気になる物件(泉麻人著、扶桑社)は、昭和のテレビドラマ『水もれ甲介』の舞台など、街の散歩で見つけた記録を書き留めた書籍です。いわゆる“由緒ある名所・史蹟”の記録などには残っていない、散歩の途中で見かけて気になったものを綴っています。
『気になる物件』は、コラムニストの泉麻人さんが、2000年に扶桑社から上梓したものです。
昭和散歩モノを、何冊も上梓している泉麻人さんですが、なぜ本書を今回ご紹介するのかは、後に述べます。
本書の趣旨は、街にある何気ない物を、著者独特の視点で紹介したコラムです。
いわゆる“由緒ある名所・史蹟”の記録などには残っていない、昨今のタウン情報誌などに大げさにとり上げられることもないものが対象です。
市井の店のちょっとした看板や張り紙、山の上で廻っていた風力発電所のプロペラ、古い洋服屋の壁にあった“学生服姿の桜田淳子”のポスター、といった、散歩や旅の道中、何気なく目についた建物や看板、張り紙…を、一つの“記録”として残しておきたい、という主旨で書かれたものだそうです。
Facebookなどでは、よく、水原弘のハイアースとか、由美かおるのゴキブリホイホイとか、松山容子のボンカレーとか話題にするじゃないですか。
それらは、逆に話題にされすぎて今はメジャーな『気になる物件』ですが、あんな感じで、もっと筆者独自の感覚で印象深いものです。
泉麻人さんの娘さんも、フリーのライターで、名刺交換したことありますが、お父さんが手本にもライバルにもなって、そういう環境だといいですね。
それはともかくとして、なぜ私が、2000年初版の本書をとり上げたかというと、本書には、東京・豊島区南池袋にあった、ドラマ『水もれ甲介』(1974年10月13日~1975年3月30日、ユニオン映画/日本テレビ)の舞台に使われた水道工事の会社がとりあげられていたからです。
当時のテレビドラマというのは、たいていは架空の場所で、舞台は撮影所にこしらえたセットですが、ユニオン映画というフィルムドラマの制作会社が作っていた『水もれ甲介』は、実在する舞台を使って撮影していました。
もちろん、部屋の中のシーンは、ほとんどがセットですけどね。
本来なら、一民家・一事業所であるはずの同所に目をつけた泉麻人さんも、かなりの石立鉄男ドラマファンだったのでしょう。
以前、『人間革命』という映画の舞台に、『パパと呼ばないで』の舞台となったお米屋さんが使われたことはご紹介しました。
『水もれ甲介』は、はじめてですね。
『水もれ甲介』は、野球放送のないときの「つなぎ」だったか
本書によれば、『水もれ甲介』は、ナイターがない時期のつなぎのドラマという位置づけだったようです。
その場所を、ドラマの舞台にする経緯が、泉麻人さんの取材で明らかになっています。
現在と違い、当時はプロ野球ナイター中継が、手堅く視聴率の取れる番組でした。
巨人軍の試合は、主催ゲームの後楽園、さらにビジターも含めると80試合~90試合は、日本テレビで放送されていました。
『水もれ甲介』が放送された日曜日の場合、4月、5月、10月はデーゲームがあり、4月~9月は26週中、5~9回がナイター中継、17~21回がナイター中継と並行してレギュラー番組が放送されました。
ということは、あくまでもナイター中継のほうが少数なのですが、レギュラー番組はナイター中継が雨で中止の場合にも放送されたので、『雨傘番組』などといわれました。
その枠の10月~翌年3月は、ナイター中継はなかったのですが、どんなに好評でも、4月になったら『雨傘番組』になってしまう枠だったので、ナイター中継の枠というイメージが強かったのかもしれません。
ただ、この枠は、青春学園ドラマシリーズがヒットした枠でもあり、ナイター中継でなくても、注目される枠でした。
この中で、松木ひろし脚本、石立鉄男主演のドラマが、水曜8時と日曜8時の枠で合計7シリーズ放送されました。
そのひとつが、『水もれ甲介』でした。
『おひかえあそばせ』『気になる嫁さん』『パパと呼ばないで』『雑居時代』と続けざまに放送された後、半年間のお休みを経て始まったのが『水もれ甲介』だったので、当時からシリーズのファンだった私は、楽しみにしておりました。
1960~70年代のテレビ界は、週に1度半年~1年、定期放送する連続ドラマが多数制作されましたが、それらは、青春ドラマ、ホームドラマ、人情ドラマ、コメディードラマなどの多岐のジャンルにわたりました。
が、そのどのジャンルにも属さない、もしくは、それらをすべて含めた、ほろ苦いホームコメディという新しいモチーフで登場したのが、松木ひろし脚本の上記シリーズです。
実際に存在する場所を舞台として、16ミリフィルムで仕上げる作り方は、昨今流行する、ドラマのロケ地を“聖地巡礼”する作品としての先駆的な役割を果たしました。
『水もれ甲介』のあらすじ
『水もれ甲介』は、東京・豊島区南池袋の鬼子母神近くにある「三ツ森工業所」という水道工事業者が舞台です。
長男の甲介(石立鉄男)は家業を手伝っていましたが、昔気質の職人の父親・保太郎(森繁久彌)になじられて、仕事が嫌になり家出。
ベース奏者(犬塚弘)に拾われて、ドラマーとしての腕を磨いていました。
しかし、輝夫(原田大二郎)は、造船技師になる夢を諦めて甲介の代わりに家業を継いだため、勝手に家出した甲介(石立鉄男)を怨んでいます。
甲介(石立鉄男)の家出以来、保太郎(森繁久彌)は酒を飲むようになり体を壊し、危篤状態に。
甲介(石立鉄男)が駆けつけると、保太郎(森繁久彌)は、甲介(石立鉄男)と輝夫(原田大二郎)は自分の息子ではなく、命の恩人である倉田兵長の息子を引き取ったことを打ち明け、「頼んだぜ、甲介」と言い残して死去。
保太郎(森繁久彌)から出生の秘密を聞かされた甲介(石立鉄男)は、ドラムを捨てて家に帰り、輝夫(原田大二郎)との確執を克服しながら、育ててくれた保太郎の妻の滝代(赤木春恵)や、保太郎と滝代の娘である朝美(村地弘美)とも、親子や兄妹としての関係を大切にしていくというヒューマンコメディです。
三ツ森甲介のモデルはハナ肇か?
『水もれ甲介』の設定を最初に知ったとき、クレージーキャッツのハナ肇さんがモデルかと思ってしまいました。
だって、第1回から、犬塚弘さんや安田伸さんが出てくるし。
ハナ肇さんも水道工事の会社の息子で、工学院に入っているのですが、ドラムが面白くて家業は継がなかったんですね。
それと、森繁久彌さん、赤木春恵さん、伴淳三郎さん、松山英太郎さんという出演者の顔ぶれは、私の大好きな『喜劇駅前シリーズ』なので、笑ってしまいました。
少ない予算で作っているので、これ以上の当時のレギュラーは無理だろうと思っていたら、後番組の『おふくろさん』で、京塚昌子さんとフランキー堺さんが出演しているので、「マジかよ」と笑ってしまいました。
制作スタッフの遊び心というか、ああいうテイストのドラマを作りたかったのか、と思いました。
それはともかくとして、23年経っても、泉麻人さんのコラムは面白いですよ。
読まれることをおすすめします。
『水もれ甲介』は2023年1月1日現在、Amazonprimeで無料配信中です。
以上、気になる物件(泉麻人著、扶桑社)は、昭和のテレビドラマ『水もれ甲介』の舞台など、街の散歩で見つけた記録を書き留めた、でした。
気になる物件 – 泉 麻人
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