ムショ医(佐藤智美著、佐藤漫画製作所)は、女子刑務所の非常勤勤務になった女医が経験する受刑者のトラブルや人間模様を描いています。受刑者という立場の患者が起こすトラブル、精神状態、熱血医師が自分から巻き込まれる事件の数々が描かれています。
『ムショ医』は、佐藤智美さんが描き、佐藤漫画製作所から刊行されました。
この記事は、Kindle版をもとにご紹介しています。
粂川晶(28)は大学病院の医師。
非常勤で、自分の故郷にある女子刑務所で働くことになりました。
医師が、所属する病院とは別に、非常勤で仕事をすることはめずらしいことではありません。
しかし、刑務所は、一般の病院や学校の保健室とは違います。
塀の中という未知なる医療現場で、受刑者という立場の患者が起こす出来事、精神状態、もの好きの粂川医師が好き好んで巻き込まれる事件の数々。
全5巻プラス「再診」の6巻が2023年3月5日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
裏切られながらも受刑者にのめり込む女医
本職は大学病院で働く医師の粂川晶(くめかわあきら)は、実家のある北浦刑務所の非常勤医師になりました。
北浦刑務所は、約450人の女囚がいる女子刑務所です。
着任早々、タクシーの運転手に、門前のポーズを撮ってもらったり、白衣も着る前に、受刑者同士のトラブルによる傷の手当てをさせられたりと、いきなりあわただしくストーリーが動きます。
傷を負った受刑者は模範囚で「看病婦(病舎で働く受刑者)」したが、それゆえ、トラブルに巻き込んで仮釈放させないようにする他の受刑者の作戦でした。
この模範囚は、元看護師だったということもあり、粂川晶は俄然関心を持ちます。
私語をかわしたり、模範囚が洗うべき洗濯を手伝ったりして、刑務官に睨まれることも。
しかし、本来刑務所医は、個々の受刑者に入れ込んではいけないのです。
主任刑務官の早乙女からも、「深入りすると先生が傷つく」と、善意の忠告もされるのですが、どうもやめられず、毎回それでストーリーがこじれていきます。
模範囚が捕まったのは薬物。
仮釈放には、自分を転落させた男が迎えに来るはずでしたが裏切られ、半狂乱になります。
そのシーンをまた見てしまった粂川晶。
可愛そうだから仕事を休ませてやれと、刑務官に干渉します。
困りましたね、こういう人は。
その後、模範囚は自殺未遂。
粂川晶らの必死の対応で覚醒すると、自分と話したいといわれて、喜び勇んで粂川晶が駆けつけると、「なんで死なせてくれなかった」と責められます。
まあ、こんな感じで、受刑者に裏切られることを繰り返しながらも、熱血で刑務所医をつとめる話です。
で、ここから先はツッコミ。
すごく情熱的な主人公ですが、とうとう最後まで、刑務所医の常勤になるとか、なりたいとかいった話はでてきません。
逆に言うと、非常勤のくせに、首突っ込みすぎです。
そんなに深入りしたいのだったら、自分も退路を断って、専従になれよ、と思いました。
それと、高校の後輩の刑務官が、受刑者と癒着する話があるのですが、2ヶ月の停職で済むのか?と疑問でした。
どう見ても、免職ものでしょう。
それは見方を変えると、刑務官のなり手不足をあらわしていることにもなると思うんですけどね。
それと、主人公の粂川晶の家族関係が、謎めいていて、でも完全には解明されませんでした。
途中から弟が出てくるのですが、どうやら本当の弟なのに、“弟”と、ちょんちょんかっこ付きで書かれています。
母親とも、イマイチ関係がぎこちないのです。
晶を長子に、長男を含めて3人姉弟で、腹違いかなと思ったのですが、そうとも書かれていません。
長男を大事にする、カビの生えた家制度を大事にする家で、それが家族間のギクシャクをうんでいるらしいのですが、下の弟だけが今の母親の子なのかなとか、なんて考えました。
これは、続編を作って明らかにしてくれるのでしょうかね。
漫画村事件と漫画家・読者の利益とは……
「佐藤」姓と画風を見ると、どうしても思い出してしまうのが、『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰作、佐藤漫画製作所)です。
キャラクターねちこくて、わざわざ起こさなくていいトラブルを起こすところもそっくりです。
佐藤秀峰さんと佐藤智美さんは、Wikiによると「元夫婦」とありますが、本書も『ブラックジャックによろしく』と同じ佐藤漫画製作所刊行になっていて、元夫婦であることと、仕事上の連携関係をどうやって両立しているのか、などと要らぬことをつい詮索してしまいます。
それはともかくとして、佐藤漫画製作所は、おはりWikiによると、「電子書籍のロイヤリティだけで5億円を越すことができたことを報告し、二次利用のフリー化における収益の可能性を自ら体現した。」とあります。
要するに、版元の力を借りずに、でも版元と同じことはせずにネットを使った販路だけで、数字を挙げたということです。
出版社は、在庫も抱えますし、取次との付き合いもありますし、広告を出稿するクライアントの言うことも聞かなければなりません。
そういうことの一切ないシステムでも、ちゃんと売上はだせたよ、ということですね。
以前、漫画村という海賊ブックサイトが問題になった時、漫画村よりも、出版社の方に厳しいコメントを出していたのを覚えていますか。
こう書かれていてます。
まず、漫画家は得をしません。
漫画家の皆さん、問題のあるサイトを叩くことは簡単ですが、その前に権利は自分の手元にあるでしょうか?……
ネガティブキャンペーンが行われる時、その陰には目的を持った人たちがいます。感情的になればなる程、その目的に利用されてしまうのではないでしょうか。
出版社(Amazon kindle含む)が、漫画村を悪者にすることで、ドサクサに紛れてその権利を漫画化から奪ってしまう懸念がある、ということを指摘しているのです。
そして、自分で売ってみたら、ちゃんと数字が出たから、自分の作品を出版社の自由になんかさせないよ、といっているわけです。
私は、興味深い意見だと思いました。
ひとつは、額面通り。
著者だけでなく、読者にとっても、佐藤秀峰さんの懸念が現実のものとなったら、果たして得策だろうかと。
読者がまた読みたいと思うものが、出版社の都合で差配されてしまうかもしれないのです。
以前、ブログでそのようなことを書いたら、「漫画村の味方だとは思いませんでした」などという低級なコメントが付いてがっかりしました。
私は、漫画村の味方ではなく、漫画家の味方だと言ってるんです。
それが読者の利益にもなり得ると言ってるんです。
読解力のない大衆には、辟易しています。
佐藤智美さんも、その考え方にたっているので、「元」ではあっても、佐藤漫画製作所刊行としているのでしょうね。
漫画家が、在庫を抱えず漫画を売るのは、ネットを使うことになりますが、このブログでご紹介するマンガ図書館Zなども、そのひとつになります。
もっとも、同サイトの印税は少ないそうなので、佐藤秀峰さんの作品も、佐藤智美さんの作品も、残念ながらそこではお目にかかることができません。
やっぱり、Kindleかな。
以上、ムショ医(佐藤智美著、佐藤漫画製作所)は、女子刑務所の非常勤勤務になった女医が経験する、受刑者のトラブルや人間模様を描く、でした。
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