帝銀事件といえば、戦後犯罪史上に残る今も謎の大事件。それをを漫画化したのが佐藤まさあきさんの『実録昭和猟奇事件5』です。実録漫画はたいてい原作者が別にいますが、本作は佐藤まさあきさん自身が取材を重ねて事件を追体験して描いた作品です。
警察資料から犯人の足取りや、逃走経路を実際に確認したという完全ノンフィクションドキュメンタリー・コミックである、『実録昭和猟奇事件5』(グループゼロ、全6巻)の『劇画 帝銀事件』についてご紹介します。
死刑囚は刑の執行も再審もなされぬまま獄死
帝銀事件(ていぎんじけん)をご存知ですか。
昭和史に語り継がれる終戦後の大事件として、名前ぐらいは聞いたことありませんか。
帝銀事件とは、1948年(昭和23年)1月26日に起こった、強盗毒薬大量殺人事件です。
東京都豊島区長崎にあった、帝国銀行(後の三井銀行⇒三井住友銀行)椎名町支店に現れた男が、「近くの家で集団赤痢が発生した。GHQが行内を消毒する前に予防薬を飲んでもらいたい」と、行員らを騙して遅効性の青酸化合物を飲ませました。
客や行員など合計16人(8歳から49歳)がその毒を口にし、12名が亡くなりました。
そして、男は現金と小切手を奪ったという事件のことです。
もちろん、強盗殺人事件は刑事事件として軽いものではありません。
ただ、こんにちまでこの事件が取り沙汰されているのは、一斉大量毒殺は、犯人がどのような動機で犯行に及んだのか、そもそも真犯人は誰なのか、という謎が残っているからです。
容疑者として、画家の平沢貞通という人が逮捕されて、死刑判決を受けました。
しかし、獄中では無実を主張。
毒物については異説もあり、冤罪の声が高まる中で、刑の執行も再審もなされぬまま39年間を獄中で過ごし、1987年(昭和62年)に95歳で獄死しました。
もし現代なら、立件が難しかったろうといわれています。
なぜ行員たちは乾杯するように毒を飲んでしまったのか――生存者が語った"帝銀事件"の悪夢
「平沢は犯人と思えません」 #帝銀事件 #昭和の35大事件 #文春オンライン https://t.co/ZPr7mKWidY— 石川良直 (@I_yoshinao) February 22, 2022
たとえば、このOGPは『文春オンライン』の記事ですが、帝銀事件をこう説明しています。
太平洋戦争後の混乱期、GHQの占領下で起きた事件であり、謎は今も解明されていません。
つまり、平沢元死刑囚の犯行ではなく、またたんなる容疑者を間違えた冤罪でもなく、実はGHQがなにか真相を知っていたのではないか、という疑問を今も多くの人が抱いているということです。
それはとりもなおさず、こんにちも米軍が日本にある現状で、今も日本人の誰かが濡れ衣を着せられて処理されている大きな事件もあるのではないか、という疑いに繋がるわけです。
これまで、帝銀事件を扱った多くの書籍や雑誌の読み物はありますが、漫画で描いたのは、佐藤まさあきさん(さとう まさあき、1937年9月15日~2004年3月11日)です。
漫画家自身が取材を重ねて事件を解き明かす
佐藤まさあきさんは、貸本漫画時代の描き下ろしでデビュー。
劇画のジャンルで活躍しました。
その佐藤まさあきさんが、もっとも描きたかった作品という作品が、『実録昭和猟奇事件』(グループゼロ、全6巻)です。
本書のうち、帝銀事件は第5巻に掲載されています。
タイトルもズバリ、『劇画 帝銀事件』です。
『実録昭和猟奇事件5』(佐藤 まさあき 著) 読んだ。帝銀事件は不気味。本当は731部隊の元メンバが犯した殺人事件なのに画家が捕まったように見える。画家もなぜか写真撮影で変顔したり金回りが急に良くなったり異様。そういえばカーボン銃殺人事件の犯人が画家のことを本で書いてた記憶がある。 pic.twitter.com/2TpTDm9FEg
— obebe (@obebe) July 10, 2019
『実録昭和猟奇事件』は、昭和に起こった数々の凶悪事件、その中でもひときわ異質な事件について、佐藤まさあきさん自身が関係者に直接取材。
さらに、警察資料から犯人の足取りや、逃走経路を自らの足で追体験した完全ノンフィクションのドキュメンタリー・コミックです。
そうした漫画は、たいていは推理作家やジャーナリストの書籍や書き下ろしを原作、もしくは原案とすることが多いのですが、漫画家自身が取材を重ねて事件を解き明かすのは、珍しいパターンです。
それにしても、化学の知識もない画家が、どうして毒薬を使った事件の容疑者になったのか。
『劇画 帝銀事件』で、佐藤まさあきさんは3つの理由を挙げています。
- 冤罪であり、GHQの実験であったことを示唆
- 平沢貞通元死刑囚は別件の容疑者ではあった
- 平塚八兵衛さんの取り調べで自白している
当時アメリカに占領されていた日本は、その真相に迫れなかったというわけです。
過去につまらない詐欺でパクられています。
ただ、それについても佐藤まさあきさんはマンガの中で、詐欺と大量殺人では犯罪の質が違うので、詐欺師だからこそ帝銀事件は違うのではないか、という見方をしています。
現代では自白による供述ではなく、客観的な証拠を採用していますし、そもそも自白「させる」強引な取り調べ自体が否定されています。
ただ、科学的な捜査が行われていなかった当時は、容疑者の証言が事件の決め手になっていることが多かったため、その“強引さ”しか頼るものがなく、結果的にそれが真相に到達できたこともありました。
このへんは、漫画のストーリーで描かれているので、詳細は本書をご覧ください。
マンガ図書館ZやAmazonKindleUnlimitedで読み放題
『劇画 帝銀事件』を収録した佐藤まさあきさんの『実録昭和猟奇事件』は、マンガ図書館Zで全6巻ともWebから無料閲覧できます。
佐藤まさあき 『実録昭和猟奇事件』 #マンガ図書館Z https://t.co/DvjExhLyjx
— 石川良直 (@I_yoshinao) February 22, 2022
マンガ図書館Zについては、先日も『特命係長只野仁デラックス版』が全巻無料で読めることをご紹介しました。
マンガ図書館Zは、絶版となった漫画、ライトノベル、TRPGルールブックなどを電子書籍として配信。
会員登録をしなくても購読できるWebサイトですが、閲覧にあたっては広告が表示され、その収益から作者に印税が支払われます。
AmazonKindleUnlimitedでも、本書は読み放題のリストに入っています。
読み放題ということは、すなわち利用者は0円で読めるわけですが、アマゾン側では閲覧したページ数をカウントして、ページあたり0.5円を著作者に支払っています。
ですから、全巻無料と言っても、ちゃんと著作権者には還元されていますので、安心して、そして感謝してどんどん読みましょう。
ちなみに、本書は1~3巻に大久保清事件、4巻に吉展ちゃん誘拐事件、5巻に帝銀事件、6巻にもく星号事件などが収録されています。
以上、帝銀事件といえば、戦後犯罪史上に残る今も謎の大事件。それをを漫画化したのが佐藤まさあきさんの『実録昭和猟奇事件5』です。でした。
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