最高のコーチは、教えない。(吉井理人、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は「教える」のではなく「コーチング」する技術を解説しています。才能を120%引き出し圧倒的成果を出す方法は、自分の頭で考えさせるようにコミュニケーションをとることとしています。
『最高のコーチは、教えない。』は、近鉄やヤクルトなどで投手として活躍、日本ハムや千葉ロッテなどでコーチもつとめた吉井理人さんが、ディスカヴァー・トゥエンティワンから上梓した書籍のKindle版です。
コーチとはどうあるべきかを、箕島高校・尾藤公、仰木彬、権藤博、野村克也、ボビー・バレンタインという、現役時代に出会った指導者を例に出しながらまとめています。
その方法は、「教える」のではなく、自分の頭で考えさせるように質問し、コミュニケーションをとる「コーチング」という技術だ。
この「まえがき」に書かれていることがすべてですが、それは具体的にどうすればいいのかが本文で書かれています。
それには、コーチとして自分がコーチングの理論を体系的に学び、相手を観察し、話し合うことだといいます。
本書は2022年9月10日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
コーチングは、相手との対話から始まる
著者は、「コーチングは、相手との対話から始まる」といいます。
ヤクルトを退団し、大リーグを目指した著者は、ニューヨーク・メッツに入団しました。
ところが、コーチは何も言ってくれなかったといいます。
それどころか、ボブ・アポダカコーチは、真逆のことを言ったそうです。
「おまえ以上におまえのことを知っているのは、このチームにはいない。だから、おまえのピッチングについて、俺に教えてくれ。そのうえで、どうしていくのがベストの選択かは、話し合いながら決めていこう」
著者は、当時の日記に、「もし自分がコーチになったときのために、この経験は忘れないでおこうと書いてあった。それぐらい印象的で、僕のターニングポイントとなる大事な言葉になった」と書いたそうです。
それに比べると、日本のコーチは教え過ぎるといいます。
結果が出ても、間違った教え方では意味がない。
選手が持っていたせっかくの個性が消され、本来持っていたはずの本当の力は出て来ないからだといいます。
それには、コーチは、「教える」のではなく「考えさせる」ことだといいます。
そして、考えさせ、うまく導くことだといいます。
選手とコーチの経験や価値観、感覚などは人によって違うからだそうです。
選手自身が考え、課題を設定し、自分自身で能力を高められることが大切というのです。
個が伸びれば、結果として組織は強くなる
プロ野球は団体競技です。
しかし、選手個々のパフォーマンスが最大限に発揮されることでチームとしての力もアップするので、選手個々がどのようにプレーしていきたいかを考えるのがコーチングの中心的な考えであるといいます。
チームのための自己犠牲は必要ない、と言い切っています。
コーチは選手個人のパフォーマンスを上げることで、技術的なスキルを教えるオーダーメードの指導行動や、心理的、もしくは社会的な面において個人の成長を促す育成行動が必要だとしています。
簡単で小さな課題を設定し、小さな成功を継続的に積み上げることで、次の高い課題をクリアする動機づけとなるというのです。
そうした自己実現の積み重ねで、成長のスパイラルに入れるようにするといいます。
「質問」で気づかせ、自分のプレーを言語化できるようにする
コーチは、「教える」のではなく「考えさせる」ことだと書きました。
具体的に、教えなくても考えさせる方法はどうするのか。
それには、こうだと結論を押し付けるのではなく、質問をして本人に気づかせることだといいます。
コーチングを実践するための土台になるのは、相手の特徴を知った上で、傾向と対策を練る「観察」。
人の成長は、「自分で考え、自分で工夫する能力」あってのものなので、タイプを見極めながら誘導するそうです。
「質問」は、選手自身が自分を客観的に見られるものを投げかけることで、自分のプレーを言語化できるようにするそうです。
さらに、質問内容は、相手になったつもりで考える「代行」がポイント。
コーチが「自分だったらこうする」ではなく、その選手だったらどうするかを考え、選手目線で共感してもらえる言葉で伝えることがポイント。
そのためには、自分も知識を身につける必要があります。
知識を習得しながら、それをもとに選手とコミュニケーションを重ねるのだそうです。
つまり、コーチの仕事は、選手が自分で考え、課題を設定し、自分自身で能力を高められるように導くことだといいます。
ところで、コーチは選手を叱らなくていいのでしょうか。
叱るべきタイミングは、選手が「手を抜いたとき」だけだそうです。
最高のコーチは選手を「長期的視野」に立たせる
著者は、結果を出すために、9つのルールを提示しています。
詳しくは本書をご覧いただくとして、いずれもたんなる成績アップだけでなく、選手としての器をいかに大きくするか、という視点で語っています。
- 最高の能力を発揮できるコンディションをつくる
- 感情をコントロールし、態度に表さない
- 周りが見ていることを自覚させる
- 落ち込んだときは、すぐに切り替えさせる
- 上からの意見をどう現場のメンバーにつたえるべきか考える
- 現場メンバーの的確な情報を上層部に伝える
- 目先の結果だけでなく、大きな目標を設定させる
- メンバーとは適切な距離感をもって接する
- 「仕事ができて、人間としても尊敬される」人を育てる
たとえば、「7」は、単年の結果だけでなく、生涯記録や選手として目指す基本的なことを念頭に置いています。
「9」は、日米を比較して、アメリカでは社会的にもリスペクトされる選手が多いのに、日本では圧倒的に少ないことを指摘しています。
アメリカの選手は、ボランティア活動や慈善事業には積極的に取り組んでいるし、ユニフォームを着ていないときでも紳士のように振る舞う。
日本のプロ野球も、少なくとも一軍の選手はそういうことができる選手になって欲しい、と希求しています。
自分が持っているものにプラスアルファするのは自分自身しかない
余談になりますが、野村克也さんの話が出てきたので、先日もご紹介した興味深いエピソードも加えます。
プロ野球で、「もし、あなたが現代野球でプレーしていたら、どのくらいの成績を残せると思いますか?」という質問について、3人の大選手はこう答えました。
★王貞治★ 試合に出してすらもらえないんじゃないかな。全然レベルが違うからね。でも、もし僕が生まれ変わって、現代の栄養状態、現代のトレーニング方法で勝負するってことなら、今の選手にだって負けるつもりはないよ。
★野村克也★ よく聞かれるけど、いつもこう答えてるんだよね。「レギュラーにもなれません。今の野球はレベルが高すぎます」って。
「謙遜しないで」って言う人もいるけど、むしろ自慢してるんだよ。新しい技術や戦略を導入して、プロ野球のレベルアップに貢献してきたことが俺の誇りだから。
★金田正一★ ワシなら600勝できるよ。今の時代は160キロくらいで騒いでるけど、ワシの現役時代は軽く投げて170キロが当たり前だった。それに最近はちょっと肘が痛いくらいで登板回避する投手も多いね。やっぱり最近の選手は甘やかされて育つから気持ちが貧弱なんだろう。投手も打者も揃って小粒だよ。
金田正一さんの話はともかくとして(笑)、野村克也さんの発言に「先」であることの絶対性が含まれています。
今の選手は、自分たちの野球を前提に自分たちのプラスアルファを加えただけ。
もとを作った自分たちがいてこそ、今があるんだ、ということです。
別の言い方をすれば、プロ野球まできた選手に、今更根っこから新しいものを教える必要はないということ。
今あるものに対して、プラスアルファがあればいい。
それは結局、自分で考えることだ、ということなんでしょうね。
以上、最高のコーチは、教えない。(吉井理人、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は「教える」のではなく「コーチング」する技術を解説、でした。
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