『驚愕!!ふとん叩き引っ越しおばさんの知られざる真実』(画:桐野さおり/原作:有田万里、ユサブル)は、かつてワイドショーで「引っ越し、引っ越し」と大声で叫ぶ騒音おばさんとして報じられた奈良騒音傷害事件を描いた実録漫画です。
奈良騒音傷害事件とは何だったのか
奈良騒音傷害事件とは、奈良県生駒郡平群町の主婦が、約2年半にわたりユーロビートやヒップホップ、R&Bなど大音量の音楽を流すなどの方法で、騒音を出し続けた事件です。
ワイドショーでは、派手に布団を叩く動画が、これでもか、これでもかと繰り返し流されました。
布団叩きだの大音量だのというから、てっきり迷惑防止条例かと思われがちですが、実は「おばさん」は傷害罪で実刑がうたれた(2007年最高裁)事件だったのです。
と書くと、「何だ、やっぱり悪い人だったんだ」と思うかもしれませんね。
でも本当にそうなのか。ぜひ本書をご覧ください。
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— りおちゃん (@rio_chan_oppi) June 24, 2020
本書は、事件に対して公平に報じたいという新米の週刊誌女性記者の視点でストーリーが進んでいます。
ネタバレごめんのあらすじ
女性記者は、「騒音おばさん」についての記事執筆を命じられます。
が、現場の奈良で話を聞こうとすると、「そんなお金と時間はない」と編集長に却下されます。
ワイドショーの報じているセンで、テキトーにまとめておけというのです。
しかし、「おばさん」の姿をワイドショーが報じるのは、そもそもプライバシーの侵害にあるのではないか、ともっともな疑問をいだいた記者は、自費で奈良にとんで話を聞くことにします。
「おばさん」だけが悪かったのか
ワイドショーは、「おばさん」が一方的に悪く報じられていますが、おばさんの近所の評判は決して悪くなく、事件についてもおばさんを悪く言わない複数の証言を得ます。
実は「おばさん」は、夫や2人の子どもが小脳の萎縮する難病で、子どもたちは早逝しています。
トラブルの「被害者」である相手は、「おばさん」がいうところの「拝み屋」、すなわちカルト宗教の信者でした。
本書では「S夫妻」とされています。
相手が、自宅の庭に庭園灯を取り付けたことで、闘病中の娘が「まぶしい」というので、なんとかならないかと「おばさん」が「お願い」したところが「争い」の始まりだったと書かれています。
「S夫妻」は、「おばさん」の悪口を近所に言いふらし、仔細なことで揉めるようになりました。
といっても、攻撃するのは「S夫妻」の方です。
人を使って「おばさん」のもとに押しかけ、「出ていけ」と団交まがいのことまで行いました。
本書によると、当初は否定していたものの、公判ではその事実があったことを認めているコマがあります。
団交ってご存知ですか。
学生運動がまだ盛んだった頃、学生たちが、気に入らない教授などを連れてきて、集団で吊るし上げる「交渉」がありました。
私は、主張以前に、あのやり方が生理的に苦手で、それだけで自治会の運動などを嫌悪していました。
それでブチ切れた「おばさん」は、2階にベランダを増築して、CDラジカセと布団たたきによる抗議が始まりました。
そこには、闘病中の家族を守りたい、という気持ちがあったのは想像に難くありません。
CDラジカセの大音量も、「S夫妻」の盗み聞き対策だったと「おばさん」は後の公判で述べています。
一方、「S夫妻」は、監視カメラを設置。
そこで撮影したことが、ワイドショーで放送されたわけです。
マスコミと近所にも追いつめられた「おばさん」
本書には、こう解説されています。
「マスコミに流布した映像では、美和子がひとりで喚いているように見えるが、実は争うS夫妻の声を編集でカットしていると思われる」
つまり、ワイドショーの報道は、プライバシーの侵害とともに、不公正だったわけです。
何より放送法違反です。
そのさなかの平成15年に闘病中だった次女は早逝
当時の「おばさん」が、「いかに精神的においつめられていたか想像に難くない」
「S夫妻」が「ただ一方的に被害をこうむっていただけかといえば疑問も残り……」
「おばさん」家の「鍵穴にボンドを流し込んだり、車や家の傷や落書きを「おばさん」の仕業に見せかける等の工作があったと聞く」
平成17年には、「おばさん」は「S夫妻」の門柱の留め具を破損した容疑で逮捕。
しかし、それは「おばさん」によると濡れ衣であり、「おばさん」はいよいよ、「自分のケンカは、自分でケリつけたる」と気持ちを硬化せざるを得なくなります。
傷害容疑で逮捕されるまで、孤独な戦いを行いました。
記者はそう記事をまとめましたが、上司は記事をボツにします。
しょせん、近所の人が「実は……」と話してくれたことは、裏付けのない個人的な意見に過ぎないからというのです。
冤罪でもない限り、マスコミは表に出た事実を書くしかない。
裏の事実を暴くなら、時間をかけて調査しなければ、ライターの「偏った主張」と扱われるだけというわけです。
裁判では、「おばさん」は反省を述べず、なんと実刑に。
「おばさん」の孤独な戦いは、「それなりの信念に支えられたものでした。でも市民社会という公共の場では、その行為は公害でしかないのです」と、記者は寂しく記事をまとめました。
まとめ
本書を読み終えた私が個人的に感じたことは
- マスコミのプライバシーの侵害と編集(?)
- 「わからずや」の土俵に簡単に乗るな
の2点です。
本書のセリフとして、「マスコミは表に出た事実を書くしかない」とあります。
が、「S夫妻」の撮影動画を、センセーショナリズムから都合よくマスコミが編集したのなら、それは「事実」ではなく「改ざんによる虚偽」であり、許されないことです。
「おばさん」が「拝み屋」と唾棄したそうですが、「S夫妻」の行為が、カルト宗教の行動原理であるかどうかはわかりません。
しかし、「団交」を行ったり、動画を撮影してメディアに渡したりと、自分が有利になるように裏で工作する人たちであることは間違いありません。
そういう人と正面から戦う気持ちはわからないではありませんが、その時間とエネルギーが「おばさん」自身の人生にとって得策かどうか、というとまた別問題です。
「おばさん」は、他人をあてにせず孤独の戦いを行いました。
が、今だったら、リアルのご近所だけでなく、ネットで知恵を借りることもできますから、いろいろな人に相談したほうが良いと思いました。
それにしても、「おばさん」には同情の念を禁じえません。
「S夫妻」もそうですが、人望があるとも思えないのに「同調者」を集めることには長けていて、さも多くの人が自分に賛成してくれている、という体裁を作りたがる人っているんですね。
そうすると、印象的には、「孤立」している方が悪いように見えてしまう。
しかし、人間というのは残念ながら欲得と思い込みで動く憾みがあります。
もとより同調者が多いことが、その人が正しいことの証明にはなりません。
「おばさん」が実刑に至ったのは「やり方の間違い」でしたが、家族を守りたい、言いがかりや冤罪には屈しない、という信念は評価したいと思います。
改めて、リアルな真実にアプローチせず、センセーショナリズムで一方的な「悪役」を作るマスコミには困ったものです。
そして、その尻馬に乗って騒いだくせに、あとになって少しずつ本当のことがわかってくると、手のひらを返して「マスゴミ」呼ばわりする連中はもっと困りものだと私は思います。
そこから何も学べないのでしょうか。
以上、驚愕!!ふとん叩き引っ越しおばさんの知られざる真実(桐野さおり/有田万里、ユサブル)は奈良騒音傷害事件を描いた漫画、でした。
驚愕!!ふとん叩き引っ越しおばさんの知られざる真実/ザ・女の事件スペシャルVol.1 (スキャンダラス・レディース・シリーズ) – 桐野 さおり, 有田 万里
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