患者よ、医者から逃げろ~その手術、本当に必要ですか?~(夏井睦著、光文社新書)は、古い治療を否定し湿潤療法を解説した書籍です。「キズは消毒して乾燥させる」から、「キズ、ヤケドは消毒しない/乾かさない」と大転換を提唱しています。
『患者よ、医者から逃げろ~その手術、本当に必要ですか?~』は、夏井睦さんが光文社新書から上梓した書籍です。
著者は形成外科医です。
従来の創傷治療の正反対とも言える、画期的な「創傷・熱傷の湿潤療法」を提唱。
2001年にはサイトを開設しています。
湿潤療法をご存知ですか。
従来の形成外科治療は、「キズは消毒して乾燥させる」でした。
バイキンを防ぎ、古い皮質を代謝させることで新しい皮膚を再生させるという考え方です。
著者は1996年、真逆の「キズ、ヤケドは消毒しない/乾かさない」という治療を提唱したのです。
つまり、これまでとは全く正反対です。
湿潤こそが、自己回復させる力だからです。
植皮手術が必要とされる熱傷患者でもほぼその必要はないとして、2001年からは湿潤療法のサイトを開設。
20年だった今では、形成外科や皮膚科において、湿潤療法を標榜するクリニックが増えてきました。
なついクリニックの公式サイトでは、こう書かれています。
当クリニックでは、すりむき傷や熱傷(軽微なものから重症例まで)の他、縫合せずにきれいに治す小児顔面裂傷、化膿している粉瘤、さまざまな皮膚腫瘍の治療にも、湿潤治療を応用して痛みの少ない/傷跡が残りにくい治療を行っています。
「縫合しない」「痛みの少ない」というのがいいですね。
私も、アクシデントで顔に2箇所、傷があるのですが、湿潤療法できれいに、痛みを少なく治していただきたかったです。
まあ、私が傷を負ったのは、1970~80年代なので、まだ湿潤療法はなかったんですけどね。
本書の「まえがき」では、火傷で、強引に皮膚移植の治療を求められるものの、跡が残る例を挙げて、こう書いています。
傷跡が残るか残らないかというのは、見えるところであれば重大な問題です。
というわけで、本書は湿潤療法についての解説です。
本書は2023年3月8日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
私の妻も湿潤療法で順調に回復した
今日は、論より証拠として、私の妻の話を書きます。
腕に大きな火傷をしましたが、最初に駆け込んだ皮膚科は従来治療でした。
そこに疑問を感じた妻は、翌日、湿潤療法を標榜するクリニックに行き、湿潤療法を開始しました。
本書のレビューで、もう湿潤療法は標準治療になっていて、今更本を書く必要があるのか、というようなものもありましたが、湿潤療法を標榜しないクリニックはたくさんありますよ、今でも。
どちらかというと、従来療法の方を希望する患者もいるので、まだ併存するのではないでしょうか。
ネットをご覧になると明らかですが、この治療法、支持・不支持は2派にはっきりわかれています。
それに、湿潤の仕方を一人合点して、悪化させてしまうこともあります。
そういう意味でも、きちんと本書を熟読し、さらに湿潤療法をきちんと行う医師の指導のもとに治療スべきだと私は思います。
さて、話を戻しますと、私の妻は誤って頭から熱湯をかぶってしまい、顔と腕と胸にヤケドを負いました。
うっかりして、お湯をかぶったような状態です。
主たる火傷が、頭ではなく腕だったのは、「不幸中の幸い」といえるのかな。
いちばんひどかった左腕のヤケドははっきりと腫れていて、通常の皮膚科クリニックでは跡が残ると言われました。
そこで、翌日は湿潤療法を標榜するクリニックへ。
最初から湿潤療法クリニックにいかなかったのは、妻も保守的だったのかも知れません。
薬を薄く患部に伸ばしたあと、ラップで覆うように言われます。
湿潤療法を、ラップ療法ともいいますね。
熱湯でのやけどなら跡は残らないと言われたそうです。
すでに、診断が違っているんですね。
これ大きいですよ。
いや、湿潤療法云々以前の問題です。
跡は残らないといわれれば、一所懸命自分でも気をつけます。
でも、あとが残ると言われたら、「なあんだ。どうせ残るんならバイキンでも入らなきゃいいや」と投げやりになります。
まあ、クリニック側は、跡は残らないと言って、もし残って訴訟でもされたらかなわないと思っているんでしょうかね。
とにかく、最悪のことだけを言うのは、よくないですよ。
その4日後、患部の水ぶくれが潰れてきたので、こんどはテープを貼るようにいわれます。
さらに4日後、白く膨れる部分が小さくなってきたので、白い部分だけにテープを貼り、あとは薬(リンデロン)を塗るように言われます。
顔と胸は、水ぶくれもなく赤い部分だけ塗ればよいと言われます。
6日後、白い部分がなくなったのでリンデロンのみにします。
顔と胸は一部分だけまだ赤いので塗りつづけます。
そして3ヶ月後。この時点でも気にはならなくなりました。
1年後
劇的には変わっていませんが、薄くなってはいます。
あとが残るといえば、たしかに「無」ではありませんが、まあもはや気にならない程度ですね。
湿潤療法であっても医師の治療として行う
傷跡は、年単位で見ていくと変化があるそうなので、まだ引き続き見ていきますが、ここでは湿潤療法について、ネット上の是非論争も踏まえてわかったことをまとめておきます。
- 湿潤療法だから怪しい、いけない、ということはない
- ただし、湿潤療法を標榜する皮膚科もあるので医師の診察はうけること
- 湿潤療法でも全くの自然治癒待ちではなく、症状によって短期間のステロイドや保湿剤など薬の力を借りる
ネットの論争を見ていると、
医療行為(従来の治療)VS民間療法(湿潤療法)
という対立に見えるのですが、そうではなくて、湿潤療法であっても医師の治療として行う、と考えておいたほうがいいと思います。
これまでは、患部はしっかり消毒し、通気性のある絆創膏や包帯を使うのが常識的な手当てでした。
化膿しない、膿まないということに主眼が置かれていたわけです。
が、1990年代後半ぐらいから、湿潤療法はそれと正反対に、患部から滲み出てくる滲出液こそが免疫力と回復力の原動力として、必要以上にきれいにしたり乾かしたりすることで、体液を使った自己回復の邪魔をしない治療法が登場しました。
外用薬も、ワセリン(プロペトR)や油脂性基剤の外用薬(ステロイド軟膏,ゲンタシン軟膏Rなど)のみにとどめ、消毒薬や消毒液を含む外用剤(イソジンゲルR,カデックス軟膏R,ユーパスタRなど)、クリーム基剤の外用薬(ゲーベンクリームR,エキザルベR,ヒルドイドソフトRなど)などは使用しません。
いずれにしても、今受けている熱傷治療に疑問を持つ人は本書を読むべきです。
きっと納得できるはずです。
以上、患者よ、医者から逃げろ~その手術、本当に必要ですか?~(夏井睦著、光文社新書)は、古い治療を否定し湿潤療法を解説した、でした。
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