プロレス鬼(コンタロウ著、集英社)は、実際のプロレス史や、実在のレスラーの言動やキャラクターをもとにしたプロレス漫画です。初版発行はプロレスが盛り上がっていた1984年。ジャイアント馬場対アントニオ猪木の対戦も描かれていますが……。
『プロレス鬼』は、コンタロウさんが描いて集英社から上梓されました。
実在のレスラーを登場させたフィクションといえば、梶原一騎先生の『タイガーマスク』や『ジャイアント台風』がおなじみですが、
本作は、史実をベースにしながらも、レスラーの名前や、史実の順番を変えたフィクションとしてストーリーを構成しています。
プロレスマニアには、「あ、これはあのことだな」「あ、このレスラーはあの人のことだな」と気づく楽しみもあります。
本書は、2023年2月28日現在、マンガ図書館Zの読み放題リストに含まれています。
コンタロウ 『プロレス鬼』 #マンガ図書館Z https://t.co/bDfobS0Uab虚実ないまぜのプロレス漫画
— 石川良直 (@I_yoshinao) February 20, 2023
全3巻。では、さっそく内容をご紹介しましょう。
実在のレスラーが名前を変えて登場
第1巻は、主人公はペドロという架空の人物ですが、グレート東条という、どう見てもグレート東郷が出てくる話です。
日本にブッキングした覆面選手が急死したので、ペドロ・レイエスという無名のレスラーが覆面選手になりすまして来日。
その覆面選手は、ミル・マスカラスをモデルとしているようです。
そして、日本側は、星と山元。
どう見ても、星野勘太郎と山本小鉄です。
星野勘太郎は、上手に試合をリードして、ペドロをの力を引き出します。
ペドロは、シリーズ中にどんどん力をつけ、山元の手に負えなくなり、今度は「本気でヤるぞ」と山元を怒らせています。
第2巻は、最年少の世界ヘビー級チャンピオン、ジャック・ワイルド・ジュニアの話です。
……って、これはどう見ても、1969年に初来日した、ドリー・ファンク・ジュニアのことでしょう。
漫画でも、ちゃんと「パパ」も一緒に来日しています。
得意技は、ローリング・レッグホールド。
スピニングトーホールドと、ローリングクレイドルホールドをあわせた技です。
ただし、チャンピオンベルトは、ジャック・ブリスコや、ジャイアント馬場や、ハーリー・レイスらの締めたタイプのベルトが描かれており、ドリー・ファンク・ジュニアや、ジン・キニスキーらが締めたベルトとは違います。
ここは、どうせならベルトのタイプも徹底してほしかったですね。
そうそう、ジン・キニスキーは、アダムスキーという名で描かれています。
登場する日本人選手は、早田勇、リングネームがA早田という、アントニオ猪木そっくりの選手で、世界選手権試合ではコブラツイストを使っています。
そして、パパは心臓麻痺で突然なくなります。
どう見てもモデルとなった実在の人物そのままです。
馬場対猪木は漫画ではどう描かれたか
第3巻では、ついにBI砲の登場です。
日本プロレスの
生みの親、鬼道山が
ふたりの新進レスラーの
肩を抱いて ごきげんの図である
大きいほうの若者の名を
番場正平といい
もういっぽうの若者の名を
伊能完治という
この説明から物語が始まります。
設定は、昭和三十×年と書かれています。
伊能完治は、鬼道山の付き人になります。
アントニオ猪木が、何度も話していた、力道山の理不尽なイビリが描かれています。
漫画では、家につくといきなり平手打ち。
付き人は、黙っていても靴を脱がせるものだというのです。
そして靴を脱がせると鬼道山は、脂ぎってすっぱい素足を伊能完治の頭に乗せます。
「どうした伊能。たてんのか。それでも男か。悔しくないのか」といって足をぐんぐん押し付けます。
そりゃ、足を頭からどけるのは容易いことですが、そうしたら、また鬼道山は自分をぶん殴るかもしれないと思えば、そのままにするしかないですよね。
移動しても、車を降りると、「すぐ荷物を持ってこんか」と言って、いきなり鬼道山は伊能を殴ります。
道場では、番場がスパーリングをシています。
「いいぞ、番場。お前には天性の素質がある」と鬼道山。
伊能は、「天性の素質?はて、おれにはモタモタしているようにしか見えないが」と番場を評価。
ここは、リアルと違うんじゃないかな。
馬場と猪木では体の大きさが違いますから、実際にリングに上がるものからすると、決して「モタモタ」ではないのです。
ハーリー・レイスの動きもそうですよね。
猪木は「モタモタ」と思ったというより、自分が俊敏に動くことで馬場がもたもたしているように見えるようにしたというのが真相でしょう。
『毒虎シュート夜話昭和プロレス暗黒対談』(徳間書店)における、ザ・グレート・カブキとタイガー戸口の、アントニオ猪木評はそうですよね。
それはともかくとして、伊能に対しては、鬼道山がスパーリングの相手をして、笑顔で手を抜いているようなふりをして、本気で投げた上に空手チョップを放ちます。
要するに、番場をおだてて、伊能に対しては、辛く当たったというわけですね。
鬼道山は、記者を集めて、ワールドリーグ戦構想をぶち上げています。
ここも、実際とは違いますね。
馬場正平と猪木完治が入門したのは、第2回ワールドリーグ戦開催中です。
ワールドリーグ戦には、番場が参加。
伊能は最初は参加予定がなかったのですが、鬼道山に食って掛かって参加がかないます。
このへんからは、だいぶ史実と違ってますね。
アントニオ猪木は、ジャイアント馬場よりも、ワールドリーグ戦デビューははやく、第4回に出場。
ジャイアント馬場は、第5回が初参加です。
アントニオ猪木は、何かというと、力道山はジャイアント馬場の方をかわいがり、自分は付き人で人間扱いしてもらえなかったというのですが、実際には、自分だって諸先輩方を差し置いて、デビュー2年目でワールドリーグ戦に抜擢されているんですよ。
駿河海とか、大坪清隆とか、桂浜とか、平井光明(ミツ・ヒライ)とか、田中忠治とか、そのへんごぼう抜きで抜擢されているんですよ。
ジャイアント馬場は、体格だけでなく、プロレス脳も、その時点で明らかにアントニオ猪木より上でしたし、即戦力になったわけで、団体に食わせてもらう若手の中では、やはり猪木完治と大木金太郎は大事にされていたんですよ。
ここ、猪木さんのセルフプロデュースに騙されちゃいけませんよ(笑)
ところが、漫画では、伊能が、「番場はシロウトの相手ばかりで、自分は強豪と当てられた」と言い張っています。
いや、対戦相手は同じでしょう。
たしかに、力道山時代のリーグ戦は、きちんと総当たりはしていませんでしたが、さすがに、対戦相手が2通りに分かれるということはなかったですよ。
第5回ワールドリーグは、ジャイアント馬場が4勝2敗1分。猪木は0勝5敗ですが、猪木が負けた相手は、全部馬場は対戦しています。
……って、いちいち史実と付け合わせているとキリがないですね(笑)
物語は、そこから5年後に番場と伊能は結局対戦。
決着がついたシーンは描かれていないのですが、伊能の口ぶりではどうも番場が勝ったようです。
しかし、番場の口からは、鬼道山は、「将来を背負って立つのは伊能だ」と言っていたと聞かされます。
だから、番場も伊能に嫉妬していたと。
では、なぜ、鬼道山は伊能にひどい仕打ちをシたのか。
鬼道山は、自分が日本でしか通用しない田舎チャンピオンだったから、番場に対しても伊能に対しても、その将来性が怖くて潰したかったのではないか、という結論に落ち着きました。
あはは。ほんとうにそうだったのかもね。虚実ないまぜで楽しいストーリーです。
プロレスファンとしては必見の漫画ですよ。
以上、プロレス鬼(コンタロウ著、集英社)は、実際のプロレス史や、実在のレスラーの言動やキャラクターをもとにしたプロレス漫画、でした。
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