大久保清事件を漫画で再現しているのは、完全ノンフィクション・ドキュメンタリー・コミック『実録昭和猟奇事件』(佐藤まさあき作画、グループゼロ)です。昭和に起こった異質な凶悪事件を、作者が取材や現地追体験によってまとめた作品です。
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私がここのところ夢中になっている「過去の作品」は、佐藤まさあきさん(1937年9月15日~2004年3月11日)の作品です。
佐藤まさあきさんは、貸本漫画時代の描き下ろしでデビュー。
劇画のジャンルで活躍しました。
その佐藤まさあきさんが、もっとも描きたかった作品という『実録昭和猟奇事件』が、全6巻公開されています。
作者自身が関係者に直接取材した事件
佐藤まさあきさんについては、これまで『実録昭和猟奇事件』に収録されている、『帝銀事件』『木犀号事件』『吉展ちゃん事件』などについてご紹介してきました。
『実録昭和猟奇事件』は、戦後事件史に残る出来事を、佐藤まさあきさんの取材と推理で描いています。
「昭和に起こった数々の凶悪事件、その中でも一際異質な事件を作者自身が関係者に直接取材し、さらに警察資料から犯人の足取りや逃走経路を自らの足で追体験した完全ノンフィクション・ドキュメンタリー・コミック」(公式サイトより)です。
彼らは何故罪を犯し、そして被害者たちの命を奪ったのか――。取材を通して語られる凶悪事件の犯人達の人間性とは…? そしてヒトはいったいどこまで堕ちることができるのか……。
1~3巻に大久保清事件、4巻に吉展ちゃん誘拐事件、5巻に帝銀事件、6巻にもく星号事件などが収録されています。
今回は、その第1巻~第3巻に収録されている『大久保清事件』のご紹介です。
今日は、1971年(昭和46)連続婦女暴行殺人事件の容疑者として大久保清が逮捕された日。彼は画家を装い、若い女性に近づき言葉巧みに愛車に乗せ、人気のない場所で暴行、殺害し遺体は山中に…8人の女性がその毒牙に。1976年1月に死刑に。器 pic.twitter.com/vGaihaz0d5
— utsuwa-Shun (@ShunUtsuwa) May 14, 2022
今の若い人でも大久保清の名くらいは知ってると思います。
1971年(昭和46年)3月~5月までの45日間で、8人の若い女性を強姦・殺害しました。
1973年に死刑判決を受け、1976年に東京都葛飾区小菅(東京拘置所)で刑を執行されました。
3日前の5月14日は「逮捕の日」だったそうで、1971年のことではありましたが、関連ツイートもありました。
もう、被害者の親御さんもおそらくは鬼籍に入っていると思いますが、現代への教訓もあると思います。
最新型クーペを走り回って罪を重ねた
群馬県警捜査一課では、バーのマダム殺しの容疑者を1ヶ月ぶりに逮捕。
一件落着のパーティーが開かれていました。
そんなとき、群馬県藤岡警察署から家出人捜索の電話が。
藤岡市に住む、21歳の女性が3日前から行方不明になったと。
マンガは、そこから時系列に事件と警察の捜査の進展を丹念に描きます。
まず、その「行方不明」の1日前である昭和46年3月9日午後6時に舞台を戻します。
笹森恵子(21)という、兄夫婦と同居している女性が、「ねえ、義姉さん。今日あたし、変な人に声かけられちゃった」
義姉が事情を聞くと、「教員らしい人から絵のモデルになってくれ……って頼まれちゃって」とのこと。
その時はそのまま帰ってきたのですが、義理堅い女性はわざわざ「断ってくる」と言って、自転車で出ていき、そのまま戻ってきませんでした。
兄の裕一は心配になって探しに出かけ、多野信用金庫前に放置されたままになっていた自転車を発見しました。
兄はその足で、藤岡署に捜索願を出したのですが、警察は形式的に捜査を受理しただけでした。
連続事件の端緒にありがちな、初動の不作為です。
兄は、自分が経営する電気部品工場の社員たちと妹の行方を探すことに。
翌朝、ベレー帽をかぶった男が現れ、妹の自転車の指紋を拭き取ろうとしていてたので声をかけると、そのまま当時の最新型クーペで逃げました。
兄はその車体番号を手帳に控えましたが、その車の持ち主は、婦女暴行で3年6ヶ月の刑を受け、仮出所したばかりの大久保清(36)でした。
警察が大久保清の自宅へ聞き込みに向かうと、ロシア人とのハーフである母親が出できました。
「ああ、ボクちゃんのことですか。9日の午後3時頃、ちょっと行ってくるといって車で出かけ、午後6時から始まったキックボクシングを見ていると帰ってきたんで、一緒に食事をしましたよ。それから3時間ほどして、午後9時頃でしたかね。またちょっと行ってくると言って出ていったけど、1時間ほどで戻ってきて特別変わったことはなかったですよ」
警察は、この母親のアリバイを真に受けたわけではなく、自宅は24時間張り込み、県下のガソリンスタンドも監視されました。
しかし、大久保清は、農協から買い入れたガソリンをポリ容器に入れて補充しながら走っていたので、捜査は空振りに終わりました。
この「失踪」事件は、結果的に大久保清の7人目の殺人事件になりました。
大久保清は、その1ヶ月後の昭和46年4月11日に強姦致傷事件を起こして、身柄を富岡署に。
マンガは、今度はその事件を振り返ります。
A子さん(19)は買い物の帰りでした。
ベレー帽・ルパシカ姿で画家を装った大久保清が声をかけます。
「あ!お嬢さん大変失礼ですが、貴女はステキなプロポーションをしていますね。私は駆け出しの画家ですが、今度銀座の画廊で個展を開くんです。それで、是非あなたのような素敵な方をモデルに画をかいてみたいのですが…いかがでしょう」
A子さんは固辞しましたが、大久保清の誘いがあまりにもしつこく、「お茶でも一緒に飲めば済むだろう」と車に乗りました。
すると、大久保清は「自分は柔道四段だ」と凄み、狭い車の中でA子さんを思うさまに蹂躙。
「だが…大久保はA子さんの身体がよほど気に入ったのか、さらに安中市のモーテル『ワカハラ』に連れ込んだ」(本書より)
今度は「ムショ帰り」と凄み、全裸にして終わりまでシたといいます。
「このことは誰にも言うなよ」と大久保清は釘を差しましたが、彼女はボーイフレンドにすぐに打ち明け、母親に付き添われて告訴したのです。
この事件の発覚で、大久保清は2度とシャバには出られなくなりましたが、「おれがトコトンねじれた人間になったのは警察権力のせいなんだ。いくら責められたって、警察の圧力には負けない」と逆ギレ。
それでも、1ヶ月後には笹森恵子殺害をほのめかしました。
警察では、県下の家出人手配者の中から16~23歳までの女性9人を選び出して捜査。
うち2人が見つかり、残り7人を公開捜査しましたが、その中には、大久保清が殺害した女性も含まれていました。
3月31日に群馬県多野郡で最初の殺人を犯して以来、逮捕されるまでの1か月半に、白いクーペで1日平均170キロメートルもの距離を走りながら、約150人(うち確認されたのは127人)の女性に声を掛け、約30人の女性を車に乗せ、うち10数人と肉体関係を持ち、うち8名を殺害。
死体を造成地等に埋めて遺棄しました。(Wikiより)
ろくでもない「ほしのもと」と溺愛で自己愛が肥大化
佐藤まさあきさんによると、大久保清事件は、大久保清の親や先祖の一族が性にだらしない一族であることを調べています。
そして、ロシア人とのハーフである母親は、芸者の庶子として生まれ、10歳の時に大久保清の祖父に養女として迎え入れられています。
大久保清は三男でしたが、長男は早逝。次男は両親と折り合いが悪かったため、三男の清は溺愛されたようです。
ろくでもない先祖と溺愛。
うーん、最悪の「ほしのもと」ですね。
私は、母親が、成人しても息子を「ボクちゃん」と呼び、(犯行に使われた)車を二つ返事で買ってやるなど溺愛したことも背景にあったと思っています。
たとえば、ある被害者の女性から、「私は警察官の娘だから言いつけてやる」と言われて手をかけたものの、実は警察官ではなかったと刑事に聞かされると、「自分ともあろうものが騙された」と半狂乱になるなど、大久保清は自己愛の肥大化した人間に育っていました。
ある被害者の父親は、公判でとびかかろうというほどの気持ちだったのに、事件を題材にしたテレビドラマを観て、「大久保もかわいそうなやつだね」とぽつりと言ったというエピソードも。
溺愛はろくなことがないのです。
そして、自己愛も。
大久保清のような大掛かりな犯罪に至らなかったとしても、自分も周囲も不幸にします。
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以上、大久保清事件を漫画で再現しているのは、完全ノンフィクション・ドキュメンタリー・コミック『実録昭和猟奇事件』(佐藤まさあき作画)、でした。
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