『現代貨幣理論の基礎:居酒屋で自慢できるお金の話』(uematu tubasa、反逆する武士出版)は、日本独自の現代貨幣理論(MMT)を構築したとするKindle書籍です。自国通貨政府に財政破綻なし、国債発行上限はインフレ率、財政赤字は民間黒字などを解説しています。
MMTについては、これまでにも何度か関連書物をご紹介しました。
MMTについては、アメリカ民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員が支持したのを皮切りに、日本でも賛成・反対双方の論者がメディアなどで持論を展開しています。
本書『現代貨幣理論の基礎:居酒屋で自慢できるお金の話』では、
- 自国通貨を持つ政府には財政的な予算制約は存在しない
- 政府の国債発行の上限はインフレ率である
- 財政赤字は民間経済の黒字である
という、MMTが誤解、というより藁人形論法的に曲解されている3点について解説されています。
自国通貨を持つ政府には財政的な予算制約は存在しない
自国建て通貨で破綻はありえない、という話です。
日銀自体、自国建て通貨だから財政破綻しないことを認めています。
日本政府は、実質的に通貨発行権を持っています。
ですから、必要なら「日本円を自由に生み出すことができる」のです。
たとえば、多額の「赤字」があって、それを精算しなければならないとして、政府はその分だけ貨幣を発行したら、「赤字」は消えてしまいます。
ですから、日本政府が財政破綻することは、原理的にありえないでしょう。
もし、これが崩れるなら、「通貨発行権が行使できない」か「自国通貨建てじゃなくなる」か、いずれかしかありません。
「いや、金を刷りすぎるとハイパーインフレを起こし、円は信用を失って暴落する」
という人もいますね。
思い出してください。
東日本大震災では、少なくとも日本の東半分が大きな被害を受け物流は止まり、さらに原発の爆発で電力供給能力も著しく低下し、日本の生産性そのものがガタ落ちしました。
近隣国からは、食材の輸入停止なども喰らいました。
そして、その年は44.3兆円の新規国債を発行しました。
では、その結果、我が国で「ハイパー」とまではいいません。インフレは発生しましたか?
円は大暴落したでしょうか?
実際には、2011年度インフレ率コアCPIは前年比-0.%のデフレ。
3.11から5日後には、投機家の円買いが進み 1$=76円25銭という戦後最高値を更新。
同年10月31日には、現在まで破られていない円の史上最高値75円32銭を記録しました。
2011年10月31日、東京外国為替市場で円は対ドル相場で史上最高値となる1ドル=75円32銭をつけた。甚大な被害があった同年3月の東日本大震災をうけ、多額の保険金の支払いが予想される保険会社や復旧のための資金が必要な大企業が外貨建ての資産を売却して円資産を確保するのではという思惑が投資家に広がり、円買い・ドル売りを誘った。(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO51572160Q9A031C1EAC000/ より)円には信用があるから、むしろ日本がピンチのときこそ「買い時」という判断につながったのではないでしょうか。
政府の国債発行の上限はインフレ率である
MMTについての間違った「批判」の最たるものは、「MMTはいくらでもお金を刷れる」とするデマです。
MMTは、税収や政府債務ではなくインフレ率で財政を調整すべきとする説です。
いくらでも刷れるなんて主張はしていませんよ。
岸田文雄総理は、2022年1月26日午後の衆院予算委員会で、緒方林太郎委員(有志)への答弁としてこう述べました。
安倍晋三政権と同様に、日銀が2%の物価目標をもとに金融政策を行う方針を政権で確認していると。
日本銀行は2013年1月に、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」という日本銀行法の理念から、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています。
つまり、インフレ率2%まではお金を刷れる(創造できる)ということです。
これは、MMTだからということではなく、政府と日銀との政策協定なのです。
そのために、積極財政をしましょう、ということです。
財政赤字は民間経済の黒字である
これも、以前ご紹介しましたが、財務省の公式サイトや、その意を受けたマスコミ媒体では、「日本政府の借金」は、令和3年度末には990兆円に上ると見込まれることを喧伝しています。
そして、それをわざわざ日本の人口で割り、1人あたりいくらいくらと数字を出し、さも「日本国民の借金」のように話をすり替え、孫子の代までつけを残すのか、などと脅しています。
しかし、別に日本国民は、誰からもそんな借金はしていません。
政府が「赤字」国債を発行すると、それは誰にいくのか。
国民に行きます。
企業や個人に渡ります。
つまり、政府の借金なるものは、国民にとっては資産になっているということです。
雇用問題も財政から
本書は、雇用問題についても1章使って解説しています。
MMTをめぐる巷間の議論は、ともすれば積極財政そのものの是非ばかりにフォーカスされ、「雇用」に関わるイメージはないようですが、たとえばMMT標榜者の一人として有名なラリー・ランダル・レイの政策的主張は、失業率をゼロにすることが中心なのです。
失業は租税負担が重過ぎるか、政府の支出水準が低過ぎることによるもの。
それは財政「赤字」が少ないことを意味しているので、失業が発生しているのであれば、政府支出を増加させるか、減税をすることで完全雇用を実現できるとしています。
そして、政府が全ての失業者に対して一定の賃金で職を保証することによって、完全雇用を実現可能であると主張しているのです。
MMTは学説である
先日は、安倍晋三元総理がMMTを、「フグ料理」にたとえたことが話題になりました。
【浜田宏一・元内閣参与】MMTは「フグ料理のよう」と安倍前首相…「料理人」次第で美味にも猛毒にも https://t.co/yWKbaxWSqX
— 石川良直 (@I_yoshinao) January 30, 2022
これでは、安倍総理に期待した、MMTを喧伝する保守的立場の人々、いわゆる京都学派の立場がないですね(笑)
いえ、問題は、食べ物に例えたことではありませんよ。
MMTのそもそも論を間違えているということです。
「MMT」と「(積極)財政」というのは、いわば「科学」と「技術」のような関係であり、本来は別物です。
つまり、財政問題というのは、MMTで明らかにされた「お金の増える仕組み」を、いかなる価値観で使うかという議論であり、MMTそのものの議論ではありません。
そこは間違えるべきではありません。
巷間、「MMTはお金をどこまでも刷れるというが、そうなるとインフレを起こすからだめだ」というロジックがあります。
これは、二重におかしい。
前半は、すでに書いたとおり。
MMTは「どこまでも刷れる」とは言っていません。
「インフレ起こす……」については、インフレを起こすかどうかはともかくとしてねインフレを起こすかもしれないほど貨幣を増やすかどうかは「(積極)財政」という政策の問題だということです。
「誤解」は、MMTが嫌いだったり、真面目に向き合いたくなかったりする人のデマゴギーだと思いますが、そんなものの否定や反論にエネルギーをさくのではなく、MMTにょって何ができるすという建設的な議論を行いたいものですね。
『現代貨幣理論の基礎:居酒屋で自慢できるお金の話』は、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
以上、『現代貨幣理論の基礎:居酒屋で自慢できるお金の話』(uematu tubasa、反逆する武士出版)は、日本独自の現代貨幣理論(MMT)を構築、でした。
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