ロス疑惑事件など、戦後の未解決事件を様々な角度から推理しているのは『日本人を震撼させた 未解決事件71』(PHP研究所)です。疑惑はたしかにありましたが真偽は不明。しかし、その段階からマスコミはクロと決めつけたロス疑惑など「戦後犯罪史考」です。
ロス疑惑事件などを論考した『日本人を震撼させた 未解決事件71』は、グループSKITがPHP研究所から上梓した書籍です。
日本の戦後殺人事件の検挙率は一貫して安定して高水準といわれています。
数字上は、90.0%~98.3%の間で推移していると発表されています。
しかし、それは見方を変えれば、10件に1件の割合で未解決事件が存在するということです。
その中には、冤罪も含まれているかもしれません。
動機や証拠などに疑問が残るままに起訴され、判決が出た事件も少なくないからです。
もし冤罪ならどうするのか。
そして、何も解明できないままで被害者は浮かばれるのか。
そうした未解決事件解決のため、同じ悲劇を繰り返さないための「戦後犯罪史考」です。
今回は、週刊誌等のマスコミ報道が過激に行われた、「ロス疑惑」の項についてご紹介します。
本書は2022年9月29日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
「疑わしきは罰せず」などといいながら実際には「一罪一勾留」の原則は破られた
ロス疑惑事件があったのは、1981年11月16日。
現場は、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンジェスル市でした。
そこで、「ロス疑惑」といわれたわけです。
事件の経過は、本書を出典元とします。
現地を旅行中だった三浦和義さん夫妻が、路上で2人組の強盗に襲われ銃で撃たれました。
強盗は逃走。
三浦和義さん(34)は負傷し、妻の一美さんは遷延性意識障害(いわゆる植物症)から1年後に亡くなりました。
三浦和義さんは、若くして成功をおさめた実業家で、180センチを超える長身。
そして、女優の水の江瀧子さんのおいというだけあり、被写体として魅力的なルックスの持ち主でした。
そして、亡くなった一美さんも美人だったため、事件の壮絶さとともに巷間話題になったわけです。
ところが、一転して「疑惑の人」になったのは、『週刊文春』が「疑惑の銃弾」と題した記事を掲載したことによります。
『週刊文春』によれば、三浦和義さんは一美さんに1億5500万円もの多額の保険金をかけていたので、保険金めあてに人を雇って妻を殺させたという推理を記事にしたわけです。
富や容姿などにやっかみもあった大衆は、記事のセンセーショナリズムにもひっかかかり、「三浦が怪しい」というマスコミ報道は大ヒットしました。
事件に先立って、ロス郊外で発見されていた身元不明の死体が、かつて三浦和義さんの会社で働いていた、白石千鶴子さんという日本人女性であることが判明。
彼女が一時、三浦和義さんの愛人だったことも明らかになった。
そして、これもまたマスコミではずいぶん報じられましたが、矢沢美智子さんという元ポルノ女優が、「事件前に三浦から一美の殺害を依頼された」、「事件の3ヵ月前にあたる8月に、一美を襲ったが失敗した」などと告白して警察に自首。
いわゆる殴打事件です。
警察が逮捕に踏み切ったのは、1980年9月のことでした。
殴打事件は、懲役6年の実刑判決がくだされました。
しかし、銃撃事件に関しては、最高裁は2003年3月、状況証拠では疑わしいが、物証がないとして「疑わしきは罰せず」 の原則が貫かれて無罪の判決が下されました。
では、その時の司法はそんなにフェアだったのか。
その時に、弁護人を受任したのは、弘中惇一郎弁護士です。
『無罪請負人刑事弁護とは何か?』(弘中惇一郎著、KADOKAWA/角川書店、kindle版)という書籍で、三浦和義ロス疑惑事件、薬害エイズ事件、小沢一郎氏への国策捜査などの弁護人を受任し、“無罪請負人”の異名を取ったことをご紹介しています。
同書によれば、殴打事件は、凶器も発見されないのに実刑判決がくだされました。
疑惑の銃弾事件は、「疑わしきは罰せず」などといいながら、実際には「一罪一勾留」の原則を破り、わざわざ保険金詐欺と殺人に分けて逮捕。
さらに日本で無罪が確定したのに、アメリカで起訴するというべらぼうな展開でした。
2008年2月、再婚した妻とともに米国自治領サイパンを訪れた三浦和義さんは、突然ロス市警に逮捕されました。
三浦和義さんは、一事不再理の原則、つまり、同じ事件を裁き直すことはできないことを主張しましたが、ロス市警は殺人罪ではなく共謀罪を裁くとしました。
日本の法律には存在しない罪状です。
本書によれば、さらに白石千鶴子さん殺害の容疑でも起訴する予定だったといいます。
結局三浦和義さんは、留置所内で首を吊りました。
さきほどの弘中惇一郎弁護士によれば、三浦和義さんのイメージ上の疑惑(目立ちたがり)の発端とされた、米軍ヘリで重体の妻を病院に運んだ際、発煙筒を手に持ってぐるぐる回す芝居がかった場面は、実はメディア側が考え出して三浦和義さんにやらせたものだったといいます。
要するに、三浦和義さんに対する、印象操作が行われていたことになります。
事件の真相以前に、普段は「マスゴミ」などと口汚く居丈高に罵りながら、そうしたマスコミの印象操作にやすやすと乗っかってしまう大衆の浅はかさを感じます。
しかも、本書によれば、この留置所での唐突な死については、自殺ではなく他殺説もささやかれているといいます。
三浦和義さんは当時、あることないこと書きまくったマスコミ各社を獄中から次々名誉毀損で訴え、そのほとんどで勝訴していました。
そんなに闘争心の旺盛な人物が、安易に自死を選ぶものかという疑いといいます。
もっとも、本書では、三浦和義さんも還暦を過ぎたことで、さすがに「また戦う」気力がなく心が折れたのかもしれない、という見方もしています。
他殺だとしても、日本ではないのでなかなか真実に到達するのは困難ですね。
警察の初動の誤りやマスコミ報道の問題点も少なくない
本書『日本人を震撼させた 未解決事件71』の目次をご紹介します。
いずれも有名な事件ですが、事件に至るまでには警察の初動捜査に誤りがあったり、今回のロス疑惑事件のように、事件の報道内容に問題があったりするものが少なからずあります。
つまり、未解決というのは、事件が難解すぎて未解決というものもないわけではありませんが、対応の仕方を誤って未解決にしてしまった、というものも少なくないということです。
第1章 2010~2001
01 福岡バラバラ殺人事件
02 島根女子大生死体遺棄事件
03 首都圏連続不審死事件
04 板橋資産家夫婦放火・殺害事件
05 蟹江一家殺傷事件
06 琵琶湖バラバラ殺人事件
07 京都精華大学生通り魔殺人事件
08 ライブドア元取締役不審死事件
09 プチエンジェル事件
10 石井紘基刺殺事件
11 歌舞伎町ビル火災事件
第2章 2000~1991
12 世田谷一家惨殺事件
13 桶川女子大生ストーカー殺人事件
14 和歌山毒物カレー事件
15 坂出送電塔倒壊事件
16 神戸連続児童殺傷事件
17 東電OL殺人事件
18 柴又女子大生放火殺人事件
19 池袋駅構内大学生殺人事件
20 八王子スーパー強盗殺人事件
21 日本テレビ郵便爆弾事件
22 井の頭公園バラバラ殺人事件
23 歯科助手挙式直前失踪事件
24 東海道新幹線墨子事件
25 和D-53号事件
26 大阪府熊取町連鎖自殺
27 三重小2女児失踪事件
28 小説『悪魔の詩』訳者殺人事件
第3章 1990~1981
29 足利事件
30 SOS遭難事件
31 徳島県男児行方不明事件
32 女性教員宅便槽内怪死事件
33 名古屋妊婦切り裂き殺人事件
34 リクルート事件
35 赤報隊事件
38 高崎幼児誘拐殺人事件
37 豊田商事会長刺殺事件
38 グリコ・森永事件
39 中川一郎怪死事件
40 ロス疑惑事件
41 パリ人肉食事件
第4章 1980~1961
42 1億円拾得事件
44 長岡京殺人事件
44 青酸コーラ無差別殺人事件
44 ロッキード事件
46 佐賀女性7人連続殺人事件
44 甲山事件
48 金大中事件
44 大阪ニセ夜間金庫事件
50 よど号ハイジャック事件
51 土田・日石・ピース缶爆弾事件
52 「マルセル」盗難事件
53 3億円事件
54 和田心臓移植事件
55 布川事件
56 狭山事件
57 草加次郎事件
58 名張毒ぶどう酒事件
59 チ-37号事件
第5章 1960以前
60 BOACスチュワーデス殺人事件
61 松山事件
62 島田事件
63 徳島ラジオ商殺人事件
64 金閣寺放火焼失事件
65 財田川事件
66 二俣事件
67 国鉄三大事件
68 光クラブ事件
69 免田事件
70 帝銀事件
71 津山事件
ということで、直リンクは、別の書物でご紹介した記事です。
こうしてみると、いろいろな事件がありますね。
起きてしまったものは仕方ないとして、それはマスコミによって消耗されるものではなく、論考されるものであってほしいですね。
興味深い事件ばかりなので、ぜひ本書をご覧ください。
以上ロス疑惑事件など、戦後の未解決事件を様々な角度から推理しているのは『日本人を震撼させた 未解決事件71』(PHP研究所)です。でした。
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