すきすきビッキ先生【1~6巻収録大合本版】(望月あきら著、オフィス漫)は、女性週刊漫画誌向けに描かれたコメディ学園漫画です。朝日ヶ丘学園に赴任してきた、実は石油王の御曹司が、正体を隠して巻き起こす様々な出来事を楽しく描いています。
『すきすきビッキ先生』は、望月あきらさんが『週刊マーガレット』(小学館)に、1965~1966年の2年間連載したコメディ学園漫画です。
単行本で全6巻にまとめられましたが、それをすべて収録した大合本版が、KindleUnlimitedの読み放題リストに上がってきています。(2023年2月16日現在)
望月あきらさんは、コメディ学園漫画を少なくとも3作描いていますが、その集大成が『ゆうひが丘の総理大臣』であり、『すきすきビッキ先生』は、そのプロトタイプといえます。
プロトタイプというのは、ある設定によるストーリーの作品が発表された後、同じ作家によってその設定を踏襲したかのような類似作品が発表されることがありますが、その前身となった作品をそう呼ぶことがあります。
ですから、リメイクとは違います。
リメイクというのは、同じタイトルの作品を、時代背景や作者の特定の意図によってお色直しした作品のことです。
つまり、『すきすきビッキ先生』の設定やストーリーを手直ししてプラスアルファが加わったものが、『ゆうひが丘の総理大臣』というわけです。
では、そのプロトタイプの『すきすきビッキ先生』とは、どんなストーリーと設定でしょうか。
第1話から見ていきます。
「ビッキ」とはカエルのこと
舞台は、朝日ヶ丘学園という、私立であろう、中学か高校かわからない、いずれにしても中等教育の学校が舞台になったコメディ学園漫画です。
『ゆうひが丘の総理大臣』の場合、小田急線沿線と、ある程度舞台が示されていたのですが、本作はそのへんは明らかではなく、全く架空の場所のようです。
主人公は、川津太郎という理科の先生です。
『ゆうひが丘の総理大臣』の大岩雄二郎と担当教科が同じですね。
ヒロイン先生は正田はな子先生。
ヘアバンドをしているところは、百田桜子先生と似ています。
伊矢見という、伊井加一そっくりの意地悪先生も出てきます。
朝日ヶ丘学園は女子校で、三人組の女子生徒(うちひとりはメガネ)が活躍します。
『ゆうひが丘の総理大臣』も、女生徒三人組(うちひとりはメガネ)が活躍しました。
女子校なのは、少女漫画雑誌に掲載されたからでしょう。
一方、隣町の男子校は夕日が丘学園です。
こちらは、ひらがなではなく漢字で「夕日が丘」と書きます。
川津太郎先生は、こっそり野球部のコーチをするのですが、そこでも中心になる生徒は三人組。
『ゆうひが丘の総理大臣』の大宮、針山、山田そっくりの男子が描かれています。
違うのは、夕日が丘学園にも、園まり子という女性教員がいて、はな子とまり子は、太郎先生を巡って熱い火花を散らしていることです。
『ゆうひが丘の総理大臣』は、百田桜子先生のほか、スケ番生徒の藤沢京子、大宮のお姉さんの真理子、交番の山本巡査などが、大岩雄二郎に好意を抱いています。
『ゆうひが丘の総理大臣』のヒロイン先生の百田桜子という名前は、どう見ても当時のアイドル、山口百恵さんと桜田淳子さんをあわせた名前です。
一方、『すきすき、ビッキ先生』はおそらく、今の上皇ご夫妻のご成婚からそれほど時間が経っていないので、正田美智子さんという名前をもじった可能性があります。
園まり子は、当時の人気歌手、園まりさんで間違いないでしょう。
少なくとも当時、スパーク三人娘の中で、彼女を選んだ作者のセンスには、私も共鳴します(笑)
ストーリーは、第1回から見ていきます。
うら若き女性が、雨上がりの道を歩いていると、後ろから車が。
水たまりをはねて、女性の顔にかかると思いきや、その前にすばやく立ちふさがった男性にバシャッとかかりました。
止まった車から出てきた、気障な男性。
「まあ、正田先生。どうも、いそいでましたので失礼しました」
「あら、伊矢見先生」
「どこかおよごれになりましたか。ほんとに私としたことが。さあ、私の車にお乗りになって」
「でも、あの……」と、男性を見る正田はな子。
「なんです、この男は」と、謝罪もせず、男性をにらみつける伊矢見。
「これでふいてください」と、ハンカチを男性に渡す正田はな子。
結局、言われるまま、伊矢見の車に乗って行ってしまいます。
「よわっつまったな。ええにおい(のハンカチ)。香水つうやつだな」
朝日ヶ丘学園では、朝礼が行われています。
「新任の先生をお迎えいたします。先生が入ってこられたら、みなさん、拍手でお迎えしましょ」と、進行係は伊矢見です。
ここで出てきたのは、先程の男性でした。
「ああ、ここだ。やっと見つかったス」
そう、正田はな子先生をかばったのは、主人公・川津太郎だったのです。
「あ、あなたは?」と驚く伊矢見先生。
「はあ、わたすは、新任の川津太郎ス。よろすく」
マジレスツッコミですが、普通、最初に教員室とか校長室で挨拶して、それから朝礼に出ますよね。
伊矢見先生は、来ているのかどうかの確認もしないまま、「新任の先生をお迎えいたします」とやったのでしょうか。
「あのときは、どうも。正田はな子です」
「あんた…は、その…美人で、つまり……ぼかあしあわせです」
照れてそっぽを向いてしまうはな子。
この時点で、2人の間には赤い糸が……
このムードを敏感に受け止めた伊矢見先生は、雰囲気を変えようと割り込みます。
「(太郎のかついでいる頭陀袋を見て)このふくろの中身は?」
「ああ、ビッキですよ、ビッキ」
「ビッキ?」
教室では、「ぼかあしあわせです」のシーンが、さっそく生徒たちの間で盛り上がっています。
1時間目は理科。さっそく、川津先生の授業です。
ここでも、頭陀袋のゴソゴソという動きを生徒に尋ねられます。
「理科の教材だ。ま、あんたら都会の子は、じっさいにほんものをつかまえるのが難しいと思って持ってきただ」
「見せてください」と生徒たち。
「スかス、今は…ちょっと授業中だで……」
「でも、ウチのクラスはほかより12ページも進んでいます」
「う……ん。それじや、ちょっとだけ。いっぺんにあけちゃあダメだって」
生徒たちはいっぺんに開けてしまい、カエルがたくさん出てきて教室中を飛び跳ねました。
すると、太郎先生は
「こら、みんな、うちさ、入れ」
そうすると、カエルたちは頭陀袋に自分から入っていきます。
「どうだス。よく慣れてるだろう。これまでするには苦労したス」
ここも突っ込ませていただくと、そんなに馴染んだビッキだと、解剖には使えないのではないでしょうか。
それとも、たんなるペット?
生徒たちは、「ほかにもなにかできるんですか」と、カエルの芸をリクエスト。
太郎先生は、仕方ないので、カエルに「お手」をさせたり、「おつむ」と命じて頭の上にのせたりします。
教室は大盛りあがり。
しかし、これは職員会議にかけられます。
授業中に、カエルのサーカスをしたのはけしからん、というわけです。
「ところで、正田先生のご意見は?」と伊矢見先生。
「はあ、常陸宮様もガマガエルのご研究をなさっているくらいですから、かえるの研究は立派だと思います」と、太郎先生をかばってくれます。
これでなんとか、無罪放免に。
「先生。あのう、さっきは……ぼかあしあわせです」と礼を言う太郎先生。
「泥水のときのお返しをしただけです」と、ツンデレの返事をする正田先生。
そのとき、正田先生に面会が。
その人物は、正田先生からお金をもらっていました。
それを見た太郎先生。その人物を一本背負いで投げてしまいます。
「愚連隊め。かよわき女性を脅して金を取るとは、なんて卑劣な」
「し、失礼ね、私の弟よ」と、正田先生。
びっくりする太郎先生。
第2話を見たくなるようなラストにして、第1話の終了です。
ヒロイン先生と、敵役の先生の慧眼
第1話だけですとわかりにくいので、ネタバレごめんですが、太郎先生は、実は田舎者の冴えない先生を装っていても、実は石油王で世界的な金持ちの御曹司だったのです。
正体を隠して教師生活を続け、正田先生と結ばれます。
スポーツも万能のため、隣の夕日が丘学園からまで声がかかります。
実はすごい人なんだけれど、「能ある鷹は爪を隠す」というのは、昭和のヒーローのひとつのパターンですね。
すでに、ヒロイン先生と、敵役の先生(伊矢見先生)を設定しているのも見どころです。
望月あきらさんの三部作は、いずれもこのパターンで、しかも3作とも、敵役が似たような顔や服やキャラクターで描かれています。
当時の、トニー谷みたいな感じです。
日本テレビで始まった、青春ドラマシリーズも、この漫画とちょうど同じ頃開始されています。
青春学園ドラマシリーズでは、教頭の腰巾着のような先生がいましたが、単独の悪役というのは、望月あきらワールド特有の設定です。
ドラマ版の『ゆうひが丘の総理大臣』の敵役(小松政夫)では、なりは「トニー谷」、それでいて教頭の腰巾着という、折衷的なキャラクターでした。
まあ、論より証拠です。
昭和のテイストですが、ついつい最後まで読んでしまいます。
みなさんも、いかがですか。
以上、すきすきビッキ先生【1~6巻収録大合本版】(望月あきら著、オフィス漫)は、女性週刊漫画誌向けに描かれたコメディ学園漫画、でした。
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