学歴・競争・人生(吉川徹/中村高康著、日本図書センター)は、学歴ってなんだろう、人生をどう生きたらいいのかを考えます。学歴主義でも、アンチ学歴主義でもなく、学歴と社会・人生というものを社会学者らしく是々非々に分析しています。
先日、新小学1年生が「なりたい」職業&親が「就かせたい」職業というアンケート結果が発表されていました。ランドセル素材の「クラリーノ」が、この春小学校に入学する子ども男女各2,000人とその親に、「将来就きたい職業」「就かせたい職業」を調査したものです。
新小学1年生、将来就きたい職業・親が就かせたい職業は? https://t.co/So9X0fGKGY @Resemomより
— 赤べコム (@akabecom) June 18, 2022
本文にはこう書かれています。
性別でみていくと、男の子が将来就きたい職業の1位は「警察官」、2位「スポーツ選手」3位「消防・レスキュー隊」となった。「警察官」は2021年に初めて1位になり、今年もトップをキープ。格好いい制服姿や乗り物にあこがれる子供も多いようだ。
子供のころはいろいろ夢があっていいですよね。
でも、スポーツ選手や芸能人・タレント・歌手というのは、華やかだけれどもごく一握りの人しか到達できません。
子供のころ純粋に描いた姿を実現することは、本人の能力や社会の仕組みなどいろいろな事情によって困難さを極めるのです。
現実社会の受け皿は、子どもたちの夢の比率に合わせて用意されるわけではないのですから、多くの子どもたちがそうした大きな夢をあきらめることになるのは、避けがたい。
そのために、「実現可能性の少ない未来予想図を握りしめて、大人の入り口まで来てしまった若者がいれば、その先の世界を正しく見渡すことができるように、視野を広げることも大人たちの責務」という意図で上梓された書籍が、『学歴・競争・人生』です。
「高学歴」ならぬ「重学歴」はつぶしがきかない
『学歴・競争・人生』の著者は吉川徹さんと中村高康さん。
ともに社会学者です。
本書はまず、学歴社会は、能力や業績で人間を評価する近代社会の必然的な判定基準であること。
それゆえ、多くの日本人が、自覚のあるなしにかかわらず学歴取得競争や学歴による人間評価といった価値観にとらわれている現実を指摘しています。
そして後半では、人生が学歴により水路づけられる現実を示しながらも、その学歴を冷徹に見つめ、名門(銘柄)大学志向の無意味さや、現実には大卒が必ずしも自分の人生にとって絶対に有利とはいえないことなどを解説しています。
たとえば、著者は大卒を「高学歴」ではなく「重学歴」と表現。
「重」には、つぶしがきかない、(少なくとも4年)時間のロスがある、大学の学費もかかることなどが含まれています。
大学を卒業して社会に出ても、すでにはたらいてキャリアをつんでいる同期の高卒の人に待遇や地位などで勝つには何年もかかる。
本書はとくに、腰掛でちょっとだけ働いて結婚してしまう四大卒女性のわざわざ大学に入る意味を問うています。
学歴主義ではなく、アンチ学歴ともいえない本書は、学歴と社会・人生というものを社会学者らしく是々非々に分析。
大卒であるかないか、それぞれの選択でどうなるかの人生シュミレーションができるような解説書であると思います。
みなさんは、現在の職業や出身の学校について、どういった経緯で選ばれましたか。
私たちは子供のころ、進路というと親の方針がまずあって、その影響を受けた選択であることが多いのではないでしょうか。
たとえば、教育熱心な家ならたいていは進学を重視。
まれにその反動で義務教育を終わったら社会に出てしまうなんてことがあるかもしれません。
どちらにしても、「教育熱心」の影響を受けているわけです。
私もそういう影響を受けた一人で、挫折の繰り返しで25歳で大学に入りなおすなど、人生仕切り直しと回り道を繰り返しています。
もし私が10代でこの書籍と出会っていれば今頃はもっとまともな人生を……、なんてボヤきも出てしまいました。
本書は、自分の進路を自覚的に選んだのだろうか、ということを改めて考えさせてくれます。
イケハヤさんとマナブさんの学歴論争
学歴は必要か否か論争は、決着を見ることのない永遠のテーマかもしれません。
何しろネットでさえ、インフルエンサーの間でも意見は真っ二つ。
たとえばイケダハヤトさんは「学歴は不要」と言い、マナブさんは「大学は借金してでも行くべき」という意見です。
イケハヤさんは、もともと偏差値55の県立戸塚高等学校から、自分を認めてもらうために猛勉強して、早稲田大学政経学部に入ったことを自ら告白しています。
ですから、現在の発言は自己矛盾ではないかと思うのですが、どうして宗旨変えしたのか。
イケダハヤト(31歳・早大卒)「この時代に大学に入る意味があると本気で思ってるの?」「中卒で大活躍している人なんて腐るほどいる」 – もうね、ばかかと https://t.co/fZVCcKiER6
— 赤べコム (@akabecom) January 26, 2022
時代が変わったからだそうです。
当時はスマホもSNSもなく、そとのひとと出会うことが難しかったから自分で学べなかった。
つまり学校に行くしかなかった。
しかし、今は大学のメリットは代替可能。
アップルもGoogleもネットフリックスも大卒を求めていない。
つまり、時代は大卒にアドバンテージを与えなくなったので、有利な立場とはいえなくなった、受験勉強をして4年間学費と時間をかけるほどの価値がなくなってしまったというのです。
一方、マナブさんは法政大学出身で学歴必要派。
YouTubeを更新しました??
※質問はコメント欄で受け付けます??【浪人生向け】大学に行く意味は「人生の保険」です【FランはNG】 https://t.co/t9K1cDnUS5
浪人生からの質問メールが多かったので、大学に行く意味について解説しました。ネタバレしておくと、借金してでも、行くべきかなと思います
— Manabu (@manabubannai) April 4, 2019
自身が大学に行ってよかったなという点はこう枚挙しています。
- 就職で新卒カードが使える(大学のブランドが信頼を獲得する)
- 考える時間を持てる(世界旅、企業インターン、留学、サークル、飲み会など経験することで、先の人生について考える時間をもてる)
- 選択肢が広がる(応募条件大卒以上に対応できる、大卒と高卒にフィルターがかかり、高卒コミュニティでは大卒の情報が入りづらい)
「無駄」呼ばわりされているモラトリアムの4年間を過ごすことで、そうした企業のフィルターを突破できる、といいます。
また、マナブさんは、よくいわれる「やりたいことあるのなら大学へ行け。やりたいことがないから行かなくていい」
という“人生経験豊富そうな大人”のもっともらしいご託宣には、「そりゃないだろう」と大反発しています。
やりたいことがあれば直球で動く
わかんないから、大学に行くかどうかも迷っている若者に対して、「やりたいこと探せ」とかいい加減なこというな、というわけです。
このへんは、後に書きますが、私の人生経験からみても全くそのとおりだと思います。
大学の4年間は無駄ではない
ただ、本書にひとつ注文を付けると、大事なことが抜け落ちています。
それは、大学のメリット、デメリットについて語る際、「モラトリアム」の価値が重きを置いて語られていないことです。
趣味に、アルバイトに、サークル活動に、恋愛に熱中する大学生活。
高校を出てすぐ働いている人に比べれば、なんて無駄な「遊びの時間」と思われるでしょう。
高い学費を払って4年も遊びやがって、と思われても仕方ないのが大学生活です。
しかし、それは決して無駄ではないのです。
その人の価値観の豊かさを育てる、金銭や数字には換算しにくいけれど、経験が確実にその人のその後の人生を豊かにできるのが「キャンパスライフ」です。
この点を無視して、大学生活の真のメリットを語ることはできないと思います。
ですから、女性が四大を出て25歳で結婚したからと言って、それを損であるようにしか解釈できないような啓蒙は違うんじゃないかなあと私は思います。
もっとも、では誰でも大学さえ行けば「モラトリアム」を経験して心が豊かになってその後の人生がバラ色かと言えば、もちろんそんなことはありません。
額面通り「モラトリアム」で、何も考えないまま社会に出て、不完全燃焼のまま気が付いたら「負け組」になってしまうことだってあります。私もそういう感じなのですが……(汗)
まあ、当たり前すぎる結論ですが、結局はその人次第ということでしょう。
『学歴・競争・人生』(日本図書センター)という話題の書籍があります。「10代のいま知っておくべきこと」というサブタイトルがついているので、大学生、浪人生、高校生ぐらいがターゲットということでしょうか。
ただ、学歴ってなんだろう、人生をどう生きたらいいのか、ということを考えるよすがとして、そうした年代の子供を持つ親、もしくは仕事や人生に行き詰まりを感じている人にも、社会と学歴のあり方について知識を整理できるためにご一読をお勧めしたい読み物です。
以上、学歴・競争・人生(吉川徹/中村高康著、日本図書センター)は、学歴ってなんだろう、人生をどう生きたらいいのかを考えます。でした。
学歴・競争・人生: 10代のいま知っておくべきこと (どう考える?ニッポンの教育問題シリーズ) – 吉川 徹, 中村 高康
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