3歳男児をウサギ小屋で監禁虐待死させた足立区の事件を漫画化したのは、『鬼親~2015年うさぎケージ監禁男児虐待事件』(阪口ナオミ、ぶんか社)です。毒親に育てられた2人が、それをトレースするような生き方で我が子を虐待した不幸な事件です。
足立区男児うさぎケージ監禁虐待死事件とはなにか
足立区3歳男児うさぎケージ監禁虐待死事件というのは、2013年に起こした実子虐待死事件です。
東京都足立区入谷で、両親は当時3歳の次男を「いう事をきかないから」という理由で、うさぎ用のかごで3ヵ月監禁。
暴力をふるい続けた上、口にタオルをまいて窒息死させて、遺体をケージごと遺棄しました。
次女にも犬用の首輪をつけ、自由に歩き回れないようにしていたのです。
しかも、殺害の翌日には、みんなで東京ディズニーランドへ遊びに出掛けていました。
発見は、およそ1年後の2014年6月。
こう書くと、「鬼畜の所業」という、特別な出来事のような非難の大合唱となるかもしれません。
もちろん、犯した事実の非難は免れませんが、この事件は犯行に及んだ両親の「生い立ち」もクローズアップされました。
これまでご紹介した、子供の虐待事件は、みな親も不幸な生い立ちでしたが、この事件はまさに典型的な例で、犯行に及んだ両親もまた虐待されて育っていたのです。
毒親は毒親に育てられている。
これはもうセオリーです。
しかも、親の生き様をトレースしているのです。
その事件を漫画化したのが、『鬼親~2015年うさぎケージ監禁男児虐待事件』(阪口ナオミ、ぶんか社)です。
「理想の家庭像」を求めて結婚したが……
夫(31)は、本書では「入山蓮」、妻(28)は「正美」という名で設定されています。
足立区内のホストクラブで働いていた夫は、客だった妻と2007年に知り合い、結婚しました。
妻もホステスでしたが、せっかく働いても母親にその報酬を取られてしまう、恵まれない「ほしのもと」でした。
母親は、やはりホストと付き合い、非嫡出子として彼女を産んでいます。
母親はその後、結婚離婚を繰り返し、下に3人の子、度重なる引っ越し、ご近所との諍い、詐欺や万引きなどを繰り返したモンスター。
彼女はそうした母親の生き方に翻弄され、さらに育児放棄をされていたことも。
そんな立場に同情してくれたのが夫です。
彼もまた、施設育ちの恵まれない「ほしのもと」でした。
彼の母親もまた、児童養護施設で育ったモンスターでした。
母親は、ソープランドなどの水商売をしていたため、「入山蓮」以下5人の子供はすべて乳児院育ち。
「入山蓮」は、親の愛情も、家庭も知らずに育ったのです。
「正美」にはすでに子供がいましたが、「入山蓮」は連れ子ごと彼女を迎え入れて結婚します。
家庭に恵まれなかった「入山蓮」としては、はやく家庭を持ちたかったのではないでしょうか。
そして、連れ子のいる「正美」でも迎え入れたのは、乳児院育ちで「他人」と家族のように付き合うことにこだわりがなかったのかもしれません。
漫画では、「入山蓮」はこう言っています。
「俺、理想の家庭像があるんだ。子供がたくさんいてにぎやかで…。みんなが笑って暮らせるあったかい家庭。それを正美と作っていきたいな」
たぶんそのときは、本人なりにその言葉に嘘はなかったと思います。
「正美」は、7年間で7人もの子供を出産しています。
「なさぬ仲」の子も実子もみんなきちんと育て、平和で温かい家庭が築ければ、言うこと無しでした。
が、残念ながらそういう展開にはなりませんでした。
犠牲者は、2人の間に生まれた実子でした。
生活保護と児童手当で働かず、ペットは飼いっぱなし、子は虐待
めぐまれない「ほしのもと」に育った夫は、友人関係も偏ってしまいます。
それゆえ、人格形成も健全には行われず、ホストや運送業など、職が長続きしませんでした。
一方、妻は毒親の母に振り回れただけでなく、統合失調症による通院経験もありました。
そうなると仕事はできませんから、経済的には苦しくなります。
しかし、子沢山の家庭のため、児童手当と生活保護の受給があり、生活できないわけではありませんでした。
その額、約30万といわれます。
デフレが25年続いている日本ですから、30万円は大きいですね。
まとまった「不労所得」が入ることで、夫ははたらかなくなります。
もちろん、「怠け者」との非難はそのとおりですが、家族のために懸命に働く親の背中を見ていない夫にとって、家庭を背負っている責任感というものがどういうものかすらも、わからなかったのではないでしょうか。
そして、生活に歪みが生じると、お定まりの虐待が始まります。
最初は、次女・裕奈に対する虐待でした。
いったんは逮捕されますが、反省したふりをして釈放。
もうひとりのターゲットが、うさぎケージに入れられた次男・蒼汰でした。
複数の子供がいれば、いろいろなタイプがいて当たり前ですし、イヤイヤ期など誰もが通る成長の途上でもあるのに、自分の思い通りにならない子どもや、“おイタ”をする子どもを「しつけ」と称して虐待したのです。
初心を忘れなければ…、とは思いますが、あまりにも悲惨な「育ち」だったのでしょう。
それ以外にも、家の中は、犬や猫、うさぎなど常時10匹~20匹の動物がいたと言います。
血統書付きではなく、拾ってきた子犬ですが、狂犬病の注射はしていたのでしょうか。
病気になったら、動物病院に診せていたのでしょうか。
たぶん、していないでしょう。
報道では、拾ったら拾いっぱなしで放置。
餓死すると荒川に捨てていたと言います。
子どもが、後先考えずペットを飼い、世話をしないで死なせてしまうことがありますが、そのレベルだったのでしょう。
そんなメンタリティですから、子に対する育て方、愛情の注ぎ方など、意図も自覚もありません。
次男はウサギ用ケージ、次女は犬用のリードにつなげてせっかんしました。
次男と次女には、2~3日に1度しか食事を与えていなかったと言います。
動けず、十分に食べられず、やせ細る次男。
次男の叫び声に腹を立て、夫はタオルで口をふさぎ一晩置くと、次男は口から泡を吹いて亡くなっていました。
次男の遺体は未だに見つからず
2人は隠蔽のため、警察はもちろん病院にも連絡はせず、死体を遺棄。
児童手当や生活保護費については、その後も次男が生きている「現況」で受給しました。
児童相談所の家庭訪問も、マネキン人形を使って、さも次男が存在するかのような小細工までしました。
逮捕されても、証拠がないので、当初は詐欺や道交法違反容疑でした。
それが、荒川でスコップとケージが見つかったことで、監禁致死と死体遺棄容疑による再逮捕にこぎつけました。
しかし、次男の遺体は未だに見つかっていません。
夫は、山中に埋めたと証言。
ところが、妻はケージごと荒川に遺棄したとしており、証言が食い違っています。
夫は懲役9年で服役中。
妻は懲役4年が言い渡されました。
虐待を「しつけ」としか思えない育ち
あの親たちは鬼畜ではない。殺された子は親を愛し、虐待した親も子を愛していた https://t.co/kbLdaLLGUx @shujoprimeより
— 石川良直 (@I_yoshinao) February 17, 2022
酷すぎる事件ですが、『「鬼畜」の家~わが子を殺す親たち』(新潮社)の著者・石井光太さんは、「あの親たちは鬼畜ではない」と言います。
といっても、もちろんその行為を免罪する、という意味ではありません。
そうではなくて、彼らの言い分である、虐待を「しつけ」というのは、実は彼らにとっては本当にそのつもりなのだ、という話です。
常識とのズレから生じた“自分なりの愛し方”、すなわち、夏休みが終わり、あれほど可愛がっていたカブト虫を飽きて放置して死なせてしまう子どものような愛し方しかできない親たちーー
前述のように、彼らは自分が親からされたことを自分の子供にトレースしています。
人間は、無謬でも万能でもありませんから、立派な親ばかりではありません。
というより、すべての親は毒親としての素地を大なり小なり持っています。
なのに、親を絶対化する今の法律(民法第818条)では、代々悪いことをトレースし続けることになりかねません。
不幸な育ちの親が、同じことを子にしないためには、我が国を、子が親を是々非々で論じられる文化や風土に変えていかなけければならないと私は思っています。
『鬼親~2015年うさぎケージ監禁男児虐待事件』(阪口ナオミ、ぶんか社)は、それのみで1冊完結している単話版、もしくは『ストーリーな女たち ブラック Vol.2』に収録されています。
AmazonUnlimitedでは、読み放題リストに入っています。
以上、3歳男児をウサギ小屋で監禁虐待死させた足立区の事件を漫画化したのは、『鬼親~2015年うさぎケージ監禁男児虐待事件』です、でした。
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