上田美由紀死刑囚が、拘置所で死亡したことが話題です。改めて鳥取不審死事件を『マンガ「獄中面会物語」』で振り返りましょう。著者は、2004年~2009年にかけて起こった6件の連続不審死事件による死刑囚に直接面会して話を聞いています。
『マンガ「獄中面会物語」』は、片岡健さんが全国各地の刑務所や拘置所で面会した殺人犯とのやりとりのうち、個性が際立っていた7人について、塚原洋一さんが漫画化して笠倉出版社から上梓したものです。
原作のタイトルは、『平成監獄面会記』 (サクラBooks、笠倉出版社) 。
とくに、昨日(2023年1月15日)、「7人」の中のひとり、鳥取不審死事件で広島拘置所で収容されていた上田美由紀死刑囚が、拘置所内で死亡したことが報じられ、本書が改めて注目されています。
鳥取不審死 上田死刑囚が喉に食事詰まらせ窒息死 自殺兆候なし https://t.co/Pen67UAIUe @Sankei_newsより
— 法務ニュース (@Sosho_Sokuho) January 15, 2023
死因は、食事をのどに詰まらせたことによる窒息死だということです。
鳥取不審死事件とは、2004年~2009年に鳥取県で起こった6件の連続不審死事件について、その中の強盗殺人2件について、2017年の最高裁判所判決により上田美由紀死刑囚の刑が確定しました。
本書は2023年1月16日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
なお、すでに死亡が確認されているので、以下は「元死刑囚」と表現します。
周囲の善意につけ込んで生きてきたのか!?
本書のタイトルは、『太った女の周辺で6男性が次々に……』。
トビラは、タイトルの下に上田美由紀元死刑囚が描かれ、下には『上田美由紀』『鳥取連続不審死事件』と書かれています。
そして、最初のシーンは、2009年に2人の毒婦が社会の注目を浴びたところからスタートしています。
1人目は、埼玉県ケテに詐欺容疑で逮捕された木嶋佳苗死刑囚。
この歳の9月、木嶋佳苗死刑囚の周辺では、少なくとも4人が不審な死に方をしていた疑惑が表面化していました。
このブログでも、『自己愛的(ナル)な人たち』(岡野憲一郎著、創元社)という書籍で、「婚活詐欺殺人の木嶋佳苗(恋愛詐欺のナルシシスト)」として紹介されています。
「自分はイケてる、それを認めない周囲や社会が悪い」と、承認欲求が肥大化した人物の一人に数えられています。
木嶋佳苗死刑囚に関する報道合戦が続く中、11月になると「鳥取にも木嶋佳苗のような女がいる」として、新たに上田美由紀(当時35歳)をクローズアップしたと書かれています。
たしかに私も、当時宅配してもらっていた『東京スポーツ』で、そんな記事を見ました。
鳥取不審死事件とは、2004年~2009年に鳥取県で起こった6件の連続不審死事件のこと。
強盗殺人2件、自殺2件、事故死1件、病死1件とされました。
最初、詐欺容疑で逮捕された上田美由紀元死刑囚ですが、強盗殺人2件について、2017年の最高裁判所判決により死刑が確定しました。
木嶋佳苗死刑囚とは、
- 年齢も近い
- 男性たちの多くと男女関係が売り、多額の金をだまし取っていたこと
肥満体で美人とは程遠く、「なぜこんな女に」という関心を集めた
といった共通点がありました。
そして、マスコミは「東西の毒婦」と比較して報道しました。
ただ、私の当時の印章は、木嶋佳苗死刑囚の場合、まさに『自己愛的(ナル)な人たち』の指摘どおりで、「勘違いしているデブ」が手料理など頑張ってお上品を気取っての犯行というイメージがありましたが、上田美由紀元死刑囚の場合は、子供の保護者会にも太ももが見えるミニで出席していたそうですから、もっと単純に「ハードル低い肉感的な体」で歓心を引き、水商売の手練で男性をその気にさせるという、少し質の違う「毒」ではないかと思いました。
本作にもその違いが書かれています。
それによると、木嶋佳苗死刑囚は、未婚で婚活サイトで男性と知り合い、だまし取った金で高級マンションに済んで贅沢な食生活をブログに書き綴るなど、拒食に彩られた暮らしぶりを標榜していました。
一方、上田美由紀元死刑囚は、何人かの男性との同棲生活を経験し、逮捕当時はデブ専スナックで働きながら、5人の子どもや交際相手と一緒に、鳥取市郊外にある平屋のアパートで暮らしていました。
そのアパートは、部屋の内外がゴミだらけの「ゴミ屋敷」状態だったそうです。
上田美由紀元死刑囚が収容された松江刑務所は、広島在住の原作者(片岡健さん)が行きやすかったので、取材に動いたといいます。
はじめて面会に訪ねたのは2013年9月。
当時、裁判員裁判の死刑判決を不服として、広島高裁松江支部に控訴中でした。
報道では大柄なイメージでしたが、実際には太ってはいるものの、150センチに届かないほど小柄で、すっぴんの顔は地味だったと書かれています。
上田美由紀元死刑囚は、「私のことを一度にすべて知ってもらえないと思いますが、1つ1つ知って欲しいです!!」と言い、片岡健さんには、「人を騙しそうな人物にもまったく見えなかった」といいます。
面会の後は、差し入れの切手や葉書なども含めた礼状が届いたとか。
見る限り、字もきれいですね。
その一方で、切手の貼り方は雑です。
ゴミ屋敷の自宅と化していたことから、片岡健さんは、元死刑囚が精神的な問題を抱えているのではないかと思ったそうです。
事件について上田美由紀元死刑囚は、殺人はやっていない、詐欺は同居者が主犯だと話していたそうです。
漫画は、過去の不審死の内容を振り返っています。
元死刑囚と不倫関係になった男(新聞記者)は特急電車で轢死し、「自殺」として処理。
同棲したものの元死刑囚に暴力をふるわれていた男(警備員)は海で溺死。
またしても不倫関係になった男(刑事)は山中で「自殺」。
身内の事件なので、警察は詳細を語りません。
トラック運転手は日本海沖で溺死。ワカメ漁の漁師に発見される。
電器店経営者は、家電6点の代金を払ってもらえず、川で溺死。
隣家の無職男性は、突然体調が悪くなり自室で死亡。
この中には、多額のお金をつぎ込んでいた男性もおり、立件された2件は、いずれも金銭トラブルがありました。
上田美由紀元死刑囚が、これらの事件について片岡健さんに釈明したことは、裁判資料で調べたところすべて大嘘だったそうです。
元死刑囚は、手記を書くといったので、片岡健さんは出版社につないだそうですが、書かれた原稿は、新聞記者との嘘くさい恋愛物語を延々と書くばかりだったとか。
片岡健さんは、上田美由紀元死刑囚の取材には見切りをつけ、関係者への取材に切り替えたそうですが、元死刑囚にひどい目に合わされた人々は親切な人ばかりで、元死刑囚はそういう人たちの善意につけ込んで生きてきたのだろうと考察しています。
本人と会った者でしか知りえないエピソードの数々
本書は以前、“後妻業事件”と呼ばれた関西青酸連続死事件の筧千佐子死刑囚に面会した話をご紹介しました。
本書『マンガ「獄中面会物語」』で面会した殺人犯は、次の7人です。
- 小泉毅(面会場所・東京拘置所)
- 植松聖(面会場所・横浜拘置支所)
- 高柳和也(面会場所・大阪拘置所)
- 藤城康孝(面会場所・大阪拘置所)
- 千葉祐太郎(面会場所・仙台拘置支所)
- 筧千佐子(面会場所・京都拘置所)
- 上田美由紀(面会場所・松江刑務所)
元厚生事務次官宅連続襲撃事件(平成20年)――「愛犬の仇討ち」で3人殺傷
相模原知的障害者施設殺傷事件(平成28年)――19人殺害は戦後最悪の記録
兵庫2女性バラバラ殺害事件(平成17年)――警察の不手際も大問題に
加古川7人殺害事件(平成16年)――両隣の2家族を深夜に襲撃
石巻3人殺傷事件(平成22年)――裁判員裁判で初めて少年に死刑判決
関西連続青酸殺人事件(平成19~25年)――小説「後妻業」との酷似が話題に
鳥取連続不審死事件(平成16~21年)――太った女の周辺で6男性が次々に……
原作では、この7人のほかに、「冤罪の疑いがある」とする横浜・深谷親族殺害事件(平成20~21年)の新井竜太死刑囚が加わっています。
メディアを騒がせた有名な殺人犯たちについて、実際に本人と会った者でしか知りえなかった実像と事件の深層、意外なエピソードの数々はとても興味深いと思います。
ご一読をお勧めします。
以上、上田美由紀死刑囚が、拘置所で死亡したことが話題です。改めて鳥取不審死事件を『マンガ「獄中面会物語」』で振り返ります、でした。
マンガ 「獄中面会物語」 – 塚原洋一, 片岡健
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