『マンガで読む名作 地獄変・河童』(原作/芥川龍之介。漫画/地引かずや)は、原作者の心情を色濃く反映したとされる2編の漫画化(前)

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『マンガで読む名作 地獄変・河童』(原作/芥川龍之介。漫画/地引かずや)は、原作者の心情を色濃く反映したとされる2編の漫画化

『マンガで読む名作 地獄変・河童』(原作/芥川龍之介。漫画/地引かずや)は、原作者の心情を色濃く反映したとされる2編の漫画化です。今回は、そのうち芸術至上主義を凄絶に描いた、芥川王朝物の代表作といわれる『地獄変』をご紹介します。

芥川龍之介といえば、平安王朝や古代中国など、時代設定を執筆当時とは異なる「時代物」の作品が有名です。

このブログでも、これまで『藪の中』『羅生門』『蜘蛛の糸』などをご紹介しました。

今回の『マンガで読む名作 地獄変・河童』(原作/芥川龍之介。漫画/地引かずや)は、芸術と人間の道徳心の対立と葛藤を描いた、芥川王朝物の代表作とされる『地獄変』と、日本社会を痛烈に批判し、芥川龍之介の自サツの動機を考える上でも重要な作品と言われる『河童』が漫画化されています。

今回は、そのうち『地獄変』についてご紹介します。

本書は、2023年11月5日現在、kindleunlimitedの読み放題リストに含まれています。

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芸術性と人間の心の対立と葛藤

平安時代の絵師・良秀は、堀川のお城に出入りするほどの絵の腕を持ちながら、醜い容貌と高慢な性格で人々から嫌われていました。

彼には一人娘がいて、彼女は大殿様の御邸に、小女房(比較的上の位のお手伝いさんのような存在)として仕えていました。

城では、丹波の国から人馴れた猿が一匹、献上されましたが、その容姿が似ていることから、若殿から「良秀」と名付けられていました。

だからというわけではありませんが、良秀の娘は、猿の「良秀」をかわいがっていました。

ある日、大殿様は良秀に、「地獄変」の屏風絵を描くよう命じます。

良秀は制作に取り掛かると、何かに取り憑かれたように描きますが、どうしても一点、足りないものがあると考えます。

そこで、大殿様に、実際に牛車を燃やして見せてほしいと頼みました。

大殿様は、なんと自分の求愛を受けない良秀の娘を牛車に乗せて、火をつけました。

すると、そのとき、「猿の良秀」も火の中に入っていきました。

良秀は娘が火達磨になったことに大変なショックを受けましたが、「猿の良秀」が飛び込んだ瞬間、絵の被写体を得たことに喜ぶ絵師になっていました。

一方、意地悪心で火をつけた大殿様は、燃え盛る壮絶な光景を目の当たりにし、それが絵に残ったことで生涯忘れることができなくなったことを後悔しました。

そして、良秀は地獄変の屏風絵を完成させて大殿様に見せた翌日に自サツしました。

なんとも壮絶なラストですが、猿の飛び込みを境として、父親としての苦悩から、芸術のためにはいかなる犠牲も厭わない絵師になる良秀と、自分の欲望のために人をアヤめることまでしたものの後悔する大殿様の異常性の対比が描かれています。芸術性と人間の心の対立と葛藤を描きたかったのでしょう。

良秀は、自分の娘を犠牲にしてまで地獄変の屏風を完成させることに執着し、大殿様は自分の恋心を叶えられなかった腹いせに娘を乗せた牛車に火をつけてしまったのです。

そうなれば、どうなるかは明らかですが、そして実際に後悔もしているわけですが、それでもそうしてしまった人間のどうようもない悲哀を描いています。

「無間地獄」と「因果応報」

本作もまた、仏教の教えがあると言われています。

今回は、「無間地獄(むけんじごく)」と「因果応報」です。

無間地獄とは、大悪を犯した者が、シ後絶えることのない極限の苦しみを受ける地獄のことです。

因果応報というのは、良い行いをすれば良い結果が、悪い行いをすれば悪い結果がもたらされるなど、自分の行いによって、その報いがあるということです。

人を助けたり、感謝したりすると、自分も幸せになれるものの、人を傷つけたり、妬んだりすると、自分も苦しみに陥るということです。

といっても、たにんさまから10万円だまし取ったから、その報いで誰かから10万円取られる、という単純な話とは限りません。

仏教の基本思想を一口で云えば、「縁起」によって成立しています。

「因果」というと、原因があって結果があり、今度はその結果が原因となって次の結果を生み、…という具合に、関係を直線的に考えていますが、「縁起」は、そのように一方向に進む「因果」が、さらに横にもつながる「網」をなしています。

要するに、この世のあらゆる物事は、背景も結果も周囲との関係も、つまり因果応報として縦横無尽に繋がっている、ということです。

それぞれが、バラバラに存在しているのではない、ということです。

その関係が、始めも終わりもなく無限に織りなしている。

つまり、自分がなにか悪いことをすると、それが原因となって何かが起こり、それが原因となってまた何かが起こり……と、世間を巡り巡って、思わぬところから思わぬ形でまた自分のところに帰って来る、ということです。

話を戻すと、本作は地獄変の屏風絵を描くために、自分の娘を犠牲にした絵師・良秀と、自分の欲望のために娘を焼きコロした大殿様という2人の異常な人物による、仏教の教えに背いた行為を描き出しました。

その結果、良秀は自サツ、大殿様は生涯後悔と苦悩にさいなまれることとなりました。

「地獄の苦しみ」をひとに与えると、死後を待たずに生きている間に「無間地獄」が「因果応報」でやってくると描いたわけです。

ということで、もう1作の『河童』も面白いので、また機会を見てご紹介いたします。

以上、『マンガで読む名作 地獄変・河童』(原作/芥川龍之介。漫画/地引かずや)は、原作者の心情を色濃く反映したとされる2編の漫画化、でした。

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