わいことヒトミさん(雪わいこ著)は、著者が同じ職場で出会ったヒトミさんと、わかりあいながらゴールインするエッセイ漫画です。実話であることや、ドロドロした三角関係などでなく、2人がいつもお互いを理解し合いながら関係を深める点が好評です。
わいことヒトミさんは、雪わいこさんが自らの体験を、エッセイ漫画としてまとめたKindle版です。
最近は人気が出て、紙の本にしているそうです。
Kindle Unlimitedで読み放題リストに含まれているので、多くの人が読み、そのままとりこになって巻を追って読む、という感じかな。
私もその一人です(笑)
他のラブコメのように、ライバルが出てきてややこしくなる混戦が物語のテーマではありません。
もっぱら、わいこさんとヒトミさんの、お互いを理解し合い、愛を深め合う話です。
それも、むずかしい文学的な心の襞を表現するというより、何気ないシーンで何気なく、喜んだりドキドキしたりする日常を描いています。
全くジャンルは違いますが、テレビドラマの『孤独のグルメ』が人気ドラマになるのと、なんとなく重なるところがありますね。
中年男が飯を食うだけのドラマが、なぜ12年も続く人気ドラマになったのか。
悪役が出ないからです。
過去の女の話もちらっとありましたが、毎回のストーリーに影響を与えるようなものではありませんでした。
本来、ドラマを盛り上げるべき存在を一切排除し、たんたんと主題(飯を食うこと)だけにフォーカスしたからいいのです。
本作も、恋の鞘当てだの、別れ寸前までいっしまうようなツンデレだの、三角四角関係だの、そういうあれこれのストーリーの紆余曲折はいっさいなくて、2人がお互いを見つめ思いやり心を許し信頼を深めていくことにフォーカスしているのです。
良質な恋愛漫画、結婚漫画です。
全然タイプじゃない職場のヒトミさんに恋しちゃうわいこさん
中小企業に入社したわいこさんは、絵を描くのが好き、ということで、やはり絵を描くのが好きな先輩のヒトミさん(男性)を紹介されます。
年も離れているし、何だか怖そうというのが第一印象。
でも、絵を描くという共通点もあり、2人は次第に話すようになっていき、ある時からはヒトミさんへの恋を自覚してしまいました。
そこからは、3巻で同棲、5回で結婚と、トントン拍子に中だるみもなく2人の愛は進展していきます。
一味違うほのぼのラブコメ漫画です。。
本書は2023年1月15日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
変わり者同士のほんわかストーリー
第1巻から、かいつまんでご紹介します。
「今日から一緒に働くことになった、雪わいこさんです」
従業員の前で上司から紹介されて、緊張するわいこさん。
「雪さん。絵描くのが好きなんでしょ。生産管理の人で、絵かきがいるんだよ」
お友達になれるかも、と期待するわいこさん。
ところが、手ぬぐいを頭に巻いて、不機嫌そうにベンチに座ってタバコを吹かしていたヒトミさんの第一印象は、怖そうでびっくり。
しかし、絵は繊細、仕事もテキパキ。
おばちゃん従業員の話によると、「ヒトミくんは独身よー」とのこと。
その時点で手ぬぐいをとると長髪だったヒトミさんは、わいこさんのタイプではなかったそうです。
でも、絵を教えてくれることがきっかけで、少し打ち解けるわいこさん。
そして、夢の中で、ヒトミさんにお姫様抱っこされて以来、ヒトミさんを意識し始めました。
まあ、夢というのは内在ですから、無意識の内に意識していたんですよ、わいこさんは。
ところが、わいこさんは、会社の業績が悪くなり、解雇されてしまいます。
非正規だったんでしょうね。
「雪さん。社長から聞いたよ。今度飯でも行こうよ」と慰めてくれるヒトミさん。
解雇されたことも忘れて、わいこさんはうれしくなってしまいます。
そして、「飯」の当日。
何と、ヒトミさんは長髪をカットしてきました。
「俺、美容室めちゃくちゃ苦手でいかないんだ」
「何がそんなに苦手なんですか」
「オシャレを共用される空間とコミュニケーションが嫌い!!」
おー、美大や美術学校上がりがいいそうなセリフ(笑)
でもなんか使えそう、と思いましたが、わいこさんは、「この人やっぱ変わってるわー」と思ったそうです。
わいこさんは、ヒトミさんの自宅にも行くようになり、お弁当なども作ってあげる関係になります。
「あの、俺の勘違いだったら申し訳ないけど、雪さん、俺のこと好きなの?」
2コマあって……
「……す、すっ、好きです……」
精一杯の力を振り絞って告り、ちらっとヒトミさんをみるわいこさん。
食べていた弁当の箸を落として、動揺しているヒトミさん。
つーか、ヒトミさんから聞いたことなんですけどね。
「俺のどこが」
「好きじゃなかったら、お弁当作って家に来ませんよ」
「……うーん。ごめん」
うっ
「今は妹にしか見えない」
それでも、平静を装うわいこさん。
「そ、そうですか。妹でいいんです。これからも仲良くしてもらえませんか」
「もちろん、これからもよろしくねー」
いやいや、ダメでしょう。
わいこさん、精一杯答えたんだし。
だったら、初めから聞くなよ。アンタから聞くなよ、ヒトミさん。
その時は頑張りましたが、親友キヨの前でワンワンと泣くわいこさん。
「でもさあ、今は妹にしか見えないっていわれたんでしょ」
「うん」
「だったら、脈あるよ。時間をかけていれば、絶対振り向いてもらえるよ。」
元気づけられたわいこさん。
めげすに、またヒトミさんを訪ねます。
「こんぬずわー」
「なんか元気だね」
「開き直りました」
「俺は、あんまり元気ないなあ。俺さ、結婚するつもり無いんだ。昔、絵ばっかり描いていたせいで失敗したことがあって、相手のこと全くかまってあげられなくてさ。だから、これからも一人がいいんだ」
「わ、私はマンガを描く人ですよ。その人と同じようにはなりません」
「雪さんも、いつかは結婚したいって思うでしょ。結婚する覚悟もないのに付き合うなんて俺にはできないよ。雪さんに無駄な時間使わせたくない。ここに来るべきじゃないよ」
「じ、時間の無駄になるかどうか、そんなの分からないじゃないですか。人の気持ちなんて変わるもんですよ。ていうか、私は好きでいてくれなくても一緒にいたいです。……帰ります」
しょんぼり帰り、橋の上で、「ヒトミのバカやろぉー。めんどくさ野郎がぁぁぁ」と怒鳴ります。
いったんは、別の面倒くさくない人を選ぼうか、なんて考えても見ますが、ヒトミさんのことを思い出すと、やっぱり忘れられません。
その後、外にも出ないでふて寝の日々を続けていたわいこさんを心配して、キヨが訪ねてきます。
「これ私の直感だけど、ヒトミさんから連絡くるよ。遅くて1ヶ月以内」
「だって、あっちから、もう合わないって言われたんだもん」
「それは本心じゃないよ。まあ気長に待ってようか」
と言っていると、LINEにメッセージが入ります」
「えっ、うそ」
「わはは、意外と早かったね」
公園であった2人。
「もっと怒ってるかと思ってた。俺から会わないって言ったから」
「いや、会えるのが嬉しくてー。もうそんな事忘れましたー」
「渡したいものあって」と、ヒトミさんが取り出したのは、自分のアパートの鍵です。
「やっと覚悟を決めたんだ。僕と付き合ってください」
付き合うのなら、鍵を渡せる関係と思える人に、ということだったのかな。
そんなに深刻に考えなくてもいいのに。
たしかに面倒くさ野郎ですね(笑)
でも、わいこさんはまるまる2ページ(3コマ)かけて、喜びを表現しています。
第1巻のクライマックスですからね。
「私のこと好きになってくれたんですね」
「いや、まだそこまで好きじゃない」
おいおい、この期に及んでまだ落とすカー(笑)
「私をからかっているんですか。激おこですよ」
「ごめん。まだ正直、妹くらいに思ってさ」
いちいち言うか。
家に帰ってきて、床に入っても、まだ現実を疑うわいこさん。
「なんだか興奮して眠れない。ほんとにこれ、現実?」
そのとき、またLINEがピロン。
「もう寝たかな?いい夢見ろよ!おやすみー」
ヒトミカズヤさんからのメッセージでした
それを見てねわいこさんは、改めて夢ではないことを喜ぶのでした。
父子家庭であったことも漫画につながっている!?
人間ですから、出会って結婚するまで、そして結婚後に、いろいろ山あり谷ありだと思うのですが、谷は全くかかれていません。
物語としても、谷があったほうが盛り上がるのですが、それがなくてもいいほど、物語が面白いのでしょう。
わいこさんは、ヒトミさんの一挙手一投足に感激し、ヒトミさんへの評価に感激で目をうるうるさせます。
ほぼそれだけなんです。
これは、決して漫画だから脚色したわけではないだろうと思います。
これは私の憶測ですが、わいこさんの「ささやかな日常」を喜ぶ人生観は、たぶん、たぶん彼女が父子家庭だからではないかと思います。
まあ、死別だと間違いないのですが、生き別れでも、わいこさんの場合、結婚式にも実母を呼んでいないようなので、まあ気持ちとしては死別のようなものなのでしょう。
そういう人の場合、自己肯定感とか、自己判断能力が低いんです。
いや、結果として自分で低く抑えてしまうというのかな。
片親なんて、子どもに責任はないですからね。
つまり、すごく理不尽な不幸です。
でも、親がひとりいなくなるのは、子にとって大変な不幸です。
そういう経験があると、何か自分で「こうしよう」「こうしたい」と思うことがあっても、することで、また不幸が訪れるのではないかと、いつも自分の欲望や自己顕示などを合理的な根拠もなく控えめにするのが、習性になってしまうのです。
いつも、自分の判断に自分が怯えているのです。
ビクビクしているのです。
これは、その人のせいではなく、みんな親のせいなんですけどね。
わいこさんについていえば、実母のせい。
わいこさんが、両親揃った家庭で、そういうプレッシャーなく育っていたら、たぶん、こういうささやかなことを喜ぶ日々にはならなかったと思います。
……と、書くと、「だったら、実母がいなくなったほうがよかったじゃないか」
という短絡的なことを考える手合いがいるのですが、そうではないんですよ。
実母がいたら、そもそも人生が変わっていますから、つまりヒトミさんと出会う漫画のようなシチュエーションはありません。
ただし、わいこさんはもっと幸せなポジションで、今回に負けないような別の「ほのぼの体験」があったかもしれません。
よくさ、「もし〇〇だったら」と、過去を変えた前提でシミュレーションすることってありますけど、その場合、〇〇だけでなく、その後も全部変わってしまいますからね(笑)
何をいいたいかというと、もしどうだったらって話は、不毛ですよねっていうことです。。
わいこさんの人生は不遇で大変だった。
だけど、真面目に生きていたら、いいことがった、という話です。
不遇でなければ、もっと幸せなことはたくさんあったでしょう。
以上、わいことヒトミさん(雪わいこ著)は、著者が同じ職場で出会ったヒトミさんと、わかりあいながらゴールインするエッセイ漫画、でした。
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