澤田美喜などにフォーカスした『夢と希望を与える 日本の偉人ものがたり22話』(PHP研究所編集、Kindle版)をご紹介します。日本の発展のために活動したり、芸術作品を通して人々に感動を与えたりした人物のエピソードを紹介する伝記集です。(文中敬称略)
『夢と希望を与える 日本の偉人ものがたり22話』(PHP研究所)は、歴史に名を残す日本の偉人たち22人の功績や人柄を、4ページずつの短い文章で紹介しています。
各エピソードにはイラストが多く使われており、漢字にはすべてふりがなが付けられているため、子どもでも読みやすい構成になっています。
野口英世、津田梅子、沢村栄治、人見絹枝、福沢諭吉、伊能忠敬、植村直己、黒澤明、本田宗一郎、坂本竜馬、湯川秀樹、平賀源内、市川房枝、岡本太郎、与謝野晶子、杉原千畝、佐藤栄作、沢田美喜、宮沢賢治、良寛、荻原タケ、手塚治虫などが紹介されています。
これまで、黒澤明と岡本太郎についてご紹介しました。
今回は、「孤児を救う家を建てた人」である澤田美喜(さわだ みき、1901年〈明治34年〉9月19日 – 1980年〈昭和55年〉5月12日)をご紹介します。
澤田美喜は日本の著名なクリスチャン活動家で、特に戦後に設立した「エリザベス・サンダース・ホーム」での活動で知られています。
澤田美喜は、戦後に生まれた孤児や「混血児」(今はハーフとかミックスルーツと呼ぶ)」(GIベビー)の支援に尽力。ハーフの孤児たちを支援するため、1951年にエリザベス・サンダース・ホームを神奈川県大磯に設立し、多くの子どもたちの養育や教育を行いました。
捨てられた子を引っ張りだこになるような人間に変える
【アカイさんコラム】
~楽器特集~「ここに鐘は鳴る 澤田美喜」(1958年)
話題の人がスタジオでゆかりの人々に再会する番組。澤田美喜は社会事業家。戦後の1948年、孤児院エリザベス・サンダースホームを創設、2000人近くの“混血孤児”とよばれた子どもたちを育てました。https://t.co/BA8MQbcaoe— NHKアーカイブス (@nhk_archives) November 6, 2024
澤田美喜は1901年、神奈川県に生まれました。
母方の家系には、旧薩摩藩の流れを汲む影響力のある家庭環境で育ちました。
旧姓は岩崎。外交官の澤田廉三と結婚したので澤田美喜となりました。
先日ご紹介した、三菱財閥総帥である岩崎弥太郎の孫娘です。
岩崎家は真言宗でしたが、彼女は幼少期からキリスト教の影響を受け、宗教的な信仰心と「隣人愛」の価値観を養いました。
特に、キリスト教に基づく博愛精神が彼女の人生の行動原則となり、後の福祉活動の礎となりました。
夫・廉三の英国・ロンドンへの転任に伴い同行し、孤児院ドクター・バーナードス・ホーム訪問。
院長の、「捨てられた子を引っ張りだこになるような人間に変えるのは、素晴らしい魔法だ」という言葉に感銘を受けます。
第二次世界大戦後、日本には多くの戦災孤児や混血孤児(GIベビー)が生まれました。
特にGIベビーと呼ばれる子どもたちは、アメリカ兵と日本人女性の間に生まれたため、当時鬼畜米英の思いが強い日本社会では偏見や差別を受けることが多く、支援が必要でした。
澤田美喜は、列車内で死亡した混血児の母親と間違われ、いよいよ混血児救済を決心します。
それが、 1948年に設立した「混血児」のための養護施設、エリザベス・サンダース・ホームです。
この施設は、子どもたちが差別を受けずに成長できる環境を提供することを目的とし、彼女のキリスト教の信仰と人道的な思いが反映されています。
施設名は、資金難の施設に寄付をしたイギリス人女性であるエリザベス・サンダースさんの名前に由来しています。
もっとも、進駐軍と日本政府から迫害をうけ、経営は窮乏を極めたそうです。
ホームでは、食事や衣類、教育の機会が提供され、また、彼らが健やかに成長するために必要な愛情と支援を惜しみませんでした。澤田自身も日常的に施設に足を運び、子どもたちと直接交流を深めていました。
澤田の活動は、単なる物理的な支援にとどまらず、偏見や差別をなくし、誰もが平等に生きる権利を守ることを訴え続けました。
また、教育を通じて子どもたちに将来の希望と自信を持たせることも重要視し、彼らが自立できるような環境作りに尽力しました。澤田は日本国内だけでなく、国際社会にもその理念を広げ、世界各国からも支援や理解を得ることに成功しました。
澤田美喜は、1980年に亡くなりましたが、彼女が遺したエリザベス・サンダース・ホームや福祉活動の精神は今も生き続けています。
不平等の矛盾が社会を変える契機になる!?
大磯の澤田美喜記念館で魔鏡見てきたわー pic.twitter.com/fZZKFW8XnD
— ちぷたそ(井口エリ) (@chip_potekko) September 16, 2023
物語としてなら、自分も孤児だったから孤児のために尽くしたとか、『タイガーマスク』のような展開だとドラマチックだったかもしれません。
しかし、澤田美喜は一般の人が足元にも及ばない良家のお嬢様で、外交官夫人として「人間の平等」に目覚めました。
つまらないですか。
でも、これはリアルな現実を示していると思います。
もし、澤田美喜がめぐまれない孤児の側の「ほしのもと」だったら、自分のことで精一杯で、「慈悲」という心の余裕はなかったかもしれません。
「衣食足りて礼節を知る」といいますが、恵まれている人間ほど、本来なら社会の格差や矛盾に気づき、それを改善することができるはず。
だから、人間の社会は因果なものだなと思います。
不平等だからこそ、その格差の矛盾が社会を進歩させる契機になっている。
みんなが貧しかったら、「格差」もないので、どう発展させていくかという目標も立てにくいですね。
現代社会が沈没途上にあるのは、アッパークラスの側が、欲たかりで格差ばかり広がって、澤田美喜のような人がいないからかもしれませんね。
エリザベス・サンダース・ホーム、ご存知でしたか。
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