『猶予の日々』は、マブチモーター社長宅殺人放火事件実行犯の死刑囚・小田島鐵男が、約2年に渡って綴り書籍化されたブログ『死刑台への実況中継』を原案とした漫画です。『殺人犯の断末魔』という書籍に、本人の協力の下に漫画化されています。
マブチモーター事件とはなんだ
マブチモーター社長宅殺人放火事件など3件の実行犯の死刑囚・小田島鐵男が、東京拘置所収監中、身元引受人であるノンフィクション作家・斉藤充功氏と交わした私信をブログ『死刑台への実況中継』として書籍化。
『猶予の日々』は、それをさらに漫画化したものです。
当時、「死刑を真っ向からとらえた究極のノンフィクション」などといわれました。
もっとも、本人は執行前に獄死(病死)しましたが。
2002年に千葉県松戸市常盤平で起こった、マブチモーター社長宅殺人放火事件。
マブチモーター社長(当時)馬渕隆一宅で、夫人と長女が絞殺されました。
現金200万円と高級腕時計や指輪など966万円相当を奪われた上、殺害直後には2部屋が混合ガソリンによって放火され、木造2階建て住宅延べ約170平方メートルを半焼されました。
千葉県警は司法解剖と現場検証の結果、この事件を放火殺人事件と断定したといいます。
事件そのものが凄惨であるだけでなく、マブチモーターは小型モーターの分野で全世界シェアの5割を誇る有名企業であったため、社会の注目を集めました。
その実行犯、小田島鐵男に焦点を当てたのが本書です。
本書のあらすじ
小田島鐵男は、出生前に父が死亡したため、祖父母の子として入籍。
生まれがそもそも、普通ではない境遇だったわけです。
母親は都度都度愛人が変わり、4歳のときには小田島鐵男を無理心中に巻き込みます。
が、このとき小田島鐵男は、なんとか一命をとりとめます。
そういう母親ですから、親戚を転々とした極貧生活で、畑の人参を無断で抜き取っては飢えをしのぐこともあったといいます。
母は11歳の時に、再び無理心中を行い、弟や妹とともに死亡。
小田島鐵男は、母親に憎悪と愛情の入り混じった複雑な感情を抱かざるを得ませんでした。
貧しさのあまり、中学生時代に買い物に行った店の引出しから現金を盗み補導されたのが、転落人生の始まりです。
中卒後、16歳のときには空腹に耐えられず、食堂で食べ物を盗み中等少年院へ。
出院後も窃盗の常習となり、職を転々としながら各地で罪を犯して何度も服役します。
そんな小田島鐵男自身、再起のチャンスと振り返っているのが、39歳(1982年)のときに知り合った飲み屋の女性だそうです。
空き巣狙いで金銭的に余裕があった小田島鐵男は、彼女の借金の肩代わりをして結婚しました。
カネの出所はともかくとして、人並みの幸せを獲得できるきっかけを得た小田島鐵男は、真面目に生きる決意をして、自動車教習所の教官になります。
ところが、悪い癖が出てしまい、盗品故買で刑務所に戻ってしまいました。
2度目の結婚のときは、服役中に妻に逃げられました。
自暴自棄になった小田島鐵男は、いよいよ開き直り、刑務所でも自分の犯行を自慢するようになりました。
もっとも、半分は話を盛っていましたが、それを額面通り信じ込んだ前科6犯の守田克実が、先に出所して小田島鐵男の出所を待ち、犯罪計画を打ち明けて誘います。
自動車教習所の教官時代にとった2種免許で、タクシー運転手になるつもりだった小田島鐵男は、引っ込みがつかなくなり、またしても犯罪に手を染めます。
逃走中、最後の婚姻だったフィリピンハプで知り合った女性との間に子どももできますが、それでも真人間になることはできませんでした。
結局、守田克実を共犯にマブチモーター事件を引き起こし、その後も殺人や強盗を重ねて逮捕。
自己批判して控訴を取り下げ死刑が確定します。
ブログの更新が止まるなど死刑執行を恐れてはいたようですが、収監先の東京拘置所で食道がんのため74歳で病死しました。
収録されている『殺人犯の断末魔』は、無料チケットで話題書が読めるピッコマなどで閲覧可能です。
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— 岩田和久 (@kazkazkaz2017) September 20, 2018
またしてもキーワードは毒親
犯罪を繰り返して、モンスターなどといわれた小田島鐵男をどう見るか。
犯罪者を1人の人間として批評すると、まるで犯罪を擁護しているかのように言う人もいます。
つまり、犯罪者は問答無用に断罪していればいい、というわけです。
それは、人間が間違いうることを正面から見つめることのできない、弱い、でも自己愛だけは肥大化した人間のメンタリティです。
そりゃ、悪いことをした人間の行為を許す必要はありません。
ただし、どんな人間でも、人格はあり、それがなぜ犯罪に走ったのかを考えることは、人間とはなんなのかを考えることであり、社会が、自分が同じ間違いを繰り返さないための教訓にもなります。
ということで、小田島鐵男ですが、やはり客観的な原点は、人格的問題以前に境遇にあったように思います。
またしてもキーワードは毒親です。
母親に、憎悪と愛情の入り混じった複雑な感情を抱かざるを得なかった幼少から青年期。
経済的には、貧しすぎて犯罪を犯すうちに、それが習い性となっています。
そのような「ほしのもと」に生きていると、多少は更生する気持ちや機会があっても、人生の流れがそれを許さないのかもしれません。
前科6犯の守田克実と罪を重ねたのは、唯一の友だったから縁を切れなかったといいます。
不遇な星の下は、同じような人間と結びついてしまうのでしょう。
これもまたあらかじめお断りしておくと、不幸な境遇でも真面目に暮らす人はいます。
もとより、どのような事情があろうが、犯罪は許されるものではありません。
ただし、それとは別の視点で、親を怨まなければならないような「ほしのもと」で人生をスタートさせると、なかなか幸せになるのが困難だという話です。
たとえば、結婚を機に真人間に戻れなかったのも、不幸な生い立ちで家庭のありがたみを知らなかったからではないでしょうか。
死刑を恐れていた割には、食道がんが判明すると積極的な治療も行わずに亡くなるなど、人生に執着もなかったようです。
それとも、がん治療をおそれていたのでしょうか。
現代社会は豊かなようでいて、餓死者のニュースもたまにあります。
社会としてできることは、極貧根絶のためのセーフティネットを作ること。
そして、毒親について、「親不孝」などといわずに問えるような風通しの良い社会であるべきです。
以上、『猶予の日々』はマブチモーター社長宅殺人放火事件の死刑囚・小田島鐵男が約2年に渡って綴り書籍化されたブログの漫画化、でした。
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