『キラキラネームの大研究』レッテルへの誤解や偏見を解く良書

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『キラキラネームの大研究』レッテルへの誤解や偏見を解く良書

『キラキラネームの大研究』(伊東ひとみ著、新潮社)は、キラキラネームが「日本語の体系の根幹に関係する問題」としています。もっとひどい言い方では「DQNネーム」といわれていますが、レッテルに対する誤解や偏見を解く良書と言えます。

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そもそも「読み」は自由である

いきなりですが、私は「草野直樹」と書いて「かやのなおき」と読みます。

住民基本台帳に記載された、正々堂々公式な姓名です。

ただし、他者が最初に私の字を見ると、ほぼ間違いなく「くさのなおき」と読みます。

それは間違いなのか。

間違いではないのです。

実は、私はもともとは「くさのなおき」でした。

「草野」と書いて「かやの」という読み方は、国語の教科書には出てきません。

しかし、当て字ではありません。

日本書紀に出てくる、田畑や草原を創った女神が、「草野姫」と書いて「かやのひめ」と仮名が振ってあります。

ですから、「佐藤」と書いて「すずき」と読ませるようなべらぼうな話ではありません。

そして、私は、2019年3月に、その「読みの変更」を電話一本で行いました。

何を言いたいかと言うと、現在日本の戸籍制度は、「よみがな」を届け出ません。

出生届には、「よみかたは、戸籍には記載されません」と明記されています。

上川陽子法務大臣は、「よみ」を入れる方向で動いていますが、少なくともこれまではそうでした。

そこに、自由な命名の前提があります。

読み方と字の組み合わせも自由である

女の人で、「かおり」という人いますよね。

「香」「香織」「香里」と、よみがなの取り方でいろいろな命名が成り立ちます。

どれも、命名として「間違い」にはならないわけです。

でもなんでもいいのなら、見方によっては無原則な感じがします。

そういう名前をつけてはいけないという意味ではありませんよ。

「名づけの常識」とは、その程度の「ずっと頼りない」ものだというのが、本書『キラキラネームの大研究』の著者の指摘です。

本書では、「心愛」と書いて「ここあ」と読む「キラキラネーム」について、「正直ギョッとさせられる」ものの、「こうした手法は昔から使われていた」と冷静に解説しています。

つまり、改めてキラキラネームなどという「特別」なレッテルを貼る合理的根拠はないということです。

なぜなら、「修める」の「おさ」だけを使って「修巳(おさ+み)」や、「有」の音読みの「ユウ」から「ユ」をとって「有美子(ゆみこ)」とするなど、よみがなの使える部分を都合よく決めて、それを組み合わせた命名は、昔から当たり前のようにあったからです。

読ませたい名前がまずあり、そこから逆によみがなの一部を使える漢字を当てはめる「当て字・当て読み」。

場合によっては、一部どころか全く当てはまらないけれど強引にそう読ませてしまう、というやり方は、日本人の命名ではそれほどめずらしいことではない、というこです。

私の中学の時、同じクラスに、「玲美」と書いて「さちよ」と読む女生徒がいましたが、それでも通っていました。

「忍草」で「しのぶ」という名前の人もいました。

同書は、「光宙」(ぴかちゅう)という「キラキラネーム」について、「光一」と書いて「ぴかいち」と読む語句があるので、「そう突飛なものとはいえない」といいます。

一方、女児名では一般的な、「和子」と書いて「かずこ」と読む、誰も「キラキラネーム」とは見ないであろう「正統派」の名は、著者によると、実は常用漢字表内の読み方にはない「当て字・当て読み」であることを指摘しています。

ということは、「読み方」では「光宙」(ぴかちゅう)よりも「和子」(かずこ)のほうが「突飛」ということもいえます。

要するに、「キラキラネーム」(ではないもの)の定義自体がいいいかげんなものなのです。

「光宙(ぴかちゅう)」くんをコバカにしている「和子(かずこ)」さんの方が、実はよっぽどキラキラネームだった、ということです。

そんなの受け入れられませんか。

しかし、キラキラネームという定義は、そういうものです。

本書は、なぜそうなったか。日本語の曖昧さとして、やまと言葉の話から始まって、伝来してきた漢字との融合、万葉集や平安の頃の話など、歴史的な経緯が書かれています。

詳細は本書をご覧ください。

キラキラネームというレッテル自体が傲慢である

私はそもそも、ひとサマの命名に、「キラキラネーム」だの、「DQNネーム」だのというレッテルを貼ること自体、不遜きわまりないものだと思っています。

いくつか、疑問点や批判点を挙げてみます。

主観で主観を批判する不毛さ

たとえば、「キラキラネーム」なるものは、「かわいそう」「子供をペットかアクセサリー扱い」などと言います。

でもそれ、ただの主観ですよね。

つまり、「キラキラネーム」呼ばわりする人々が、勝手に「かわいそう」と決めつけているだけでしょ。

もちろん、命名も、命名者の主観(価値観)です。

要するに、主観で主観に襲いかかっているだけです。

もちろん、「キラキラネーム」といわれる名前の本人が、自分の名前を嫌っていることもあります。

親のつけた名前がどうしても嫌だ、ということはあるでしょう。

それはそれで、我慢することはありません。

名前は、通称として何年か使い、実績を残したところで戸籍を変更することができます。

たとえば、私の母は両親がつけた名前が「あんまり」なので、若い時から通称を使い、数年後に戸籍をその名前に変えています。

本人が、「キラキラネーム」で嫌だと思ったら、そのような方法はあります。

ただ、もし、「嫌い」な理由が、自分はそうでもないんだけど、世間から「キラキラネーム」扱いされているからだとするなら、それは人の名前をとやかく言う方が間違っている、と思ってほしいなあと思います。

変えるのは「キラキラネーム」ではなく社会の仕組み

読みにくい名前をつけたら、企業や役所の事務手続きが混乱するから社会に迷惑だという、一見「道徳的」な意見もあります。

でもそれ、発想が逆だろうと思いませんか。

読みにくい名前で行政的な手続きが滞るなら、それは行政手続きの改良を行うチャンスだと前向きに捉えるべきでしょう。

社会はそうやって発展してきたのではないでしょうか。

今の社会で、できることの枠内にすべておさめていたら、社会はそこで完結してしまうじゃありませんか。

そういうことを言い出す人は、障碍者がいるからバリアフリーなんて金のかかることをしなければならない、などと考えるような浅はかな人です。

バリアフリーは、高齢者、負傷者、妊婦、子どもなど、障碍者以外にも有用です。

障碍者を邪魔と見るか、自分たちもなり得る、もしくは自分たちの利益でもある契機と考えるか。

もちろん、ルール違反をしろということではありません。

命名に使ってもいい漢字、いけない漢字は決められています。

それが守られていたら、あとは使う人の自由です。

読み方が著しく非合理というのなら、そこにルールを作るしか方法はありません。

本当に厄介なのは「名」ではなく「姓」

名前というのは、「姓」と「名」があるわけですが、いわゆる「姓」の珍名さんだってたくさんいます。

社会的にまず使われるのは、「姓」の方です。

にもかかわらず、下の名前ばかりがなぜ標的にされるのでしょうか。

「姓」だって、しょせん先祖が何らかの理由でつけたものに過ぎません。

上掲のように、「名」は今の法律でも、自分が気に食わなければ自分で好きなものに変更ができます。

でも、「姓」の変更は、養子縁組や離婚など、ひと手間ふた手間かかる上に、自分で勝手に創造はできず、既存のものに変えるしかありません。

名前は、犯罪隠しの変更などに対処できるなら、本人の裁量でその人の自由に決められるのが理想と私は思います。

その前提で見ると、問題にすべきは、「名」ではなく、それがほぼ不可能な「姓」の方なのです。

見方を変えると、「キラキラネーム」なる貶めは、戸籍制度の矛盾や不自由さから目を逸らす役割も果たしていると勘ぐることもできます。

まとめ

いずれにしても、わざわざ大衆が大衆を貶めて、結果として自分たちの自由を狭め、社会発展の契機をつぶす。

私には、「キラキラネーム」呼ばわりは、そんな弊害があるように思えます。

大衆は、大なり小なり他者に対してジェラシーとコンプレックスをもっているので、いつもどこかで身構え、人を見下したりおとしめたりする口実を求めているのではないでしょうか。

それが、「在日」だの「部落」だの「片親」だの、少し前なら「ハーフ」だのといったことでしたが、最近は人権感覚が向上して、「身分」や「出自」によるあからさまな差別がしにくくなったので、「キラキラネーム」なる新手の「イジリ」にシフトしていったのではないかとも思います。

ひとさまの名前なんかどうでもいいから、まずオノレの人生充実させろよ、というのが、「キラキラネーム」イジり大好き派に対して私が言いたいことです。

以上、『キラキラネームの大研究』(伊東ひとみ著、新潮社)は、キラキラネームが「日本語の体系の根幹に関係する問題」としています、でした。

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