「自分の名字って変えられるのかな?」って、思ったことはありませんか。生まれながらにして誰もが持っている。でも結婚のとき以外、変わることがないとされている姓。法的に変える方法はいくつかありますが、ハードルは決して低くはありません。
姓(名字)って自分では変えられないの?
巷間、選択制夫婦別姓の賛成派が少しずつ増えているようです。
まあ、時代の趨勢で、早晩実現するのでしょう。
戸籍制度は、家制度から、戦後は家族制度に変わったわけです。
本来は、家族制度のもとでは、家系の証のような姓からはもっと自由であるべきですが、残念ながら、同姓はもちろん、選択制夫婦別姓にもその精神は見られません。
つまり、家制度からの脱却と発展という見地からすると、どっちもどっち、場合によっては選択制夫婦別姓はある意味旧弊な家制度の復活とも言えます。
なぜなら、自分の先祖の姓を引き続き名乗らせる自由、ですから、むしろ結婚してもどちらの家系の証も残そうということにほかならないからです。
……とまあ、堅苦しい話からスタートしましたが、要するに、姓(名字)って自分では変えられないの? というのが今回の話です。
【法律相談】名字の変更は可能か? https://t.co/aFZyhC4XP3 @YouTubeより
— 畠中由宇・相互フォロー100% (@hata_follow) December 1, 2020
リンクしてた動画は、「蛇口」と書いて「へびぐち」と読む人が、珍しい名字のせいで、子どもがいじめられ、病院では「じゃぐち」と呼ばれるから変更したいという母親の相談です。
いじめだのヘイトだの、日本人も大したことないですね、
名字は、自分が決めているわけではないですから、そんなものでいわれのないいじめをするというのは、人種や国籍や障害に対する差別のタグイとかわりません。
動画では、法律(判例)をそのまま紹介しています。
姓の変更は「やむを得ない事由」がある場合(戸籍法107条1項)で、「氏が珍奇・難解・難読で、他の者に読むことが困難で、社会生活上著しい困惑と不便を与える場合とか、同姓同名者がいるため混同され社会生活上著しい支障があるような場合」(1984年7月の大阪高裁判決)ということ。
これは、たとえば、両親が離婚したが、父方の姓を名乗るのが嫌になったとか、必ずしも珍名だからというだけでなく、様々な理由を含みます。
まあ、いずれにしても一般的に姓の変更のハードルは高いという話です。
形式的離婚か養子縁組か
それ以外に制度として変更できる方法は、大きく分けると2つです。
- 新しい姓の戸籍を作ってそこに入ること
- 他の姓(名乗りたい姓)の戸籍に養子縁組すること
「1」の場合、たとえば結婚すると自動的に親の戸籍から別れて新しい戸籍を作りますが、その際、自分の姓ではなく配偶者の姓を名乗るということです。
しかし、この方法では、結婚する当事者、どちらかの姓しか選択できません。
佐藤さんと鈴木さんが結婚しても、高橋さんを名乗ることはできず、佐藤か鈴木かしかないということです。
ちなみに、「新しい戸籍」には、ひとつ裏技があります。
既婚者が形式的に離婚し、配偶者の旧姓で新しい戸籍を作り、再婚してその戸籍に入るのです。
佐藤さんと鈴木さんが結婚して佐藤さん夫妻になって、離婚⇒再婚して鈴木さんになる、ということです。
「2」の場合、既婚者なら夫婦養子という形で姓を変更することができます。
佐藤さんと鈴木さんが結婚してどちらかの姓を名乗っても、親戚や親類の高橋さんに夫婦養子に入ると高橋さんになれます。
もちろん、戸籍は家族単位なので、「養親」の高橋さんとは戸籍は別で、新しい「高橋」の戸籍を作ることになります。
ただ、いずれにしても、「離婚」や「養子」の場合、戸籍制度を弄ぶとのそしりを一部に受けるかも知れません。
また、「養子」は形だけとはいえ戸籍上の親子になりますから、相続や扶養介護についての話を事前に決めておかないと後々揉めるかも知れません。
養子にしてくれた人からすれば、名字をやったのだから老後の面倒を見ろ、という話になりかねません。
読みだけならすぐに変えられる
こうしてみると、やはり姓の変更は難しいようです。
日本が、いかに家系を重んじているかがわかります。
ですから、冒頭に書いたように、所詮選択性夫婦別姓制度などは、それを変えるものではないのです。
なんとか、「裁判」も「離婚」も「養子」も使わずに変更できる道はないものか。
ひとつだけあります。
名字の変更は、読みだけなら戸籍をいじらずに可能なのです。
なぜなら、戸籍に読みは記載されないからです。
変更は、書類も不要で、役所(住民票)への届出は電話1本で済みます
実は、私もその方法で姓の変更をしました。
ただ、この場合、手続きは簡単ですが、役所からも変更の証明は発行されません
ですから、金融機関が変更の証明を求めてきた際、役所に照会などを行いますから少し手こずるかもしれません。
でも手こずるとはいっても、変更は役所ですでに行っているわけですから、「名の変更」ほどの時間はかからないと思います。
私の母は、家庭裁判所で、戸籍の「名」を変更したことがあります。
父が付き合いがあった、千葉の有名なお寺の住職に「字画が悪い」とつけてもらった名前で、しばらく“通り名”として過ごし、郵便物が5年間溜まったところで、家庭裁判所に申し立てて変更が認められました。
つまり、名の変更は時間がかかるのです。
放っておいた場合、銀行の口座が旧姓の「読み」のままですと、振込や引き落としでひっかかることがあるかもしれませんが、新しい「読み」で照会がくるので、いずれにしても金融機関側は変更はしてくれると思います。
それに、手こずると、逆に、「ああ、名字が本当に変わるんだなあ」という変な快感がありますよ。
もっとも、極端な例ですが、「佐藤」と書いて「すずき」と読ませる「読みの変更」もすんなり通るかどうかは、その自治体の担当者によって理由は聞かれるかも知れませんね。
字の変更はどうする?
しかし、読みの変更だけでは、動画の『蛇口』問題は解決していないですね。
動画の例は、「へびぐち」さんが「じゃぐち」と読まれることも嫌だと言っています。
つまり、蛇口さんは字そのものを変えたいわけです。
これについては、確実な裏技もありませんが、私が考えていることは、
「読み」の既成事実を作ってから「字」も変更する
ということです。
そんなことできるのか?
自分で実践しているわけではないので、「できる」とはいえませんが、私が考えているのはこういうことです。
読みをかえても、周囲に旧い読み方をする人はいると思います。
それはそれでいいのです。
むしろそれを逆手に取って、読みと字が一致しないことをもって、「難読で、他の者に読むことが困難で、社会生活上著しい困惑と不便を与える場合」だから不都合が生じているとして、家庭裁判所に今度こそ姓の変更を申したてるのです。
蛇口を「じゃぐち」と呼ばれるので、「経美口」に変えたい、とかね。
裏技と言うより、ウルトラCですね。
でもこれは、裁判官の判断になるので、不確定要素の伴う手法です。
まあ、日本が、性の開放ならぬ「姓の開放」に発展するよう願いたいですね。
以上、自分の名字を変えることができるのか?生まれながらにして結婚や養子以外は一生モノである姓の合法的変更の可能性を考える、でした。