日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか(矢部宏治、講談社)は、アメリカの「占領状態」が続く日本の現状を解説しています。そして、憲法論争が、右派の壊憲でもなく左派の護憲でもない国民による憲法制定の方向も打ち出しています。
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』は、矢部宏治さんが講談社から上梓しました。
なぜ米軍基地はなくならないのか?
なぜ日本人は自国の領空を自由に飛べないのか?
なぜ米軍機が墜落しても日本警察は手だしをできないのか?
なぜ事故後も原発を続けようとするのか?
それらについて、日本がアメリカの属国だからであるということを述べています。
日本は、かつてGNPが世界第2位、現在もGDPが世界第三位の発達した資本主義国ですが、それはアメリカの属国になることを引き換えにした復興であり、その代償としていまだに国連では「敵国」である。
同じ「敵国」だったドイツは、戦後の短い期間、内閣6代でそのポジションから抜け出した。
そのような内容です。
「戦後70年を超えてもアメリカの「占領状態」が続く日本のおかしさを白日のもとに曝し、大反響を呼んだベストセラー。」と出版社は喧伝しています。
原発推進を納得させられたか
本書は、大変な力作ですが、政治の話なので、どうしても賛否両論になります。
否定派の言い分は、
- 日本はドイツと違う。資源がないから属国も仕方なかったのだ
- 基地問題は安全保障の問題なのに中国軍の話が一度も出てこない
- 反原発の話はこじつけのプロパガンダだ
といったことです。
原発の話は、たしかにもう少し論考したほうが良かったかもしれません。
個人的には別に反対はしませんが、様々な意見を返り討ちするには、少し「基礎工事」が弱かったように思います。
たとえば、今は原発に反対している日本共産党だって、自由民主党の原発行政に反対だっただけで、原子力の平和利用には賛成だったのです。
それが、実際に起こった福島の現実で、反原発の方にシフトしてしまったわけですが、反原発陣営の論拠はまだインスタントなところがあるのではないでしょうか。
日本国憲法は誰が書いたのか
さて、本丸は、日本がアメリカの属国であるという話です。
その大きな論点として、日本国憲法はどうやって作られたか、ということが書かれています。
日本国憲法はGHQが書いた
憲法は国民が作るものだから、今の憲法を守れというのは実は間違いだ
というのが本書の意見です。
が、「護憲」の中には、いや、そんなことはない、日本人が書いた、と言い張るコメントもアマゾンには書かれています。
たとえば、こういうコメントがあります。
コメント者は、それはNHKで見ただけで、それをたしかに裏付ける一次資料にはあたっていないようです。
何しろ、「なっているそうです」という言い方ですからね。いいかげんだ。
その上で、著者を「「ソフト改憲洗脳」に近いらしい。」などと噂話の体裁で中傷しています(笑)
本書の、どこを読んだらそういう結論になるのでしょうか。
著者は、護憲は戦術として否定していません。
また、日本人の意向が反映されたという視点もあり得るとしています。
ただし、憲法は国民が作るものであり、GHQが書いたとアメリカ当局が正式発表しているものを、日本人が書いたと言い募るのは真偽の問題だからおかしい、といっているのです。
だいたい、当時の国民に、日本国憲法に意見を述べる機会があったんですか。
ないよな。
コメントに書かれている「民間人」というのは、どういう国民のコンセンサスと手続きで選ばれたのでしょう。
「国民の総意を代表する人々」といえるのでしょうか。
百歩譲って、その7人が書いたとして、お手盛りで選ばれた7人だったら、日本国民が書いたことにはなりませんよ。
著者によると、今の憲法論争は、
壊憲派と、今の憲法厳守派で、国民による憲法を書こうという選択肢がない
ということ。
全くその通りです。
日本の政治・政策の話って、いつもそういう二元論でうんざりなんですよ。
たとえば、「夫婦別姓」について思い出してください。
自称「左派」の者は、「選択的夫婦別姓」に賛成しない人を、旧弊な考え方のように追い込む。
ジョーダンじゃないんだよ。
「選択的夫婦別姓」は、家制度を否定して家族制度に変わるものにはなっていない「おためごかし」ですから、旧来の制度も含めて、どちらにも賛成できない、という意見だってあるのです。
憲法についても同じことです。
既存の「右」と「左」の潮流しか認めない、という議論自体、全く低級で不毛な話です。
そういう思考停止が問題なんだ、ということを本書は述べているのに、何もわかってないんだな。
批判を発展的に活かせない低級な民度
著者は、日本は素晴らしい文化をもつ国であり、科学技術も先進国なのに、社会科学や社会思想が遅れている、ということも述べていますが、私はその点も賛成です。
それはやはり、建設的な批判を受け止める議論ができないからではないでしょうか。
面白い例え話がありますよね。
選挙演説で、批判のヤジをとばされると、保守の人はかけつけてきて、「よくぞ言ってくれました」と感謝して、「おっしゃる通り、仰る通り」と言いながらその人を自分の陣営に取り込んでしまう。
左派の人は、ピント外れの反論をする(打たれ弱い)か、その人を「敵」と身構えてしまう。
で、結局どちらも、その批判を発展的に活かせない。
ま、安倍晋三さんあたりは後者でしたが、いずれにしても、そういう幼稚な議論しかできないからだめなんです。
日本人として、そんな自戒をいだきながら読むと、いっそう説得力が増すと思います。
日本が戦前復古のような考え方をしている限り「敵国」のままだろう
基地の問題で中国に触れない点ですが、これはたしかにそうです。
中国は触れていません。それは事実です。
ただ、本書は沖縄問題のそもそもの経緯を指摘しているので、中国をあえて避けているとはこの限りでは言えないと思います。
それから、日本はドイツとは違うから、ドイツと同じようなやり方で国際的な信用を取り戻せというのは不可能だというコメントもありましたが、著者も、別にドイツと同じことをしろとは書いていませんよ。
時代も違いますしね。
ドイツはナチス否定を徹底したからこそ信用を取り戻した。
日本が戦前復古のような考え方をしている限り「敵国」のままだろう、というのが基本的な考え方であり、私はその意見に賛成です。
みなさんは、いかが思われますか。
本書は、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
以上、日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか(矢部宏治、講談社)は、アメリカの「占領状態」が続く日本の現状を解説、でした。
日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか (講談社+α文庫) – 矢部宏治
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