『ニッポン無責任時代』(1962年、東宝)は1960年代東宝の屋台骨を支えた人気シリーズクレージーキャッツ映画(全30作)の第一弾

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『ニッポン無責任時代』(1962年、東宝)は、1960年代東宝映画の屋台骨を支えた人気シリーズクレージーキャッツ映画(全30作)の第一弾

『ニッポン無責任時代』(1962年、東宝)は、1960年代東宝映画の屋台骨を支えた人気シリーズクレージーキャッツ映画(全30作)の第一弾です。この作品で植木等がブレイクし、脇役で出演していたクレージーキャッツのメンバー全員が出演する作品も作られました。

本稿では、改めて東宝クレージー映画とクレージーキャッツについて振り返ってみます。

クレージーキャッツの映画は1960年代東宝を支えた

1960年代の映画会社各社は、テレビの普及で少しずつ陰りを見せながらも、直営上映館を持ち、定期的に映画が製作されていました。

中でも東宝は華やかでした。

黒澤明監督・三船敏郎主演という国際的作品を支えるべく、森繁久彌主演の社長シリーズ、加山雄三の若大将シリーズ、東京映画製作の喜劇駅前シリーズ、そして、植木等、もしくはクレージーキャッツ主演のクレージー映画シリーズなどが、人気作品として毎年1~3作上映されていました。

マニアはこれをもって、東宝昭和喜劇黄金時代などと絶賛。

そうした趣旨のサイトも、検索するといくつか出てきます。

2015年には、若大将シリーズを除くそれらを収録した『東宝昭和爆笑喜劇DVDマガジン』(講談社)という分冊百科(作品DVDとエピソードや当時の写真などを記載した書籍)も、そうしたファン層がビジネスになると踏んだから発売されました。

ニッポン無責任時代』は、当時『おとなの漫画』(フジテレビ)や、『シャボン玉ホリデー』で売り出し中の、ハナ肇とクレージーキャッツが全員出演。

植木等が主演をつとめる初めての東宝映画でした。

ただ、当時は映画の方がテレビよりも格上とされた時代で、いくらテレビで売り出し中と言っても、映画でどれだけできるかは未知数と見られていました。

実はクレージーキャッツの映画はこれが初めてではなく、『スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねぇ』や『サラリーマンどんと節 気楽な稼業ときたもんだ』(大映)などに出演していましたが、ヒットはしなかったので、当時、人気シリーズながらも7作目でいささか息切れ気味となっていました。

そこで、1950年代終盤から東宝で作られていた人気作品『お姐ちゃんシリーズ』の主演女優3人を出演させて、「保険をかけた」(『東宝昭和爆笑喜劇DVDマガジン』No.1)といわれてまいす。

ニッポン無責任時代

が、本作で植木等が大ブレイク。

一方、『お姐ちゃんシリーズ』はこの作品上映の翌年に打ち切りとなり、植木等主演、もしくはクレージーキャッツの冠映画は、1971年公開の『日本一のショック男』まで、30作が制作されることとなりました。

その30作は、植木等主演の「無責任男」シリーズ・「日本一男」シリーズ、クレージーキャッツ全員が出演する「クレージー作戦」シリーズ、さらに時代劇などがありますが、やはりその核となったのは、植木等の破天荒なキャラクターと、古澤憲吾監督のハジけた演出、さらに坪島孝監督の風刺喜劇のテイストによるものが大きいと思います。

無責任とは無原則や薄情という意味ではない

ただ、誤解されているかもしれませんが、「無責任男」といっても、その本質は、決して無原則なデタラメとか、薄情者といった意味ではありません。

当時、日本は高度経済成長に向かう右肩上がりの時代で、勤勉に過ごして前に進もう、という“真面目な”価値観が社会を覆っていました。

しかし、資本主義の競争原理は、一部の勝者に大半の敗者がつきものであるし、足を引っ張られたり裏切られたりといった人間臭い出来事もあるでしょう。

そんなとき、植木等やクレージーキャッツの歌が登場したのです。

「わかっちゃいるけどやめられない」「神様も乞食もみんな人生2万5000日」といった持ち歌の歌詞でもわかりますが、彼らの歌には、小さなことでクヨクヨしたり、ギスギスしたりする勤勉な日本人の“真面目さ”に対して、

人間なんだから間違いもあるしできないこともあるよ
所詮そんなものでしょ
気にするな。負けないで生きていこうよ

という達観のメッセージが込められていました。

それが、大衆の心を掴んだろうと思います。

「生きるって切ないね。でも、所詮そんなものでしょ」

クレージーキャッツのヒット曲『スーダラ節』を作詞したのは青島幸男さんです。

胸の病気で大学院をやめ、一時は死にたいとも思ったそうですが、人生は「どっちみちつらい目には遭うんだ」と吹っ切れ、そのときの解放感がクレージーの歌詞に結びついていると、娘の青島美幸さんは『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.28』で語っています。

青島美幸

 そんなクレージーの歌を作った父は若い頃に肺を患い、死にたいと思ったこともあったようです。でも結局、「どっちみちつらい目には遭うんだ」と吹っ切れて暗闇から青空が見えた。そのときの解放感がクレージーの歌詞に結びついているんだと思います。「生きるって切ないね」と言いながら、「でも、所詮そんなものでしょ。だから負けないで生きていこうよ」というメッセージが歌詞にこめられていますよね。
だから落ち込んだときに聴くと元気が出ます。私はいじめられっ子でしたが、中学3年生のときにクレージーが歌う父の曲で暗い気持ちが吹っ切れました。以来、私はスーダラ教の信者なんです(笑)。

つまり、クレージー・キャッツの笑いというのは、生きることを悟った笑いだったのです。

クレージー・キャッツが「大人の笑い」といわれる所以です。

世間に裏切られてもお調子者ぶりで切り抜けていく

だいぶ前置きが長くなましたが、『ニッポン無責任時代』の内容は、まさにそれを象徴しています。

主人公の平等(たいらひとし)は、たしかにお調子者ではあるけれど、一方では世間に裏切られ、足を引っ張られ、何度も挫折しながら、そのお調子者ぶりで切り抜けていく展開です。

世の中なんて汚いから、責任をもって世間に忠誠を尽くしても裏切られるかもしれない。

それよりは自分を信じて自分の思うように生きていこう、という意味での「無責任」なのだなあということがわかります。

一見、荒唐無稽な喜劇のようで、実は、「生きるって切ないね。でも、所詮そんなものでしょ。だから負けないで生きていこうよ」という、観る者に向けての強烈なメッセージが作品に込められています。

もちろん、50年以上も前の作品ですから、流行や文化に古さはあるかもしれません。

が、人間の本質に迫っているという点では、こんにちでも立派に通用する作品だと思いまです。

無理に心がける、建前やキレイ事の明るさではなく、人生のあらゆる出来事を真正面で受け止める「悟った明るさ」を本作から感じることができるのではないかと思います。

以上、『ニッポン無責任時代』(1962年、東宝)は、1960年代東宝映画の屋台骨を支えた人気シリーズクレージーキャッツ映画(全30作)の第一弾、でした。

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