高橋洋一さんの一連の問題ツイートについて、「エリート数学脳ゆえ」という批評。それに対して「そんな上等なもんじゃない」と批判が相次いでいます。医療崩壊を心配され、倒産など経済の停滞を含めての「コロナ禍」は決して「さざ波」ではないからです。
「エリートの数学脳」だからでなく、たんなる思い込みと認識不足
もとの記事は、日刊ゲンダイ。
『さざ波の次は“屁”ツイート 高橋参与のイラつかせる数学脳』というタイトルです。
例のツイートの話です。
高橋洋一さんが、9日に「日本はこの程度の「さざ波」。これで五輪中止とかいうと笑笑」とツイート。
批判を浴びその結果、内閣官房参与を辞任。
21日には懲りずにね「日本の緊急事態宣言といっても、欧米から見れば、戒厳令でもなく『屁みたいな』ものでないのかな」と投稿。
本人は「屁みたい」について、「日本の行動制限の弱さとの意味」と説明しています。
いずれにしても、「さざ波」同様、日本のコロナ禍を過小評価。
五輪開催ありきのIOCと菅政権の意向を代弁したとさらなる批判を浴びました。
さざ波の次は“屁”ツイート 高橋参与のイラつかせる数学脳 https://t.co/PpbwA8hBWR #日刊ゲンダイDIGITAL
— 石川良直 (@I_yoshinao) May 26, 2021
こうした放言について、心理学博士の鈴木丈織さんがこうコメントしています。
「数学脳とは、予測や結論に向けて論理を組み立てていく思考法。数学的データを重視するあまり、人間の感情などを軽視する傾向があります。高橋氏は五輪は開催すべきと結論づけているため、開催に対する国民の不安や不信といった感情は邪魔な存在なのです」
記事では、「東大理学部数学科を卒業後、東大経済学部から旧大蔵省に入省したエリート」であることも紹介されています。
つまり、日刊ゲンダの論旨は、エリートは「数字」だけで国民の「感情」がわからない、といいたいようですが、それはおかしいと思います。
たしかに、高橋洋一さんは、MMT(現代貨幣理論)は数式で調整のしきい値を算出していないからダメだ、つまり数式がないからダメだというようなことを言っていますが、逆に言えば、数字以外の判断ができない、という言い方もできます。
それどころか、MMT(現代貨幣論)についてはかねてから、「いくらでも国債を発行していい」などという、手垢にまみれきった中傷をしているので、数学脳も何も、そもそも知識のないまま軽々しく発言する軽率な人にしか見えません。
今回のツイート問題についても、さざ波という表現のさすものがそもそもずれているのです。
つまり、欧米に比べた統計的には小さい感染者の数字であることだけで論評できることではなく、病床の不足や、13.8%も増えた2020年度の倒産件数(7314件)といった、日常生活の困窮とそれに対する国民の不安や不満の問題を含めての「コロナ禍」なのです。
つまり、数字でしか判断できないどころか、一部の数字しか見ていない認識不足なだけです。
日刊ゲンダイのいう「エリートの数学脳」を「批判」するのではなくて、この人はそもそも物事の着眼点がおかしい、思い込みがある、ご本人が強調する「数字」とやらもちゃんと見ていない、ようするに「エリートの名が泣く体たらく」ということを指摘しなければならないのです。
数学脳と称した批判でこの記事は終わってる
Web掲示板のスレッドです。
【東大理学部数学科卒】 高橋洋一参与が人をイラつかせる「数学脳」とは [ベクトル空間★]
https://t.co/5DcplFgv48 pic.twitter.com/RMgtlg5Oim— 石川良直 (@I_yoshinao) May 26, 2021
主なコメントを引用します。
7ニューノーマルの名無しさん2021/05/25(火) 11:49:20.58ID:/rn4vP3Z0>>62
高橋を数学脳と称した時点でこの記事は終わってる。11ニューノーマルの名無しさん2021/05/25(火) 11:50:11.90ID:LhGMOrVE0
そんなに数学的データがあると言うなら五輪でコロナが拡散するリスクも数値化すればいい
現状の数字だけ見て「これからも大丈夫!」とか言ってるやつは夢想家であり数学脳ではない15ニューノーマルの名無しさん2021/05/25(火) 11:51:16.85ID:zmDpb5w20
この人数学云々いう高等なもんじゃないよ?23ニューノーマルの名無しさん2021/05/25(火) 11:53:03.17ID:9Ed24rjF0
>>1
別に数学で何かの足跡を残したわけではないのだから、
「数学脳」なんて御大層なこと言うのは間違いだな。28ニューノーマルの名無しさん2021/05/25(火) 11:53:49.08ID:nGG2iOmO0
>>1
日本人の新型コロナウイルスによる死者は1万2000人以上
中国死者数4600人韓国1900人台湾23人
ただ単に高橋洋一の考え方や発言が傲慢で不愉快なだけだろうよ
数学は関係ない
人間性の問題だ
菅内閣の支持率も高橋洋一の暴言で落ちてしまった事だし42ニューノーマルの名無しさん2021/05/25(火) 11:55:45.19ID:QbswnmWI0
自然界には様々の要素があるのに
特定のもの以外バッサリ切って単純化するのが数学モデルだから
その選択に恣意が混ざってると使い物にならない
まあこんな感じで、もちろん多様な意見は入っていますが、「エリート数学脳」ゆえの失言的ツイートというような「買いかぶった評価」はあまりなかったように思います。
日刊ゲンダイ。ちょっと記事作り失敗しましたね。
何でも数式で答えが出るという価値観
それはそうと、それをもって「数学脳」というかどうかはともかくとして、何でも数式で決めつけたがる考え方が存在することは嘘ではありません。
私は以前、ジャパンスケプティクスという疑似科学批判団体の運営委員や副会長をつとめていた期間がありました。
そのときにシンポジウムでお招きした、弁護士の紀藤正樹さんが、学生時代の寮で、「何でも数式で解決できる」と胸を張っていた数学専攻の学生が、女性を好きになったらいつしかそう標榜しなくなった、という話をされていたことを思い出します。
また、その役員をつとめていた時に、私が「超自然現象や疑似科学を調べる」というWeb掲示板を開いていたのですが、ある時、自分が「運が悪い」とボヤく書き込みがありました。
それに対して、「疑似科学否定派」気取り2名が、競馬や宝くじなどの確率を根拠に反論していました。
要するに、当たる人と外れる人がいるものだ、「いいこと」と「悪いこと」は客観的に説明がつく。
だから、「運が悪い」という思いなどは「ニセ科学(の温床)」だというのです。
しかし、数字(確率)は事象を客観的に見たものであり、一方、「運が悪い」という思いはその人の感じ方の問題だから価値意識の範疇にあるものです。
客観的認識と、価値意識というのは別のものでしょう。
たんに「どう思うか」はその人の自由です。
それを疑似科学というのはおかしい。
私がそう反論すると、そのうちの1人は、「(私が反論するのは)文系と理系の考え方の差だ」などと捨て台詞を書きこんで、掲示板から去っていきました。
要するに「理系の考え方」というのは、その人の主張に従えば、すべてを数字(の大小や有無など)に還元して結論付けるものらしい。
しかし、いずれにしても、なんでも専攻のせいにして、自分の書き込みの批評から逃げてしまうのは卑怯な態度だと思いました。
確率がどうだろうが、自分がそこに入れなかった(入ってしまった)ことを「運が悪い」と表現したとして、どこが「ニセ科学(疑似科学)」なのでしょうか。
「ニセ科学」というのは、いうなれば命題の真偽にかかわる事実から目をそむけたり、逆に本来の命題と論理的な整合性のない「事実」を強引に引っ張ってきたりする主張です。
つまり、事実の取り扱いに誤りがあることをさします。
今回の、高橋洋一さんの「さざ波」だの「屁」だのをそういうべきなのです。
事実を否定するわけではなく、自身の心の中でどう受け止めるかという点での「表現」や「思い」に対して、そうしたレッテルを貼る必要はないし、そういうレッテルを貼りたがる人に対しては、逆に「何でも数字だけで判断したがる人」とトンデモぶりを勘ぐることができます。
何が問われているかもわからず、思い込みに満ちた数字でやり込めるのは、それこそ「エセ数学脳」ではないでしょうか。
以上、高橋洋一さんの一連の問題ツイートについて、「エリート数学脳ゆえ」という批評。それに対して「そんな上等なもんじゃない」と批判、でした。
MMT 現代貨幣理論とは何か (講談社選書メチエ) – 井上智洋
直感力を高める 数学脳のつくりかた (河出文庫) [ バーバラ・オークリー ] – 楽天ブックス
コメント