男麺(土山しげる、ゴマブックス)は、商社に勤める無類の麺好き主人公が、立ち食いそばや町中華の焼きそばなどで騒動を解決するストーリーです。どんな揉め事があっても、大衆的な「麺」を食べることで心が穏やかになってハッピーエンドです。
『男麺』は、土山しげるさんいたB旧グルメストーリーで、ゴマブックスから上梓されています。
商社に勤める無類の麺好き、通称イケメンの主人公・池田免太郎が経験する、様々なトラブルや面倒な騒動が、全て一杯の麺、しかも大衆的なもので解決するのが大まかなストーリーです。
立ち食いそばやカップ焼きそば、具のないうどんなどが登場する大衆性が味噌です。
すでに、目次も公開されています。
<目次>
一杯目 そば
二杯目 うどん
三杯目 盛岡冷麺&沖縄そば
四杯目 名古屋麺
五杯目 ラーメン
六杯目 焼きそば
「杯目」というのは「話」ということです。
本書は、Kindle版でご紹介します。
2022年11月6日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
部長も立ち食いそばを啜って満足
本書の一杯目『そば』を簡単にご紹介しましょう。
主人公の名前は池田免太郎。通称イケメン。
商社に勤める無類の麺好き。
ラーメン、そば、うどん、スパゲッティ、カップ麺、焼きそば、地域の名産の麺、なんでもござれです。
とくに、落語『時そば』を、イヤホンで聞きながら立ち食いそばを啜るときが、サイコーの気持ちなんだそうです。
『時そば』は、古典落語の演目の一つです。
名作落語50席がマンガで読める本(版東園子/著、二ツ目ユニット「成金」/解説)にも載っています。
夜鳴きそば屋でそばを食べた男が、やたらにそば屋を褒めたあげく代金を聞きます。
蕎麦屋が16文と答えると、男は小銭をひとつひとつ出しながら「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、何刻(なんどき)だい」と言い、蕎麦屋が「九(ここの)つで」と答えると、男はひとつ飛ばして「十(とお)、十一、十二、十三、十四、十五、十六」と、うまく1文ごまかしてしまいました。
これを見ていたぼおっとした男が、自分も真似しようと、細かい銭を用意してそば屋を呼び止めたところ、勘定になって「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、何刻だい」「へえ四つで」「五つ、六つ、七つ、八つ……」と損をしてしまうという話です。
勘定のときに言わせるミスが味噌なのですが、そばを啜る音を聞くと、自分もそばを食べたくなってしまうのかもしれません。
免太郎は、1日に1杯は必ず、時には2杯立ち食いそばを食べるそうです。
そのノリで、総務課勤務の女子社員、水島菜々子をそばを食べに行こうと誘うと、「いやあああ!!」との悲鳴のような返事。
いったい何事かと話を聞いてみると、部長が趣味で作るそばを、毎日曜日、課長命令で課内全員で部長宅で食べることになっているとか。
しかし、決して上手ではない出来である上に、何よりもああだこうだと材料が値打ち品であることや、食べ方作法の講釈を垂れるので、喉を通らないのだとか。
そこで、免太郎も参加してみたものの、話のとおりだったので途中で箸を置き、「どんなに最高の食材を使ってても、上品ぶった作法を押し付けられて食うメシが、旨いはずないスよ!」「俺は駅で立ち食いそば食って帰ります」と言って席を立ちます。
業腹な部長でしたが、夫人が隣近所にまでそば試食の無理強いに、菓子折りを持って謝りに行っていたことを知り、反省。
部長も、立ち食いそば店に入って蕎麦をすすって「なるほど」と納得したところで「おあとがよろしいようで」。
サラリーマン社会も大変ですね。
各話、こんな感じで、話はハッピーエンド。
しかも、そのきっかけは大衆的な「麺」ばかりです。
B級グルメとはなんだ
本書『男麺』に出てくる「麺」は、目次の通り、そば、うどん、盛岡冷麺&沖縄そば、名古屋麺、ラーメン、焼きそばなどです。
いずれも、日常的に食されている大衆的なものです
それらを、メディアではB級グルメ、なんて名付けています。
B級、というと、なんか野球のBクラスのような、「下位」のグルメという感じですね。
なんか見下されている気がしますが、ではB級グルメとは何でしょうか。
本来のB級の意味というのは、値段ではなく、料理の中身が庶民的かどうか、ということです。
安価で、贅沢でなく、庶民的でありながら、気軽に食べられる料理をB級グルメといいます。
では、それが高価なものに比べて低級かというと、そんなことはないと思います。
洋服も、礼服やドレスと、カジュアルでは役割が違います。
それと同じだと思います。
つまり、それが提供される、それを食す場や価値によって、似合う食べ物が違うということだと思います。
むしろ、安価で庶民的というのは、私達の日常生活を支えるものであると思います。
「立ち食い」とつくそば屋と、つかない蕎麦屋の違い
とくにそばは、本書によると主人公の好物が立ち食いそばです。
ところで、「立ち食い」のつかない蕎麦屋と、立ち食いそば屋の違いというのをご存知ですか。
以前は、文字通り駅の構内にあって、立ったままのカウンターでそばを食べるところでしたが、今や「駅の立ち食い」そば店でも、椅子とテーブルが用意されているところが少なくありません。
また、富士そばのように、駅の外に「立ち食いそば」として店を構えているものもあります。
「やはり値段かな」
と、思われますか。
たしかに、私が生まれて初めて一人で入っていただいた立ち食いそばは、昭和45年(1970年)の京急川崎駅構内でいただいた50円の「かけうどん」でした。
毎週日曜日に、進学教室のテストを母親から受けるようにいわれて、電車で行っていたのですが、その日は雨足がひどく風も強くて、体がぶるぶる震えていたのです。
ちょうど帰りはお昼時で、のれんからあたたかそうな湯気と、つゆのいい香りがしてきて、つい入ってしまったのです。
当時、自宅でよく出前をお願いしたり、お店で食べたりしていた蕎麦屋は、同じ「かけうどん」で店なら90円、出前ですと配達料が上乗せされて100円でした。
むずかしいことはわかりませんから、「駅の蕎麦屋は値段が安くて素晴らしい」と、率直に思いましたね。
では、なぜ安いのでしょうか。
立ち食いそばは、「立ち食い」とつかない蕎麦店のそばとどう違うのでしょうか。
そりゃ、大きいのは材料の違いでしょう。
毎日、自店で鰹節を使ってつゆを作るのが「立ち食い」のつかない蕎麦屋なら、セントラルキッチンや業務用の販売業者からポリタンクで運ばれるつゆを温めて使うのが「立ち食い」のつく蕎麦屋、といったところかな。
そばは、十割そばや九割そば、もしくは二八そばなどといわれるものを使うのが、「立ち食い」とつかない蕎麦屋。
要するに、材料の8割~10割にそば粉を使う、ということです。
一方、立ち食い蕎麦の場合は、2~6割ぐらいと言われています。
蕎麦以外の材料は、小麦粉です。
小麦粉が入ること自体は、つなぎのため悪いことではありません。
ただ、そば粉に比べて小麦粉の単価が安いため、立ち食いそば店では安い小麦粉の割合が多くなりすぎて、そばの食感が薄れてしまうことがあるのです。
もっとも、そばの割合が少ない方がいい、つまり立ち食いそばの方がいい、という好みもありますから、必ずしも「小麦粉が多いそばはだめ」ということではありません。
最近は、立ち食いそばでも「十割そば」を出す店(渋谷の嵯峨谷)、「二八そば」を出す店(大塚のみとう庵)もあるといいますが、それはまあ例外で、とにかく、「立ち食い」であるかどうかは、そばの割合が違うということです。
大衆的な「食」がテーマ
土山げるさんについては、これまでにも作品をご紹介しました。
食キング(日本文芸社)は、「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリーです。
漫画版野武士のグルメ カラー版1st01(久住昌之/原作、幻冬舎)は、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡るストーリーです。
いずれにしても、「食」の、しかも大衆的なものが対象になっています。
こちらの作品や記事もご覧いただけると幸甚です。
以上、男麺(土山しげる、ゴマブックス)は、商社に勤める無類の麺好き主人公が、立ち食いそばや町中華の焼きそばなどで騒動を解決、でした。
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