『水道水を「そのまま」使う人は6割弱しかいないらしい』という『Jタウンネット』がアンケート調査の結果をまとめた記事が話題です。統計によると、関西に行くほど水道水の使用率が減ります。水質上やむを得ない場合もありますが、我が国は安全安心な水の供給で世界に誇れる国です。
「東」より「西」で水道水使用率は下がる
『水道水を「そのまま」使う人は6割弱しかいないらしい』というJタウンネットの記事によると、2020年8月28日~21年2月18日にかけて、「家庭用に『水』を買う?それとも水道水を使う?」というテーマでアンケートを実施。
3219票の得票結果は、
- 水は買う(水道水は使わない)……17.6%
- 水は買わないが、水道水はそのまま使わない(浄水器、煮沸など)……25.7%
- 水は買わないし、水道水をそのまま使う……56.7%
とのことです。
記事では、「水を考えるプロジェクト」が公表した「全国47都道府県 水についての意識実態調査」(全国の10代から60代の男女4700名を対象)において、「地元県民がおいしいと思う水ランキング」の上位と、水道水の使用率が90%台の地域と重なっているそうです。
一方、首都圏ではおおよそ4人に1人が、水道水ではなくミネラルウォーターなどで、ご飯を炊き、飲水しているという結果であることも指摘。
さらに、全国で最下位だった沖縄(54.5%)は、硬度が高かったことも解説しています。
「日本の全表土の3分の1(平地の大部分)は火成岩土壌でできていますので、カルシウムが少なく水はほとんどが軟水となります。
沖縄本島は、中・南部の地域が石灰岩層から形成されていますので、その影響を受けた井戸水や地下水は硬水になり、硬度が高くなっています」
これがもと記事です。
水道水を「そのまま」使う人は6割弱しかいないらしい – Jタウン研究所 – Jタウンネット https://t.co/to9aPHwi50 @jtown_netより
— スケプティクス豚 (@butacorome) February 20, 2021
では、それ以外に「水を買う」のはどんな理由があるのか、調べてみました。
『ITmediaビジネス』では、「ミネラルウオーターを飲む理由」というアンケート調査を発表していますが、
ミネラルウオーターを飲む理由は「おいしい・飲みやすいから」が62.6%で圧倒的に多く、「水道水はおいしくないから」(38.6%)など、“おいしさ”が決め手になっているようだ。このほか「水道水に不安を感じるから」(37.5%)「ミネラルが豊富だから」(30.6%)「安全だから」(24.7%)と続いた。とのことです。
インターネットによる調査で、8383人(男性47.1%、女性52.9%)が回答したそうです(調査期間は3月19日から3月27日まで)。
もちろん、別個の調査ですから、この2つのアンケートをダイレクトに結びつけることは出来ませんが、「そういう傾向がある」というめやすにはなるでしょう。
私がここで気になったのは、水道水ではなくミネラルウォーターを買う理由が
- 水道水はおいしくないから
- 水道水に不安を感じるから
- (ミネラルウォーターは)安全だから
と枚挙されていることです。
「1」は好みの問題ですが、「2」と「3」は、事実認識を誤っています。
水道水とミネラルウォーターに対する誤解
「水道水は塩素が入って危険」「ミネラルウォーターは自然のものだから良い」
よく言われますが、これは間違いです。
残留塩素
水道水には、たしかに微量の塩素が含まれています(残留塩素)。細菌などの病原微生物を消毒する目的で、一定量の塩素を加えることが法律(水道法)で義務づけられているからです。
しかし、それは必要だから、安全性を考慮しながらそうしているのです。
水道計画・水質管理の国際的技術者である小島貞男さんの著した『水道水 安心しておいしく飲む最新常識』(宙出版)によると、水道水が汚染されると塩素は消費されて残留しなくなるそうです。
裏を返せば、残留塩素が検出される我が国の水道水は、汚染されていない証拠になるのです。
塩素の残留については直接東京都水道局に問い合わせてみました。
水道局ではこうコメントしています。
「残留塩素につきましては、1リットルあたり0・1㎎以上0・4㎎以下を目標として、今後とも低減化に取り組んでおります」(サービス推進部広報サービス課)
実際に0・4㎎程度を維持しているようです。
WHOの飲料水水質ガイドラインでは、生涯にわたり水を飲んでも、人の健康に影響が生じない塩素濃度のガイドライン値は、5mg/リットルとされています。
つまり、東京都は、安全といわれる数値よりも桁がひとつ少ないレベルを維持しているのです。
ちなみに、小島貞男さんの「おいしい水」の要件は、残留塩素が「0・4㎎以下」であり、これも東京都水道局と目指す数字は一致しています。
トリハロメタン
水道水を危ないとするもうひとつの物質、トリハロメタンは、水道水に塩素処理を行うことで生じる新たな有害物質です。
植物が枯死して分解したときにできる腐植質は、塩素を入れることで化学反応を起こしトリハロメタンを発生するのです。
これも、東京都水道局に尋ねました。
水道局では、こちらも「水道水中に含まれる総トリハロメタンの量は、常に水質基準値(0・1mg/リットル)以下であり安全性に問題はありません」(同)としています。
「総トリハロメタン」という言葉が出てきましたが、トリハロメタンというのはクロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムの4種類が該当し、それぞれの数値の合計を「総トリハロメタン」の数値としています。
総トリハロメタンは、生涯にわたり水を飲んでも人の健康に影響が生じない水質基準が我が国では0.1mg/リットル以下と決められています。
都内123箇所の水質検査については、塩素やトリハロメタンだけでなく、農薬類やウラン、臭気などの調査結果もホームページで公開されています。
東京以外の自治体についても、水道法よりも厳しい基準を設置しており、たとえば、浄水場では有機物を分解するためにオゾンを使用し、有機物から塩素化合物ではなく、酸化物ができるような処理を施してトリハロメタンを少なくするような努力もしています。
いずれにしても、どちらも基準値以内ということです。
WHOの基準4種類を合計した「総トリハロメタン」は0.46mg/リットルで、我が国の定めた「0.1mg/リットル」を超えています。
我が国の基準は「世界標準」のWHOよりも厳しいのです。
ミネラルウォーター
水は、水道水であれミネラルウォーターであれ、大きく硬水と軟水に分けることができます。
ミネラルというと健康ブームの昨今、ビタミンやアミノ酸などとともにもてはやされていますが、だからといって「ミネラル」の多い硬水がベターかというと、残念ながらそう単純なものではありません。
ミネラルといっても人間にとって必要なものとそうでないものがあります。水銀、鉛、ヒ素などは、人間にとって有毒なミネラルです。
また、必要といっても年齢や性別によって求められる摂取量も異なります。カリウムやナトリウムのように、欠乏症だけでなく過剰症が問題になることもあります。
ただ「摂ればよい」ということではありません。ところが、「ミネラル豊富」な水の「ミネラル成分」というのは品質規定があるわけではなく、バランス良く各種ミネラルが含まれているという保証もありません。
安全性云々といいますが、水道水とミネラルウォーターでは水道水の方が安全基準が厳しくなっています。
水道法では、細菌の有無や成分基準値について51項目をクリアして、はじめて水道水として家庭に届けることができます。
一方、ミネラルウォーターは食品衛生法で、チェック項目は殺菌・除菌工程有りの場合39項目、なしの場合14項目と水道法よりも少なく、一部の基準値が水道法より緩やかです。
まとめ
本記事は、べつにミネラルウォーターを否定しているわけではありません。
国際的に、我が国の安全基準は世界でもトップクラスではありますが、要するに「ミネラルウォーターのほうが安全だ」という言い分は正しくないということです。
もちろん、使い方によっては、ミネラルウォーターの方がより適している場合もありますし、沖縄のような事情もあるでしょう。
ただ、これだけ安心安全の水道水が供給されているのは、世界に誇れることである、ということは知っておいていただきたいですね。
以上、『水道水を「そのまま」使う人は6割弱しかいないらしい』という『Jタウンネット』がアンケート調査の結果をまとめた記事が話題、でした。