『「悪意の情報」を見破る方法』(飛鳥新社)。メディアや広告にあふれている「科学的情報」を使った罠や誤解を避けるためのリテラシー講座として話題になっています。シェリー・シーサラー著、今西康子翻訳、菊池誠監修&解説文を付けています。
「悪意の情報」とはなにか
『「悪意の情報」を見破る方法』(飛鳥新社)の「悪意」とは何でしょうか。
実は科学的な根拠のないことを、科学の装いで喧伝して人々を騙すことです。
では、科学はどのようなものであるのでしょうか。
それをどんなふうに誤解し得るのでしょうか。
それを論考しているのが本書です。
書籍のコピーによると、メディアや広告にあふれている「科学的情報」を使った罠や誤解を避けるためのリテラシー講座、とのことです。
要するに、科学に関する情報の罠や誤解を避けるための啓蒙書です。
表紙には、「ニセ科学」という文言も踊っています。
私は、「ニセ科学」という言葉を使うこと自体に賛成ではないので、その言葉を作ったといわれる菊池誠氏の意見には必ずしも頷けないことがあり、そのために彼の批判を書いて、ご本人から「問い合わせ」がきたこともあります(苦笑)
それはともかくとして、 「悪意の情報」を見破る方法、についてはAmazonを見るとこう紹介されています。
世紀の大発見とただの珍説との違いは?私は、前にも書きましたが、科学的に誤っている情報を正すことは大切だと思いますが、いわゆる科学主義には賛成できない立場です。
水が人体に有害な影響を与えるというデマが信じられた理由は?
「健康」食品が病気を引き起こすのはなぜ?
がんの有病率が低下しているのに、がん患者の数が増えるカラクリは?
こうした質問に答えられない人は、デタラメな「科学的情報」にだまされる可能性大!
メディアや広告で目にする、情報の罠や誤解を避けるためのリテラシー講座、開講!
「ニセ科学」論の第一人者、菊池誠氏(大阪大学教授)による解説文付き。
ひとつは、科学自体が、相対的真理の長い系列にあるものに過ぎないということ。
わかりやすく言うと、今の「科学的真実」は、いずれより高度なものに否定されていくのです。
したがって、今の科学がわかっていることを絶対視してはならない。
いつも、「ひょっとしたらこれは間違いかもしれない」という可能性もどこかに留保しなければならないのです。
もうひとつは、人間はある事象現象を受け入れるには、「科学」的に間違いがないかどうかだけでなく、「価値」の部分を見て判断するということです。
たとえば、オスプレイの安全性が「科学」的にどうであろうが、そこには対米従属という「価値」があるから、反対する人がいるのです。
オスプレイはマスコミがいうほど危険ではない。
だから危ながって反対するのは非科学的で間違っている。
そんな単純な話ではないということです。
「科学」と「価値」の両面で見る
この『「悪意の情報」を見破る方法』には、「地球温暖化」や「ダイオキシン」など、科学的にも判断が分かれていることについて、「ここまでが分かっているところだ」と、科学の「未熟」さを率直に見せています。
したがって、私が今書いたような「今の科学がわかっていることを絶対視」しているわけではありません。
ですが、こうした啓蒙書には、あまりに科学の「すばらしさ」を強調するあまり、著者の意図や自覚に関わらず、人間の合理的判断は科学と価値が「両輪」である、という見定めをぶちこわしてしまうような科学主義を、読む者が勝手に解釈してしまうことがあります。
たとえば、この『「悪意の情報」を見破る方法』では、メディアが遺伝子組換食品を「フランケンフード」と呼ぶ底意地の悪さを批判的に指摘しています。
遺伝子組換食品が科学的に危ないと客観的な結論が出ているわけでもないのに、メディアが危ないもののように煽るのは悪意であると……。
その限りではその通りです。
ただ、では逆に聞くが、どう報じれば科学者は気がすむのでしょうか。
「科学のすばらしい発見」と褒めちぎればいいのか。
科学的に誤った根拠をもとに報じるならミスリードですが、「悪意」であるだけでは必ずしも非科学的でも「ニセ科学」でもありません。
むしろ、そこには何らかの「価値」に基づいた表現の自由があります。
何を否定し、何を懸念し、何を尊重するのか、科学の側だけから見るのは正しい態度ではないと私は思います。
遺伝子組換食品の件がそうであるかどうかは別として、一般に科学の側にとっては「悪意」にしかみえない報道が、別の視点からは「順当」である根拠がある……かもしれないのです。
それは、科学者だけでは判断できないことなのです。
ですから、「文系」とか「理系」といった“セクト”にこだわらず、是々非々で大いに議論しながら考えてみたい書籍です。
まとめ
現実に起こる出来事は、科学的に解明できることばかりではありません。
しかし、だから物事はすべて、偶然待ちで良い、「霊感」で判断しよう、ということではありません。
限界があるからこそ、科学的なモノの見方をはっきりと把握して、科学とそうでないモノとを見分ける心得は、「悪意」に騙されないために重要だと思います。
科学の問題を取り扱うえで生じる様々なバイアスやそれらに振り回されないための方法を記した本。
以上、『「悪意の情報」を見破る方法』(飛鳥新社)はメディアや広告にあふれる「科学的情報」を使った罠や誤解を避ける講座、でした。
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