まだMMT理論を知らない貧困大国日本(小浜逸郎著、徳間書店)は、日本人のお金に関する大誤解を一気に解明して日本復活を展望します。新しい『学問のすゝめ』というサブタイトルが付くように、福沢諭吉とMMTとの関係まで踏み込んだ新機軸の書物です。
『まだMMT理論を知らない貧困大国日本』は、小浜逸郎さんが徳間書店から上梓した書籍です。
本書は2022年8月28日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれているKindle版です。
日本はこの20年間で衰えたが、多くの人は気づいていないことにしている
このブログでは、これまで何度かMMTの啓蒙書・解説書をご紹介してきました。
中でも今回の書籍は、もし私がMMTについて書くなら、こういうアプローチのものが描きたかったんだようなあ、という構成です。
いきなり、「MMTとは……」と、入るのではなく、私達の生活が、いかに緊縮財政で疲弊し、ボロボロになっているかを統計とともに紹介するところから始まります。
「生活とMMT」というアプローチです。
それと、福沢諭吉論とMMTを邂逅させています。
福沢諭吉が、MMTに近づいていたという話です。
これも、福沢諭吉に精通している著者ならではの独自のアプローチだと思います。
『学問のすゝめ』というサブタイトルがついているのは、福沢諭吉を意識したものと思われます。
著者は、「はじめに」で、日本の衰えを嘆いています。
ほうっておくと、日本は間違いなく滅びると。
ところが、日本はこの20年間で衰えたが、多くの人は気づいていないことにしているといいます。
理由は2つ。
1.75年前の敗戦によりアメリカに魂を抜かれてしまい、物理的にだけでなく精神的に支配された状態がいまだに続いている。
2.いったん近代の豊かさを知ってしまったために、誰もが「もうこれでいい」「このまま安眠を妨げないでほしい」とどこかで思っている。
しかし、日本はもう豊かではなく貧困国に転落しています。
日本の相対的貧困率は、OECD35ヶ国(現在は36ヶ国)中29位(2015年)である。
にもかかわらず、一度経験した豊かさが邪魔をして、そうした現実を見る目を曇らせている、と著者は警鐘を乱打します。
どうすればいいのか。
著者は提案します。
みんなが学問に目覚めることです。
著者の言う「学問」とは、現実に向かうひとつの「態度」であり、思考力を作動させる「構え」のことだそうです。
そしてある結論に到達したら、それを公表し、他の人たちの考えと突き合わせて、理性的な議論を積み重ねることです。
これは広い意味で、「思想」と言い換えても同じだそうです。
ここで引いているのが、福沢諭吉の著書『学問のすゝめ』から、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」。
実はこの一文、最期の締めまで達していない、ぶつ切り状態のものが、世に知れ渡っていることを指摘しています。
正しい全文は
『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、と言へり。』
つまり、世間ではそう言われている、と俯瞰しているにすぎないのです。
しかも、そういう書き方をしているということは、実はそうなっていない、ということです。
曰く、身分制度、門閥制度などによって、一人ひとりの自主独立を阻んでいる。
自主独立の気概を養うことこそが、いま求められている。
福沢諭吉は、一般民衆を愚民と呼び、自主独立の気概を学んで、愚民でなくなって欲しい。
愚民の卑屈さから抜け出すために「学問」の必要性を説いたといいます。
著者は、今の時代も福沢諭吉が「学問」の必要性を説いた時代と同じだといいます。
グローバリズムの大波が日本に押し寄せ、学者、政治家、財界の大物たち、ジャーナリズムは、率先してそのお先棒担ぎを行っており「卑屈」きわまりない。
1.社会が複雑高度に発展した結果、個別専門領域での問題点はいくつも指摘されるのに、その根本的な原因究明にまで統合されず、国民は目くらまし状態に置かれている。
2.グローバリズムが世界を席巻し、その欠陥があらわになっているにもかかわらず、日本政府はこれを無批判に受け入れ、結果的に国民を苦しめている。
現代の「愚民」は、一般民衆であるよりは、むしろそうした「エリート」たちであるといいます。
著者は、この悪化の流れを食い止めるために、次のような構成で本書を書き進めているので引用します。
- 日本はどういう点で衰えてしまったのか、めぼしいものを次から次へと具体的に列挙していきます(第1章)
- 複雑多様化したいまの社会では、あちこちの分野で、いろいろな問題点が指摘されています。ところが、その解決策の提示がその分野の範囲内だけに限定されて、その先の根本原因まで届かないのです。それはなぜかについて指摘します。(第2章)
- 次に、その根本原因を取り除くにはどうすればよいかについて、手綱をゆるめずに考えていきます。ここでは、現政権の政策の大失敗がえぐり出されるでしょう。(第3章)
- 次に、どうしたらこの悪化の流れを食い止められるか、その対策について考えます。また、よい学問と悪い学問の違いについても説かれます。(第4章)
第3章に、「現政権の政策の大失敗がえぐり出されるでしょう」とあるように、本書刊行当時の安倍晋三政権を徹底批判しています。
MMTジャパンと言うと、いわゆる「京都学派」といって、保守的なイメージが強かったのですが、安倍晋三総理への批判はもっともだと思いました。
著者は第4章で、「よい学問に接するための七つのポイント」を枚挙しています。
1.当たり前と思われていることを疑う
2.権威主義を捨てる
3.生活に結びついた関心を持ち続けながら、その客観的な意味を考える
4.右左のイデオロギーや感情に影響されない立場を守る
5.抽象的な言葉やいっときの印象論に惑わされず、具体性やエビデンスを尊重する
6.精神論やきれいごとを説く言葉を避ける
7.議論や対話の機会を見つけ、できるだけ参加して自分の考えを試す
ことほどさように、著者随所に箇条書きでポイントを纏めているのですが、大変勉強になります。
たとえば、「「よい学問」がその良さを保つこと」として、次の9点を枚挙しています。
1.現実の危機を深く自覚する
2.既成の権威に阿らない
3.右顧左眄せず、自分の考えをしっかり固める
4.間違った考えを徹底的に糺す
5.自分が間違ったときには率直に認め、自説やそれに基づく言動を改める
6.流布されている「常識」を疑う
7.自分の考えをわかりやすく公表し、その拡張に絶えず努める
8.批判者、反論者を恐れず、彼らと堂々と議論する
9.危機克服のための処方をデザインし、できればそれを自ら実践に移す
最近のネットの書き込みは、モノローグといいますか、一方通行なだけに、考えさせられますね。
MMTの重要なポイント
MMTについても触れておきましょう。
著者は、MMTの重要なポイントは、次の点にあるといいます。
そのまま引用します。
1.自国通貨を持ち変動為替相場制を採っている国では、国債発行額に原則として制約がない。政府はその限りでは、財政赤字を気にする必要はない。
2.ただしインフレ率という制約があるので、政府・中央銀行は、過度なインフレになる兆候が見えたときには、コントロールする必要がある。それは金利調整や増税などによって可能である。
3.政府の債務残高(いわゆる「国の借金」)は、過去に政府が財政支出を税金で取り戻さなかったものの履歴でしかなく、それは民間の貯蓄になっている。つまり政府の赤字は民間の黒字なのである。
4.民間に金融資産が十分にあるからそのぶんだけ国債発行の余地があるのではない。逆である。政府の赤字がそのまま民間の黒字を意味するのだから、民間の金融資産が国債発行高の限界を示しているのではない。政府の債務残高が民間の金融資産を超えることも論理的にあり得ない。
5.経済の話をするときには、政府・中銀の「お財布」の心配ばかりしないで、一般社 会において生産のリソース (供給能力)が十分に獲得可能か、企業や消費者にとって 政府の政策が適切かどうか、労働者が豊かに暮らせるだけの政治・経済体制になっているかどうかなどに視線を合わせるように、「眼鏡をかけ替える」べきである。
6.MMTでは、失業を避け完全雇用を目指すためにJGP(就業保障プログラム)を構想する。これは、不景気で失業者が増えたときには政府が最低賃金で雇用し、景気が回復すれば、労働者は自動的に高賃金の民間企業に移行するという考えである。つまりデフレ期には、政府が失業者に救済の手を差し伸べるために積極財政策を採り、 好景気のときには、その必要がなくなるので、政府の財政もそのぶん縮小することができる。
MMTで、しばしば話題になるのが、「だったら税金いらないでしょ」論。
MMTは税収を財源とせず、また万年筆マネーでお金を「増やせる」ことを、そう茶化す意見があります。
著者は、租税の存在理由をこうまとめています。
1.インフレが過剰気味になったら、市中に出回る貨幣の量が多過ぎないように増税する。逆に貨幣の量が少なすぎるデフレのときには、減税によって市中の貨幣量を増やす。
2.所得の再分配機能。つまり累進課税制度によって、儲け過ぎた企業や個人から多く 徴収し、所得の少ない人からは少なく徴収するか納税を免除する。
3.現金紙幣による納税を認めることによって、民間の経済活動が紙幣を通して行われることを保証する。(これは機能というより、租税の本質と言ったほうが適切かもしれません。)
4.違法行為ではなくても、公共性を損なうような経済活動を行った企業や個人に罰金を科す。
MMTと生活を結びつけてくれた良書です。
ぜひ、1度本書をご覧ください。
以上、まだMMT理論を知らない貧困大国日本(小浜逸郎著、徳間書店)は、日本人のお金に関する大誤解を一気に解明して日本復活を展望、でした。
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