共産党宣言(原作/マルクス、エンゲルス、漫画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス)は、共産主義を明らかにした文書です。人類に夢と希望と期待を集めたものの、既存の社会主義を名乗る国々の評価は芳しくありません。共産主義とは何かを考えてみましょう。
『共産党宣言』は、1848年にカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって書かれた書籍で、バラエティ・アートワークスが漫画化し、Teamバンミカスから上梓しました。
漫画化と言っても、原作は物語ではなく、マルクス主義者による国際秘密結社「共産主義者同盟」の綱領であり、共産主義の目的と見解を初めて明らかにした文書です。
「妖怪がヨーロッパに出没する。共産主義という妖怪が……」
という書き出しでお馴染みです。
それを、ストーリー仕立てで描いたものです。
まんがで読破シリーズ第34巻です。
マルクス主義は、人類の歴史に多大な影響を与えました。
ソ連が生まれ、中国が生まれ、北朝鮮が生まれ、キューバが生まれ、ベルリンの壁が崩壊してなくなりましたが東ドイツが生まれ、ベトナムが生まれました。
それだけ、人類に夢と希望と期待を集めたわけです。
しかし、現在、社会主義を名乗る国々は、崩壊したり、看板とは裏腹に、為政者による富や権力の独占が行われたりしています。
その一方で、それらの共産主義は間違いなんだとする、日本共産党のような立場もあります。
いったい、共産主義とは何だろう。
本書が、それを考えるよすがになれば幸甚です。
本書を読む前に、資本主義の秘密を次々と暴いていくカール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルスの『資本論』『続資本論』を読まれることをお勧めします。
やはり、バラエティ・アートワークスが漫画化し、Teamバンミカスから上梓した、まんがで読破シリーズです。
『資本論』『続資本論』には、資本主義社会とはどういうものか、その経済的運動法則を、労働力の商品化を基軸として解明しています。
本書は2022年12月20日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
社会主義社会はプロレタリア(労働者)の闘争によって実現する
本書は、こう説明しています。
古代より、社会は様々な階層・身分に分かれていました。
古代ローマでは、貴族・騎士・奴隷。
中世においては、封建君主・家臣・ギルド組合員・職人・農奴。
そして、このような階級がさらに別々の階層に分かれていました。
この階級対立が、固定されて圧制が長く続くと、新しい社会への扉を開こうとする革命的改造が起こるのですと。
本書で描かれているのは、資本家と労働者の階級的対立です。
労働者は、低賃金で重労働の工場で働いています。
労働者たちは、日々集まって「どうしたら事態を打開できるか」を話し合っていますが、なかなか解決策が出てきません。
単発的に暴動を起こしても鎮圧されます。
そんなとき、労働者のビルとバートのいる部屋に、社長の腰巾着であるノーマンが訪ねてきます。
「私は以前から、あななたち3名、ビルさん、フランクさん、バートさんに興味を持っていました。あなたたちは、他の労働者とは違う何かを持っている。私の所属する労働組合の一員になってもらえませんか」
欄外には語句説明。『労働組合……労働者が労働生活の諸条件を維持、改善、向上することを目指し団結する組織』
「この工場地帯へは、ある方の命令を受けてきました。目的は組合員を募ること。この地域で、組織を結成させることです。私は労働者の方々を支持しています」
「社長の腰巾着なんか信用できんな」とバート。
「私を信用出来ないのは構いません。ただ、あなたたち、このままでいいのですか。はっきり言って家畜同然ですよ。ほとんどの労働者は、その状態に慣れてしまっています。だから私は、あなたたちが働く工場だけでなく、他の工場でも生産率を上げるように仕向けてきました。労働者を過酷な状況におかせて、暴動を起こさせるためです」
「しかし、組織を作って、いったい何をするつもりなんだ」とビル。
「今回の暴動のような集団ではなく、団体を作ります。さらに、各地に散らばる団体を集結させ、町を作るのです。あらゆる支配から解かれた場所、社会主義の町、ユートピアです」
欄外には語句説明。『社会主義……財産や生産手段を国有化し、共有、管理することで平等な社会を実現しようとする運動・思想』
「まず町に工場を作ります。そして、工場での生産を計画的に管理運営し、賃金の分配も階級差なく平等に行います。付近の農家と提携して、食料も良質なものを適正に労働者に提供します。労働時間も大幅に短縮します。搾取がなく、貧者も富者も存在しない町を作るのです。あなたたちには、この地域の組織の先頭に立ってもらいたいのです。もちろん資金援助はします。ともに、ユートピアを作りましょう」
ビルの帰り道、暴動に参加して、捕まりそうになって逃げてきたフランクがやってきます。
ビルは、住む家も失ったフランクを招いて、ノーマンが提案した労働組合の話をします。
「それでビル。お前はどうする」
「人間が平等に暮らせる町があるとしたら、行ってみたい。そう思った。人間が賃金労働に縛られない町さ。それが本当なら、フランクも家族と一緒に暮らせるんだぞ。このままでは何も変わらない。一緒にやってみないか、フランク」
フランクは、家族を田舎の農場へ働きに出して、苦労させていました。
ということで、ビルもフランクもバートも、「社会主義の町」に参加します。
『共産党宣言』によれば、資本家と労働者という、ふたつの階級の衝突が何度も繰り返されるうちに、別々に活動していた個々の労働者は協力しあい、結束を固めていきます。
その集団が一つの意志を持って団結したとき、労働者階級の真の闘争への道が開かれるのです、と書かれています。
それが、描かれているわけです。
「社会主義の町ユートピア」には、多くの労働者が参加して、軌道に乗りつつあるように見えました。
が、その町の会長であるブルーノは、口でこそ「自由なのは財産を持つ資本家だけ。その偏った財産の『私的所有』を廃止しなければ社会に自由はありません」というのですが、どうも胡散臭そうです。
ある労働者が、激しい制裁を受けていました。
「みんな平等」なら、サボっていても同じ賃金をもらえるのでいいやと、毎日怠惰な生活をしていたというのです。
「ルールを乱す有害分子は、厳罰に処す」と、ブルーノ会長。
ビルが、「それでは恐怖政治ではないか、やりすぎだ」と抗議すると、ブルーノの周りにいた男たちに捕らえられます。
ブルーノ会長は、ノーマンに拳銃を渡します。
「みなさん、よく聞いてください。生産手段と収益を平等に分配する組織には、絶対的な権力が必要です。(ビルを指差し)これより、自己中心的な有害分子の公開処刑を行います」
ノーマンは、ビルたちを騙したのか。
いえ、拳銃を渡されたノーマンが撃ったのは、ブルーノ会長でした。
ここで、『共産党宣言』に基づいた解説が入ります。
プロレタリア(労働者)の闘争が発達中の時期には、様々な社会主義の思想が現れます。
市民革命によって没落した貴族たちが打ち出したものが、「封建的社会主義」です。
彼らは、労働者の仲間のふりをして、封建主義支配の再建を目論みました。
自営業者などの中間層が打ち出した「小市民的社会主義」も同様に、世の中を同職組合制や家父長経済に戻すことを目的とした虚しい思想です。
……と書いてあるんですが、要するに共産主義は、いつか「自営業者などの中間層」とは対決する思想ということでしょうかね。
私も自営業者だから気をつけよう。
博愛主義者、人道主義者、慈善事業家の類が主張する「保守的・ブルジョア社会主義」も、うわべだけの政治改革で、労働者を革命から遠ざける害悪です、とまで言っています。
要するに、マルクス主義者だけが正しいということか。
日本の宗教(仏教や神道)よりも宗教チックですね。
仏教も日本神道も、もっと懐が深いですよ。
それはともかくとして、実は撃たれたブルーノ会長も、市民革命後に地主として生き残った貴族でした。
「封建的社会主義」を目指して、労働者と資本家を戦わせ、共倒れさせることで、封建的社会に返り咲こうとしていたのです。
ノーマンはそれに気づき、やはり社会主義は労働者によって打ち立てるものだと考え、ブルーノを撃ったのです。
しかし、「社会主義の町ユートピア」は、結局軍隊によって大砲を打ち込まれ、破壊されてしまいます。
本書はいいます。
「政治権力」とは、他の階級を抑圧するために一階級によって組織された暴力である。
個人が個人を搾取することがなくなれば、それに応じて国民による国民の搾取もなくなり、国民内部の階級対立がなくなれば、諸国民同士の敵対関係もまたなくなっていく……としています。
うーん、そうかな。
「諸国民同士の敵対関係」ってそんな単純なものではないと思いますが。
好き嫌いは利害関係と一致するとは限りません。
利益をもたらしてくれる人でも、「あいつは虫が好かない」っていうことあるでしょう。
宗教の違う国の戦争だって、階級ではなく世界観の争いですしね。
『共産党宣言』は暴力革命を結論としているが……
最後の章で、共産主義以外の党や、世界各国での革命運動に対する共産主義の立場が説明されています。
それによると、この世から消え去った党派の殆どは、基本的には今でも正しいそうです。
「反体制」の立場にあるすべての党派を支持するそうです。
そして、未来の運動を考えることも怠らない。
たとえば、絶対王政下のドイツでは、共産主義者はブルジョア階級とともに、封建的所有と戦った『三月革命』があります。
なぜ、共産主義者は、敵であるべきブルジョア階級と組んだのか。
市民革命によって、資本家による支配が発展するということは、さらに優れた労働者階級が誕生する土台にもなるからだそうです。
将来、ブルジョアを倒すためにブルジョア革命に協力する…
資本主義階級の成立は、より発達したプロレタリア革命への「序曲」と考えることができる……そうです。
たしかにも、政治の世界では、共通の目的を実現するため、立場の違う勢力同士でも手を結ぶことはありますから、それはいいでしょう。
でも、手の結び方には議論は必要ですね。味噌もクソも一緒くたにして手は結べません。
その伝では、日本共産党はちょっと変ですね。
社民主要打撃論とか、新左翼を左翼冒険主義と罵るとか、自分たち以外の「共産党」を認めないとか、「この世から消え去った党派の殆どは、基本的には今でも正しい」という建前とは180度違う、独善の限りを尽くしてきたように思いますが(笑)
もちろん、あさま山荘事件などを起こした新左翼を批判するのはもっともなことですから、それは日本共産党が正しい。
ただ、その正しさから考えると、立憲民主党との共闘における追従ぶりは、ちょっと首を傾げるところがありますけどね。
つまり、何を否定し、何を正しいかとするかで、議論の余地があるのではないかと思います。
そして、ここからが重要です。
世界中の民主主義政党と手を取り合い、プロレタリアによる政治権力を獲得し、新世界を創るのだ!
そして、その目標を実現させる方法はただひとつ。
これまで作られたいっさいの社会秩序の暴力的転覆!
強硬手段によって共産主義革命は達成されるのだ
……ということです。
日本共産党は、暴力革命を否定し、選挙による政権交代を標榜していますが、『共産党宣言』は、しょせん暴力革命を前提としているものですから、本当に選挙による「革命」を目指すなら、戦術や方法論は全面的に書き換えて独自のものを発表すべきです。
つまり、『資本論』はともかく、日本共産党は『共産党宣言』は声を大にして全面的に否定しなければ、つじつまが合わないように思います。
たしかに、同党は『共産党宣言』をモデルにはしないと言っていますよ。
ではどんな青写真があるのかといえば曖昧です。
たとえば、1970年代には、すぐにでも民主連合政権ができるようなことを述べていたくせに、何の説明もなく「21世紀の早い時期」に「延期」されましたが、それだってもう2022年なのにまだその兆しはなし。
何の根拠も説明もない、なしくずしの延期は、国債の借り換えの繰り返しと同じで、要するにそれは事実上「ない」ということなんでしょうかね。
『日本共産党の60年史』では、袴田里見は頭が悪かったが、非転向を貫いたので副委員長にしてやった、などという腹を抱えて笑えるくだりがありましたが、『日本共産党の70年史』では、さり気なく消されてつまらなくなってしまいました。
日本共産党は、こういうところが信用されないのです。
いったん発表した党史をもみけして、なかったことにして、自分たちは絶対に間違いはない、と威張る態度に、国民は辟易しているのです。
裸になり、正直になり、格好悪く恥をかき、地べたに這いつくばっても国民に信用される血の通った政党であることが求められると思います。とくに日本のような風土ではね。
以上、共産党宣言(原作/マルクス、エンゲルス、漫画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス)は、共産主義を明らかにした文書、でした。
共産党宣言 (まんがで読破) – マルクス, エンゲルス, バラエティ・アートワークス
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