『1人でもできるリハビリテーション』(橋本圭司著、法研)は、 脳卒中・脳損傷・高次脳機能障害からの改善をめざすリハビリの書籍です。リハビリとはなにか、何を目指すものかなど、考え方や目的などを含めて新たな認識を得ることができます。
著者は橋本圭司医師。
はしもとクリニック経堂を開業されていますが、もとは国立成育医療研究センターの脳神経内科医です。
その頃から、私の長男が高次脳機能障害でお世話になっています。
11年前に、火災で一酸化炭素中毒で脳障害になった際、最初は遷延性意識障害だったのですが、高次脳機能障害に「回復」したため、橋本圭司医師の診察を受けることにしました。
橋本圭司医師の『高次脳機能障害者リハビリ』の持論は
- できないところではなく、できるところが大事
- 健常者と同じになろうとするのではなく、自分の『できる』『得意』を知って伸ばせばそれでいい
ということです。
橋本圭司医師は、言葉が出ないからと言語、記憶が続かないからと記憶力のリハビリをしても、あまり効果がないといいます。
なぜなら、言語中枢がダメージを受けて言葉が出てこない人に対して、いくらそこを鍛えようとしても難しい。
損傷した脳は元通りにはならないので、「元に戻そうと思わないこと」といいます。
では、そういう人は人生を諦めるべきか?
そうではなく、だめになったところを直接なんとかしようとするより、残っているところを刺激するほうが効果的だというのです。
そこで、本書『1人でもできるリハビリテーション』です。
リハビリテーションとはなんだ
リハビリテーション、通称リハビリ。
まずは基本的なことですが、リハビリというと、どのようなことを想像しますか。
ケガや病気で、長く寝込んだり、体の一部を受傷して機能が失われたりした状態の人が、訓練して機能をもとに戻すこと……と思いますか。
そうではないんです。
ここは誤解されていることが多いですね。
そこで、本書はその解説からスタートしています。
リハビリテーションは、ラテン語の『re(再び)+habilis(適した)』を語源としています。
日本語に訳すと、「再び適した状態になること」「本来あるべき状態への回復」となります。
すなわち、受傷して「できなくなったこと」をもう一度できるようにするだけでなく、今保たれている状態を伸ばしていくことが眼目であるといいます。
もちろん、「できなくなったこと」がもう一度できるようになるならそれを目指しましょう。
ただ、脳を受傷して神経細胞がやられてしまうと、原状復帰はむずかしい。
そもそも、私たちは障害がなくても、加齢で日々脳細胞は不可逆的に失われていきます。
失ったものを失う前に戻そうとするのではなく、失った状態でいかに適応していくかが、リハビリでは求められるのです。
橋本圭司医師は、たとえばこう説明しています。
しかし、一生懸命訓練しても記憶力が一向に戻らなかったとき、それ以上進めなくなってしまいます。
このプランの間違いは、もとの状態に戻すことばかりにとらわれていることです。記憶力が低下したのならば、こまめにメモを取る、スケジュール表やアラームを活用するといった新しい習慣を身につける視点が欠けているのです。
このようにいうと、記憶力を上げることをあきらめていると感じるかもしれません。しかし、メモやスケジュール表の活用をしっかりと身につけて毎日を過ごせるようになると、メモがいらなくなる現象が起きるのです。
橋本圭司さんは、「もしかしたら、回復の順番は逆なのかも しれません。毎日が困らなくなると、本来 の力も戻ってくる、そんなケースを私は何 回も目の当たりにしています。」とも述べています。
いかがですか。
リハビリに対する認識。変わりませんか。
リハビリは多様化してアプローチも複雑になっている
本書では、リハビリが多様化していることを解説しています。
まず、リハビリには理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)という3種類の訓練があることを紹介。
私は未だに、アルファベットではわからないので、日本語で『理学療法』『作業療法』『言語療法』と言います。
それはともかくとして、今までのリハビリは、歩けないときは理学療法、手に麻痺があったら作業療法、うまく話ができなければ言語の訓練を行ってきました。
しかし、最近では、足、手、言語といった単純な役割分担ができなくなったといいます。
たとえば、脳卒中で手足と言語に障害があっても、まずは呼吸を整え、意識をしっかりさせるために、リハビリは理学療法から始めるそうです。
そして、次に食事を飲み込めるようにする「摂食・嚥下訓練」を行うといいます。
首の痛みやこわばりから、食べ物がうまく飲み込めない人には、首に対する理学療法、作業療法、言語療法など、全く違ったリハビリを行うことがあるそうです。
理学療法では、安定した姿勢を保てる訓練を、作業療法では緊張を解して、車いすにてヘブルを設置して安全に食事できるようにする環境づくりを、言語療法では、喉や口、顔の動きをなめらかにする運動や、口の中を刺激するマッサージなどを行うそうです。
原因から入ったり、多様な角度からリハビリを行ったりシているわけですね。
「機能」は頭打ちでも「症状」は改善する
私がもうひとつ印象的だったのは、リハビリと症状改善の関係についてです。
脳障害の回復は2年が目処で、それ以降はあまり期待できない、なんていわれてきました。
しかし、本書によると、2年過ぎても改善はあるというのです。
たとえば、認知「機能」自体は、発症後2年ぐらいで改善は頭打ちになるものの、「症状」は改善するケースはあるといいます。
今日の日付も、さっき言った事柄も憶えていない、重い記憶障害の男性患者には、記憶そのものに対する直接訓練はせず、ただ生活がつながるように、その日に行うべき事柄のチェックリストと、メモ帳の使用を習慣づけたといいます。
するとその患者は、毎日何をしたのかが憶えられるようになり、生活がつながってきたそうです。
ところが、検査をしたところ、知能指数、記憶指数ではいくつかの項目で、むしろ後退していたのです。
本書は、神経心理学的検査の結果が、日常の生活能力には必ずしも結びつくものではないことを示していると結論付けています。
そう、大事なのは「生活能力」なのです。
そこで、この動画をご紹介します。
『クローズアップ現代+』で放送された「次郎という仕事」が、今も話題です。
【動画】次郎は「次郎という仕事」をしている~重度知的障害のある次郎さんが歩く、豊かで優しい世界とは? #ハートネット https://t.co/D33BhfRszW pic.twitter.com/2DBqj7tvz7
— NHK「クローズアップ現代」公式 (@nhk_kurogen) August 23, 2017
IQ18、語彙も10程度しかない重度知的障害の男性が、バスに乗り、買い物をして、道行く人に挨拶をして、と要するに「普通に暮らしている」動画がダイジェストで配信されているのです。
IQ18、語彙も10程度という数字だけを見たら、ひとりで表に出て介助無しで暮らせるの? と思われるようなレベルです。
ところが、この男性は、たとえば小銭のお釣りも理解出来、店員に魚をさばいてもらうのに、店員の質問に首を振ったり、魚に手刀を切って切り身にするよう依頼したりしているのです。
つまり、言葉はなくても「会話」をしているのです。
この男性の例は、「神経心理学的検査頭」と「生活自立頭」は別のものであり、気落ちせず療育を続ければ良い、という証左です。
もとに戻れなければ絶望だ、ということではない
橋本圭司さんは、長年リハビリテーションの仕事にかかわってきて、最近は「もとに戻りたいという苦しみ」のような一方向的なものの考え方を改めるようになったといいます。
たしかに障害があるのは大変なことです。しかしながら、そのことがきっかけになって、「長年離ればなれになっていた夫婦が一緒に過ごすようになった」「仲の悪かった兄弟が、父親の病気がきっかけで力を合わせて協力するようになった」「この経験がなければ出会うことのなかったかけがえのない真の友人に出会うことができた」など、障害による苦難は、ときに耐えがたいものでありながら、それと引き換えにかけがえのない財産を残してくれることがあります。
まあ、元に戻れたらそれにこしたことはないんですけどね。
もとに戻れなければ絶望だ、ということにはならない、ということでしょうね。
今はなんでもなくとも、いつ誰が災難で中途障害者になるかわかりません。
現在、受傷してリハビリを行っている方だけでなく、リハビリ経験のない方も、ぜひお読みいただきたいと思います。
本書は、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
以上、『1人でもできるリハビリテーション』(橋本圭司著、法研)は、 脳卒中・脳損傷・高次脳機能障害からの回復をめざすリハビリの書籍、でした。
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