『特命係長只野仁』(柳沢きみお著、ゴマブックス)は、大手広告代理店係長が、会長からの特命でトラブルを秘密裏に解決するマンガです。テレビドラマや映画化もされてまますが、原作である漫画は1998年から現在の令和編まで連載が続いています。
『特命係長只野仁』とはなんだ
『特命係長只野仁』は、時代劇の必殺シリーズなどにある、表向き昼行灯を装った、裏の顔は悪を秘密裏に始末する、地味ながらヒーローの話です。
といっても、現代ですから、時代劇のように相手をバッタバッタと斬る訳にはいきません。
せいぜい、コブシの制裁ぐらいですが、そもそも大事なことは、悪いヤツだから倒すことではありません。
事件の依頼主は、日本随一の大手広告代理店会長。
政・財・マスコミ、いずれともつながりの深い大企業の会長ともなると、自分の会社の名誉に関わる社員の素行不良だけでなく、クライアントの表に出せないトラブルについての相談などが常にあります。
主人公は、会長からの「特命」で、それらのトラブルを裏で解決するのです。
表に出せないトラブルの始末ですから、そもそも「特命」で動いている事自体を知られてはなりません。
主人公は、表向きはそこの総務二課という責任の軽いセクションに在籍。
勤続年数から、自動的に「係長」の役職がついただけの取り柄もない社員です。
しかも、トイレに行くといっては仕事場を抜け出して会長のもとへ。
厄介な「特命」のときは長いときで数ヶ月、職場を空けますが、決して解雇はされないので、周囲は不思議がっています。
柳沢きみおによる『特命係長 只野仁』の連載が、『週刊現代』で始まったのは1998年。
連載当初は大学新卒だった主人公・只野仁も、もう45歳~50歳ぐらいになります。
2つの顔を持つ男だが、ひとつは社内でも秘密
発表されたのは後ですが、時系列ですと、「ルーキー編」からとなります。
大学卒業も間近なのに、就職するアテもなかった只野仁。
ある時、社員の不祥事で恐喝されていた電王堂の黒川重蔵社長(後に会長)を偶然助けたことで、電王堂に就職することになります。
電王堂という名は、電通プラス博報堂のもじりです。
ですから、設定は就職最難関の広告代理店。
マスコミはもちろん、政財界とも深く関わりを持つ、今や日本政治経済を動かす基幹産業といってもいいでしょう。
黒川重蔵社長が、体育大学でケンカの強い只野仁を採用したのは、大企業ならではの、表沙汰にできない事件を、時には体を張って解決するための事件特命社員としてです。
それを受け入れた只野仁。
表向きは総務二課。
裏では社長付特命社員として、2つの顔を持つ日々が始まリました。
空手の腕前と、女性を虜にするセックスで、ヤクザや麻薬などが絡むトラブルも次々に解決に導いていきます。
といっても、特命社員とは、あくまでも黒川重蔵社長と只野仁だけの秘密。
社内では、決して自分の役目を明かしてはなりません。
昼行灯を装うために、口数は少なく、鋭い眼光を隠すためにダサイメガネをかけて、やや猫背で歩きます。
そして、特命の仕事が発生して、社長(後に会長)から呼び出されると、正直に用件は言わずに社長室に向かいます。
一番目立たず、早退や中抜け、欠勤しても影響のない総務二課に配属されているので、会社としてもさして支障はないのでしょう。。
昼の顔はダメ社員、
夜の顔はできる特命社員と、
2つの顔を持つ男というわけです。
時期ごとにシリーズ化されている『特命係長只野仁』
すでに連載されてからが長いので、単行本もかなり増えました。
2022年2月21日現在、無料で読めるシリースをご紹介します。
特命係長只野仁ルーキー編
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— 石川良直 (@I_yoshinao) February 19, 2022
先程書いたように、連載が開始されたのは1998年。
すでにバブルは崩壊し、「失われた30年」が始まっているときでした。
しかし、只野仁が特命社員を始めた頃は、まだバブル時代か、少なくともその余韻が残っている、つまり1980年代後半~1990年代前半あたりが描かれています。
上掲のOGPでは、その頃の活躍をまとめた「ルーキー編」が読めます。
事件解決のために、かぎを握る女性との御伽シーンはお約束です。
何しろ原作では、特命の研修として、ついた女性の師匠に、実地で女性のイカせ方を教わるシーンも何度も出てきます。
只野仁は、高級マンション住まいですが、誰が見ているかわからないので、隣接するボロアパートをダミー住居に使い、そこから窓を経由してマンションに出入りしています。
もちろん、家賃は電王堂支払いです。
当初は高給だったようですが、特命の方は必要経費のみもらえればいいと本人から申し出ています。
つまり、お金目的ではなく、やり甲斐があるよう。
この仕事は自分の性に合っている、と度々言っています。
早退や欠勤の多い総務二課では、女性の丸山課長が寛容で助けられています。
丸山課長は、只野仁と同じ年ぐらいの息子さんを小さい時に亡くしているので、只野仁には大甘です。
その一方で、佐川和雄係長に対しては定規で叩くなど手厳しい。
後から『只野仁』を読み始めた人は、ぜひ『そもそも』から知るという意味で、目を通されてはいかがでしょうか。
特命係長只野仁デラックス版
柳沢きみお 『特命係長 只野仁 デラックス版』 #マンガ図書館Z https://t.co/GQFHviWJ5Z
— 石川良直 (@I_yoshinao) February 19, 2022
『特命係長只野仁デラックス版』は、マンガ図書館Zで全巻無料で読めます。
マンガ図書館Zは、閲覧にあたって広告が表示され、その収益から作者に印税が支払われます。
マンガ図書館Zの9月分広告収入きました。15000閲覧で199円なり。う?ん高収入。流石業界トップレベル。
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さて、只野仁も在職年数が増え、“表の顔”の総務社員としてはなんの実績も残していないのに、係長という役職がついています。
ヒラの警官が、巡査長になったようなものでしょう。
黒川重蔵社長は会長になり、佐川和雄係長も課長になりました。
しかし、相変わらず特命社員としての仕事は続いています。
只野仁の周囲は、女性関係がにぎやかになりました。
以前は、御伽シーンと言うと、その時時の「特命」の当事者女性が相手でしたが、今シリーズではステディな関係として、テレビ局勤務の新水真由子アナと、秘書室の坪内紀子会長秘書が登場します。
ただし、坪内紀子は、自分が夢中になっている相手と、総務二課から「会長へのお届け物」とやらを持ってくる冴えない社員が同一人物とはわかっていません。
チンピラに因縁をつけられたところを、特命社員として動いていた只野仁に助けられたことで一方的に熱を上げているのです。
何より、彼女は実は黒川重蔵会長の孫娘であるため、黒川重蔵会長の手前、口外出来るはずもないのです。
さらに、総務二課の後輩社員である山吹一恵は、肉体関係こそないものの、密かに只野仁のことを思っています。
只野仁も、彼女たちに対してはまんざらではないのですが、自分が特命社員という「裏稼業」である限りは、結婚はできないと考えています。
特命係長只野仁ファイナル
本作は、様々な媒体で連載が断続的に続いています。
- 『特命係長 只野仁』『新・特命係長 只野仁』
- 『特命係長 只野仁 ファイナル』
- 『特命係長 只野仁 ルーキー編』
- 『特命課長 只野仁 大人味』
- 『特命係長 只野仁 令和編』
『週刊現代』(1998年~2007年)
『日刊ゲンダイ』(2007年~2020年)
『週刊現代』(2009年1月~2009年6月)
『まんが王国』
『月刊ヤングマガジン』(2010年2月号~2021年5月号)
『ヤンマガweb』(2021年6月~)
『週刊ヤングマガジン』(2010年27号~29号)
『月刊柳沢きみおマガジン』(2020年1月~)
『LINEマンガ』(2020年12月~)
『特命係長 只野仁 ファイナル』になって、只野仁は情報収集やターゲット尾行などを行う助手として、社内のメールボーイをつとめる森脇幸一が登場します。
高橋克典主演の、ドラマ版『特命係長 只野仁』(2003年7月4日~9月19日、テレビ朝日)で設定されキャラクターでしたが、その後、原作である本作でも採用されためずらしいパターンです。
まあ、只野仁もいつまでも若いわけではないので、助手の力を借りる方が自然かもしれません。
佐川和雄係長は、家族と別居。
安アパートに1人暮らししますが、そこにあることがきっかけで知り合った和美(なごみ)さんという人妻が転がり込み、やがて彼女は離婚して佐川和雄係長と同棲。
2人は、濃厚なセックスシーンをしばしば見せてくれます。
また、佐川和雄係長と同期で、親友の入江豊部長が登場。
只野仁の特命とは全く絡むことない場面で、2人は「人生」や「日本の在り方」について語るシーンが登場します。
今も連載は続く
『日刊ゲンダイ』あたりになると、当初とは登場人物もストーリー展開も変化を見てているわけですが、これも時の移ろいということでしょう。
作者の柳沢きみおさんの作品は、『特命係長 只野仁』もご紹介しています。
『特命係長只野仁ファイナル』は、AmazonUnlimitedの読み放題リストに入っています。
以上、『特命係長只野仁』(柳沢きみお著、ゴマブックス)は、大手広告代理店係長が、会長からの特命でトラブルを秘密裏に解決する、でした。
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