ザ・女の事件 赤ちゃん投げ捨て惨殺事件~社宅内ママ友格差の果てに~(なせもえみ著、ユサブル)は2000年に埼玉で実際に起こった事件の漫画化です。同じ社宅に住む階下の主婦が、生まれて間もない赤ちゃんを床に叩きつけてしまったのです。
『赤ちゃん投げ捨て惨殺事件~社宅内ママ友格差の果てに~』は、なせもえみさんによって、ユサブルから上梓しています。
『ザ・女の事件』というシリーズ名がついています。
本作は、『ザ・女の事件Vol.3』です。
2000年(平成12年)に、埼玉県浦和市(現さいたま市)で起こった、いわゆる埼玉・浦和社宅乳児殺害事件を漫画化したものです。
なぜ、同じ社宅に住む家庭の乳児に手をかけたのかが描かれています。
ありふれたサラリーマンの社宅で起こった出来事なので、もしかしたら、「明日は我が身」かもしれませんよ。
本書は2022年12月13日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
「不公平すぎる」という思い込みから……
埼玉県のさいたま市は、平成13年5月1日に浦和市・大宮市・与野市の3市が合併して誕生しました。
本書は、平成12年の事件を漫画化しています。
したがって、事件当時の舞台は「浦和市」です。
最初のシーンは、平成12年8月19日。
警察が、被害者家族を訪ねたところから始まります。
「浅野美智代さんはいらっしゃいますか」
夫が対応します。
「あの……別の日にしていただけないでしょうか。うちは今、娘が重症で入院することになっていて、その支度に追われているんです。妻はかなりショックを受けておりまして、とても他人に会える状態ではないですし」
「実は奥さんに伺いたいのは、その娘さん柚葉ちゃんについてなのですが……」
美智代は、もうがまんできないというふうに立ち上がり、こう言います。
「違います。どうして私が柚葉を虐待するんですか」
警察は、顔色一つ変えず答えます。
「あなたには、医師ははっきり伝えていませんが、太股の付け根につねった痕があり、母親による虐待を疑ったようです。脳挫傷も、たった6ヶ月の乳児がベッドから落ちた程度ではなく、まるで床に叩きつけられたようだと。柚葉ちゃんはベッドから落ちたかもしれないって……あなたは自分で見ていないんですか」
「その時、私はミルクを作っていたんです。柚葉を連れて遊びにいった友人がそういったんです」
「その人にも事情を聞きたい」
「この社宅の真下に住む、長谷聖美さんです」
お互いを下の名で呼びあい、積極的な交流のあったはずの長谷聖美によって、柚葉ちゃんは床に叩きつけられ、その4ヶ月後に無念にも短すぎる生涯を終えました。
では、なぜ階下の主婦に、乳児を叩きつけられなければならなかったのでしょうか。
被害者の浅野家と、加害者の長谷家は、夫の部署も同じ、夫人同士は年齢も同じ34歳。
主婦同士は、下の名前で呼び合うほど仲良く付き合っていました。
ただ、違うところは、長谷家は子供が3歳と2歳の2人の子供がいて、浅野家はこれから生まれるというところでした。
長谷家は、夫が子育てもせず、聖美が自分の食事すら落ち着いて摂れず、てんてこまいでした。
「美智代、あなたも子供が生まれればわかるわよ」
聖美はそう思っていました。
内心、美智代もはやく私と同じ苦労をしたらいい、と思っていたのかもしれません。
ところが、案に相違して、美智代の夫は病院にも付き添い、昇進もする。
聖美は、自分の夫のほうが歳上なのに、とジェラシーを感じました。
美智代の夫も、「話したのはちょっとまずいだろう」といいます。
「同じ部署なのに、昇進をなんか喜べないと思うぜ」
それだけではありません。
「いや、会社の人づてで気になる噂聞いたんで。(長谷夫人は)人んちに上がり込んで居座るんで図々しいとか。こっちが滅入ってても気にせず話しかけてくるとか」
美智代は、その実感はなかったので、そちらは否定しました。
実際に、ずかずか上がり込んでくることはありましたが、ちょうど美智代に陣痛が起こったときで、聖美は会社に連絡を入れてくれるなと適切な対応をしてくれました。
そして、美智代は出産。
そのときも夫は付き添ったことで、聖美は自分が出産の時は夫が何もしてくれなかったことを思い出します。
昇進のことといい、出産のことといい、不公平すぎるわ。
さらに、浅野家は家を買うという話を聞きました。
とっさに、「へーっ、すごいじゃない、おめでとう」という聖美。
しかし、心の中は爆発して、自分で何を言っているのかわからなくなっています。
そして、とうとう……
あなたは自分の配偶者と向き合っていますか
本書のタイトルには「格差」とありますが、その「差」は、事件を起こさずなはいられないほどの嫉妬を感じるようなものとはとうてい思えませんでした。
たしかに、夫人同士は同い歳、同じ会社に勤める夫を持ち、同じ社宅住まいという境遇の中で、被害者家族の夫のほうが昇進して、家も買ったとのことですが、加害者の家庭は子供が2人もすでにいたわけですし、その分何かと生活費もかかります。
マイホームが遅れても、それをもって「遅れている」と嫉妬するようなことではないし、どちらか選択しろと言われたら、子供の数が多いほうがいいですよ、私ならね。
「うちは子供二人もいるから物入りで、マイホームなんてまだ先だわ」
で、いいではないですか。
被害者夫婦の夫のほうが、家事や育児をして、加害者の夫がしなかったというのも、どちらかというえばその夫に言うべきことです。
ただ、なまじ同じような立場だと、わずかな「差」も許せないと思うようになるのかもしれませんね。
そして聖美は、少しいい子ぶっていましたね。
おそらく、自分の夫に対してもそうだったのでしょう。
つまり、真正面で夫と向き合い、自分の不満や希望を話し合ってこなかった。
そして、不満をつのらせながら、自分はちゃんとやろうとして、さらに自分を追い込んだ、といったところではないでしょうか。
身につまされる人もいるんじゃないですか。
あなたは、自分の配偶者と、なんでも忌憚なく話し合っていますか。
裁判を通じて、被告はなぜ事件を起こしたのか具体的な説明をしてこなかったそうですが、自分で自分を追い詰め、結局弱いもの(相手の子)にはけ口を求めるというパターンは、文京区幼女殺人事件を思い出します。
文京区幼女殺人事件を漫画化したのは、『ザ・女の事件 ママ友格差無惨~お受験幼女殺害事件~/ザ・女の事件Vol.2』です。事件には「お受験」が関係しているといわれたり、被害者の母親が悪者になったりと、事件の本質を外れたことで話題になった事件です。
それとともに、加害者は近所の人からうとんじられていたようですから、友人もなく世間も狭かったのかもしれません。
だから、被害者だけしか見えていなかったのでしょう。
そして、どんなに親しい間柄でも、乳児は預けないことです。
床に叩きつけるのはもちろんあってはならない論外事件ですが、そうでなかったとしても、誤って乳児に何があるかわかりません。
かりに法的な過失は認められなくても、そこにはしこりが残ります。
お金の貸し借り同様、子供の一時預けも少なくとも乳児は厳禁です。
以上、ザ・女の事件 赤ちゃん投げ捨て惨殺事件~社宅内ママ友格差の果てに~(なせもえみ著、ユサブル)2000年埼玉の事件を漫画化、でした。
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