男たちによろしく(鎌田敏夫、立風書房)は、1987年に放送されたドラマのノベライゼーション。脚本担当の鎌田敏夫さん自ら執筆しています。訃報が話題となった古谷一行さんが鎌田敏夫作品に初出演。大人の男女の関係をセンシティブかつユーモラスに演じました。
ノベライゼーション(novelization)とは、ドラマを小説化したものです。
ノベライズ、ともいいます。
小説をドラマ化することはよくありますが、ドラマ用に描き下ろした脚本を小説化するのです。
ストーリーをドラマだけてなく小説として二次利用したり、また番組の宣伝媒体としての役割も果たします。
本書は、1987年7月に刊行されていますが、ドラマは6月までなので、放送と相乗効果を狙って、ということではなく、ドラマが素敵だったので小説としてもリリースしておこう、ということだったのでしょう。
いずれにしても、ノベライゼーションの場合、専用のライターが脚本をもとにまとめることが多いのですが、本書は鎌田敏夫さん自身が著者となっています。
ま、ゴーストライターを使っているかもしれませんから、実体はわかりませんが、それまでにも鎌田敏夫さんは脚本家だけでなく作家としてもデビューしているので、ご自身で書かれたのではないでしょょうか。
「真面目男」と「不真面目男」の「葛藤」
古谷一行さんの訃報が話題です。
【訃報】俳優の古谷一行さんが8月23日に死去、78歳 所属事務所が発表https://t.co/07YiJZabZU
俳優の古谷一行さんが8月23日に死去したと、所属事務所が公式サイトで発表。事務所サイトでは、「訃報」とし、「心より感謝の気持ちを持ってお見送りさせていただく所存でございます」と伝えた。
— ライブドアニュース (@livedoornews) September 2, 2022
古谷一行さんといえば、テレビドラマ、映画ともに多数出演。
中央大学法学部⇒俳優座の研修生と、硬派な経歴に見られるように、硬派な役が多かったのですが、私が興味深かったのは、鎌田敏夫さんの作品です。
金曜日の妻たちへシリーズ、いわゆる「金妻」シリーズ3部作のうち、パートⅠ(1983年)の中原宏、パートⅢ(1985年)の秋山圭一郎役は話題になりました。
その翌年である1987年に、今度は登場人物が、離婚歴はあるが誰も結婚していない設定で、男女の関係を切なく、でもどこかユーモラスに描いた『男たちによろしく』に出演。
さらに翌年はテレビ朝日で、生涯を賭けた異母兄弟の対決を描いた『過ぎし日のセレナーデ』と、立て続けに鎌田敏夫作品に出演しました。
そのうち、『男たちによろしく』と『過ぎし日のセレナーデ』については、田村正和さんとの「対決」がモチーフとなったストーリーです。
『男たちによろしく』については、番組宣伝はこう記載されていました。
真面目男と不真面目男を軸に、独身男女8人が、入り乱れて織りなす、都会の恋の物語
「真面目男」が古谷一行さん、「不真面目男」は田村正和さんです。
で、実は「真面目男」は、「不真面目男」をいつも罵っているのですが、それはヤキモチというか、自分がそうなりたいけれどできないことへの苛立ちなんですね。
いつも、ヘラヘラと聞き流している「不真面目男」も、ときには本気で怒るときもあります。
毎回、ユーモラスなストーリー展開に適度な緊張感のある、質の高いドラマだったと思います。
そのノベライゼーションが本書ですから、面白くないはずがありません。
「中華料理もフランス料理も日本料理も食べたくなるし、みんなおいしい」
「男たちによろしく」って、
ドラマが好きでした。今でも大好きなドラマです。
たくさんの楽しいドラマを、
ありがとうございました。古谷一行さんの、ご冥福をお祈りします。 pic.twitter.com/Nm5799rk0S
— 英世 (@abcde59631) September 2, 2022
『男たちによろしく』(TBS、1987年4月10日~7月10日)は、かつて通称「金ドラ」枠で放送されていました。
3人の男性(友人関係)と、3姉妹を中心にストーリーが展開します。
鎌田敏夫さん脚本の「金ドラ」といえば、『金曜日の妻たちへ』(1983年2月11日~ 5月13日)というドラマが話題になりました。
郊外の新興住宅地にある家庭。その既婚男女の人間関係を描いたドラマで、この作品から「金妻」「不倫」と言った言葉が流行しました。
「金妻」シリーズ3部作終了の翌年である1987年に、今度は登場人物が、離婚歴はあるが誰も結婚していない設定で、男女の関係を切なく、でもどこかユーモラスに描いた『男たちによろしく』を鎌田敏夫さんは書きました。
以下配役は敬称略とします。
男3人は友人関係で、田村正和、古谷一行、泉谷しげる。
女3人姉妹として佐藤友美、森山良子、池上季実子。
田村正和の恋人役に手塚理美、古谷一行への押しかけ女房役に春やすこ。
『男女七人夏物語』や『男女七人秋物語』では、主要人物は奇数で余りが出るようになっていましたが、今回は偶数です。
田村正和が古谷一行のマンションに居候することになりますが、階上にはその女性3姉妹が住んでいます。
男3人は、職場が全員西新宿のため、昼休みというと、3人がベンチに座って近況や雑談をしています。
田村正和は、当時花形の仕事だったレーザーディスクのコンテンツ制作会社勤務。
古谷一行は、会計事務所勤務。
泉谷しげるは、結婚式場のスタッフです。
田村正和は、古谷一行に言わせるとチャランポラン。
その時に付き合っている人がいてもいなくてもなんとなく付き合うので、いろいろな女性がオーバーラップしながら通り過ぎます。
田村正和いわく、「中華料理もフランス料理も日本料理も食べたくなるし、みんなおいしい」
実際には、深入りして傷つくのが怖いのです。
一方、古谷一行は真面目すぎて妻に逃げられています。
古谷一行は、何が不満なんだ、俺は真面目にやっているじゃないか、と思っていますが、別れた妻は、目的地に向かって脇目もふらず進むのではなく、寄り道することも人生には必要だという考え方です。
古谷一行は、いつも田村正和を罵っています。
「生き方が違う」と思っていればいいのに、いちいち罵倒するのは、田村正和になれない自分に対する苛立ちがあります。
田村正和はそれをわかっているので、たいていは聞き流していますが、時には激昂して喧嘩になることも。
それが原因で、1度は居候していた古谷一行のマンションを出てしまうこともありました。
この関係、かつての『俺たちの旅』(1975年、ユニオン映画、日本テレビ)の、カースケとオメダのようです。
一方、女性陣は、末妹の池上季実子が真面目で男嫌い、と見られています。
ところが、田村正和に「綺麗だ」と言われると、2人きりでエレベーターが故障した時、突然田村正和にキスをしてしまう自分でも抑えがきかない情熱家。
その池上季実子を古谷一行は密かに想っているので、古谷一行は田村正和に嫉妬している面もありますが、嫉妬は自己否定になるのでそれを表現できず、それも2人の喧嘩の原因です。
それでいて、押しかけ女房の春やすこもいるのですから、なんだかんだ言って古谷一行も楽しそうです。
森山良子は、離婚歴があるのですが、気さくで、男性陣3人の誰とでも仲良くできるのですが、一番モテなさそうな泉谷しげると仲良くなります。
問題は佐藤友美です。
昔、田村正和と1度だけ関係したことを忘れられずに、ずっと結婚していない設定。
一方の田村正和にとっては、ありふれたいつものことなので(笑)そんなことは忘れていますが、佐藤友美はあるとき、6人全員の前でそのことを暴露。
田村正和を罵倒します。
まあそれだけですと、いたたまれないし、ちょっとイタイですが、その後、遠くで仕事する機会を辞退して、田村正和へのストーカー人生を続行するという、彼女の役にしては意外な“格好悪い”居直りの展開は、むしろユーモラスでホッとします。
ドラマの見どころは、田村正和よりもまじめに生きている古谷一行のほうが、不器用で不自然で無理をしているように描かれていること。
佐藤友美が、第三者的に見るとイタイ女性のようでいて、本人の側からすると実はそうでもないこと。
男とは話もしない池上季実子が、ふとした拍子で人がかわってしまうこと。
これらの意外性を織り交ぜた6人プラス2人の関わり方が、実に絶妙で説得力がある大人の素敵なドラマなのです。
それを小説にしたのですから、楽しい小説です。
不倫は美化せず男女の面白困った展開に
本作の登場人物の勤務地として、高層ビルがそびえ立つ新宿のシーンがしばしば登場します。
個人的には、ちょうど結核から社会復帰した頃だったので、ビジネス街が大変眩しく見え、「自分もこういうところで働きたいなあ」などと気持ちが前向きになりました。
そういう意味でも、このドラマは私にとって思い出深いものです。
とにかく、美化した不倫は描かれず、おもしろ困った展開や、男女の弱さに向き合った素敵なストーリーです。
そして、古谷一行さんの、生前のご遺徳をお偲び申し上げます。
以上、男たちによろしく(鎌田敏夫、立風書房)は、1987年に放送されたドラマのノベライゼーション。脚本担当の鎌田敏夫さん自ら執筆、でした。
【中古】 男たちによろしく / 鎌田 敏夫 / 立風書房 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】 – もったいない本舗 楽天市場店
コメント