していないことになります。
税金を財源として社会が回っているという考え方では、財務省のプライマリーバランス論を否定できないからです。
障碍者は健常者に食わせてもらっているのか
このMMTの立場での徴税論でいえば、障碍者は健常者に食わせてもらっている、という考え方も成立しないことがわかるでしょう。
しかし、この方のロジックで言えば、介護福祉サービスを受ける障碍者は、税金を払う健常者に食わせてもらっているということになってしまいます。
障碍者が、間違った根拠をもとに障碍者を穀潰しのように言うのは、私は厳しく見ておきたい。
先程の、国民が公務員を食わせている、もそうですが、誰かが誰かを食わせている、という論理が根本的に間違っているのです。
もう1度簡潔にまとめますが、国民の業務・サービスはすべて国民を「お客さん」にして成り立っている。
つまり、食わせてもらっているという表現をどうしても使いたいのなら、公務員でなくてもみんな「国民に食わせてもらっている」。
税金は社会の財源ではないので、介護福祉サービスを受ける障碍者が、税金を払う健常者に食わせてもらっているというロジックは成立しない。
いうまでもないことですが、障碍者の介護福祉サービスの中には、手帳のない高齢者、妊婦など、障碍者でない人にとってもそのサービスを享受できるバリアフリー化もあります。
公務員の「無駄遣い」があったとしても、そのツケを国民が払ったことはないし、払わなければならないかのような考え方は、財務省を喜ばせるだけです。
以上、公務員の不祥事があると、国民に食わせてもらっているという批判が。だったら、民間企業は国民に食わせてもらってないのか、でした。
まだMMT理論を知らない貧困大国日本 新しい『学問のすゝめ』 – 小浜逸郎
財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生 [ ステファニー・ケルトン ] – 楽天ブックス