漫画版野武士のグルメ カラー版1st01(久住昌之/原作、土山しげる/画、幻冬舎)は、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡るグルメコミックです。ネオクラシック系ラーメン店には目もくれず、昭和の佇まいを感じる町中華でタンメンをすすります。
『漫画版野武士のグルメカラー版1st01』は、久住昌之さん原作、土山しげるさん作画で、幻冬舎から発行。
この記事ではKindle版をもとにご紹介します。
『~のグルメ』といえば、もうおなじみなのが『孤独のグルメ』でしょう。
やはり久住昌之さんが原作で、谷口ジローさんが作画でしたが、谷口ジローさんが急逝したために、全18話で終了。
ところが、テレビ東京でドラマ化したところ、これがあたりました。
個人で輸入雑貨商を営む井之頭五郎(いのがしらごろう)さんが、商談で訪問先を伺うたびにお腹が空き、大衆的な飲食店に立ち寄り食事を摂る様子を描いたグルメ漫画です。
まあ商談は前フリで、食事を摂る様子がほぼメインなのですが、注文したものに対して脳内で大仰な独り言を言いながら、結局はおいしくいただく話です。
食事を楽しむ心理描写だけで、劇的な展開はないのですが、要するに「おっさんが飯を食っているだけ」の「ドラマ」なのですが、悪い人も出て来ないし、井之頭さんも楽しそうで、安心してみていられるのです。
その壮年版が、本作『漫画版 野武士のグルメ』です。
井之頭五郎さんも、実年齢では還暦を迎え、ドラマの設定でもその年令に近いはずですが、ただし設定ではフリーの輸入雑貨商。
要するに、まだ働いている現役です。
一方、主人公が定年で無職なのが本作です。
なぜ『漫画版』とついているかというと、久住昌之さんのエッセイをもとに漫画化したからです。
こちらも作画担当の土山しげるさん急逝もあり、全9話だそうですが、本書はそのなかの『九月の焼きそビール』『タンメンの日』『朝のアジ』の3話を収録しています。
今記事では、そのなかの『タンメンの日』をご紹介しましょう。
ところで、どうして「野武士」なのかというと、「元サラリーマン」で無職だから「浪人」だが、それでは「イメージが悪い」から、主人公が「野武士」と自称しているのです。
作画担当の土山しげるさんについては、『食キング』(日本文芸社)をご紹介したことがあります。
「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリーでしたが、いずれにしても「食べること」を描かせたらピカ一の漫画家だっただけに惜しまれます。
本書『漫画版野武士のグルメカラー版1st01』は2022年11月3日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
タンメンの日
タンメン。町中華の定番ですね。
現在、ラーメン店のジャンルと言えば、『横浜家系ラーメン』諸店や、『ラーメン二郎』のようなチェーン店およびそのインスパイア店など「ブランド店」。
ラーメンにこだわりのあるオーナーによる、従来のラーメンに出汁や麺や丼にまで独自性を追及した一騎当千の「ネオクラシック店」。
そして、昔ながらの「町中華」などの潮流があります。
本作『漫画版野武士のグルメ』がターゲットとしているのは、もちろん一番最後の町中華です。
主人公は、60歳で定年退職した香住武。
十分働いて満足したのか、“第二の人生”は、もっぱらブラブラの日々です。
散歩したり、碁の仲間のところに遊びにいったりと、気楽な日常の中で、庶民的な食事処にふらりと入ります。
前出の『孤独のグルメ』は、WikiPediaによると、「井之頭五郎は入る店に悩む、注文に迷い頼み過ぎるなどで、違和感を覚えながら店を出る事もある。」とされています。
一方、実在のお店がそのまま使われる半ドキュメンタリーのTV版は、いつも満足して終わります。
たとえば、『孤独のグルメSeason2』の第1話(2012年10月10日放送)。
井之頭五郎さん(松重豊)は、最初は入ろうと思った店の雰囲気に圧倒されて結局入れなかったのです。
が、訪問先のクライアント(佐藤藍子)に啓蒙されて、根性で店の戸を開けます。
そして、4品頼んで、たった1950円に満足、という展開でした。
『漫画版野武士のグルメ』も、テレビドラマ版『孤独のグルメ』のように、満足して終わります。
ということで、ストーリーを簡単にご紹介します。
今は少なくなりましたが、香住武が書店で本を選んでいるシーンから始まります。
定年すぎて「野武士」なので、真っ昼間から書店で本を選べるわけです。
「今日もすっかり長居をしてしまった……。そういえば、お昼も食べてない」
朝からあまり食欲もないが、栄養があって身体があたたまるもの、水分のあるもの……
香住武はタンメンを思い浮かべ、店を探します。
しかし、目につくのはネオクラシック系。
ネオクラシック系というのは、古き良き昔ながらの中華そばのスープや具材などに、一ひねりのインパクトを加えて現代風に再構築したラーメンのことですが、その「再構築」を香住武は、「自己主張まみれのラーメン屋」と歓迎していません。
「店のロゴが入った、お揃いの黒Tシャツを着て、バンダナを巻いて、声だけやたらでかい店……。特製鯛出汁塩ラーメンとか、無添加とか内モンゴルの塩とか、なんちゃら醤油だの、やたら講釈の多い店。そんな店には絶対ないタンメン!」
要するに、町中華の普通のタンメンを探しているわけです。
香住武が見つけたのは、赤いのれんの木造ラーメン店。
店内は、カウンターの赤いテーブルに、固定された赤い丸椅子。
テーブルの下には、脂のしみた雑誌。
思いっきり昭和の佇まいです。
タンメンを注文すると、店主は中華鍋でジュッジュと炒めます。
箸はエコ箸ではなく、使い捨ての割り箸。
着丼したのは、予想以上に野菜たっぷりのタンメン。
そこからは、『孤独のグルメ』同様、独白しながらタンメンを堪能します。
ここは、ぜひ本書をご覧ください。
なるほど、タンメンというのはこうして堪能するのか、ということがわかります。
そういえば、『孤独のグルメ』でも、タンメンの巻がありましたね。
香住武は、もう一口、もう一口と、最後はレンゲもとって直接スープを啜り完食、もとい完飲します。
いやー、読んでいると、タンメンを食べたくなってしまいます。
タンメンと塩ラーメンの違いを考慮しつつ「塩タンメン」を作る
ところで、タンメンと塩ラーメンの違いってご存知ですか。
どちらも、塩だれでスープを作ることは共通しています。
麺を塩ダレスープに入れてから、野菜をトッピングをするのが塩ラーメンです。
かんたんに述べると、塩味のスープで作ったラーメンを塩ラーメンといいます。
一方、タンメンとは、麺に野菜炒めスープをかけたものです。
つまり、厳密に言うと、タンメンはラーメンではないともいえます。
野菜炒めスープ麺、といってもいいと思います。
その違いがわかっていれば、材料は同じ「塩ラーメン」でも、作り方によって、塩ラーメンにもタンメンにもできます。
こちらのチャンネル動画、『まかないチャレンジ! 河原のあべ』さんでは、サッポロ一番塩ラーメンを使って、塩ラーメンではなく塩「タンメン」を作ってますね。
サッポロ一番【塩タンメン】の作り方! https://t.co/RNmFCrRAJ3 @YouTubeより 「塩ラーメン」ではなく「塩タンメン」というところが見どころ
— 赤べコム (@akabecom) October 30, 2022
私も、見習って実践してみました。
うーむ、なかなかですね。
できれば、スープはもっとヒタヒタの方が良いのです。
なぜなら、そこがタンメンの肝だからです。
野菜炒め汁スープ麺ですから、スープは塩ラーメンより多めでいいのです。
汗をかきながら、そして口を火傷しながら、ハフハフと食べるタンメン、いいですね。
なお、類書としては、『クレヨンしんちゃん』の父ちゃん・野原ひろしの昼食を漫画化した『野原ひろし昼メシの流儀』(臼井儀人/塚原洋一、双葉社)というグルメコミックもあります。
こちらもご覧いただけると幸甚です。
以上、漫画版野武士のグルメ カラー版1st01(久住昌之/原作、土山しげる/画、幻冬舎)は、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡る、でした。
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